ボッチャはイタリア語で「ボール」を意味する名前の通り、直径10cmほどの赤か青のボールを投げたり転がしたりして、目標となる白球(ジャックボール)にどれだけ近づけられるかを競う。手脚にまひや機能障がいのある比較的重度な障がい者のために、座ったままでも行なえるスポーツとして考案されたパラリンピック特有の球技だ。
ルールはカーリングに似ている。幅6mx長さ12.5mの長方形のコートを使い、例えば1対1で競う個人戦なら、1エンドで6球ずつを投げ、白球により近いほうに得点が入り、4エンドの合計点で勝敗が決まる。他にペア戦やチーム戦もある。
2016年リオパラリンピックで日本代表が、チーム戦で銀メダルを獲得したこともあって注目度も高まり、また、わかりやすいルールや座ったままでもできることもあって、誰もがチャレンジしやすい生涯スポーツとしても人気上昇中だ。
とはいえ、トップ選手の投球はミリ単位の精度にコントロールされ、1球1球に緻密な戦略が駆使された頭脳プレーの連続だ。用具の工夫や相手との駆け引きも欠かせない、奥深い競技でもある。
日本は初出場だった2008年北京パラリピックではチーム戦で予選敗退、2012年ロンドン大会では7位入賞だった。リオでのメダル獲得は、技術と戦略を高める地道な努力が実った格好だ。その陰には用具の進化も大きかったという。リオ大会のヘッドコーチを務め、現在は日本ボッチャ協会強化指導部長の村上光輝氏は明かす。
「選手にとって用具は体の一部であり、自分のやりたいことを表現する手段です。最大限のパフォーマンスを発揮するには用具とのマッチングが重要で、選手に合った用具を探したり、調整したりする。リオではそのプロセスがうまく機能しました」
工夫する用具の代表格はボールだ。赤6個、青6個、白1個の13個を1セットとして、トップ選手の多くは、「マイボール」セットを持ち、2~3セットを使い分けることもあるという。規定の範囲内ならば、大きさや柔らかさなどをカスタマイズできるからだ。例えば、重さは275gにプラスマイナス12gの範囲で調整できるので、自分に合うように詰め物の量を加減したりする。
また、素材には規定がないため、これもカスタマイズのポイントになる。同じ赤でも色が微妙に異なるのは革やフェルトなど素材の違いによるものだ。天然皮革は染料によっても硬さなど感触が変わり、転がり方にも違いが出てくるという。試合途中に化粧品用オイルを塗ることでも調整できる。投球にバリエーションができ、戦略の幅も広がっていく。
一方、人工皮革は湿度など環境による変化がないので手入れも楽だ。常に一定のパフォーマンスが期待できるので、こちらを好む選手も少なくないという。
こうして選手は自身の体やプレーの特徴なども加味しながら、6球の中で、「転がるボール」「止まるボール」など役割を持たせ、使い分ける。コートの床材もボールの転がりや滑り具合に影響するので、マイボールの中から自身の戦略やコートの状態、相手などを勘案し、1試合ごとに「これという6球」を選び出す。勝負はこの選択から始まっている。
「ボッチャの面白さはボールの使い分けができる点」と村上氏も強調する。ゴルフのクラブ選択にも似ているが、難しいのはボッチャでは各球一度きりしか使えない点だ。「ここぞという局面」で使いたいボールが手元に残せているか、プレーの組み立ても重要になる。さらに、握り方や腕の振りなどフォームでも微調整しながら、自身が思い描いた戦略を実現していくのだ。
ボール以外にも車いすやユニフォーム、一部の選手がボールを転がすために使う補助具(ランプ)や手の代わりをする棒(アームポインター)など、こだわる用具はいろいろある。
「用具を使いこなすために、選手は自分の得手不得手を知ることも大切です。用具はたくさんあるので難しくもあり、面白さでもある。好みのタイプだけでなく、いろいろ試して、よりフィットするものを探すのも勝利に必要なプロセス」と村上氏はボッチャの醍醐味を語る。
そんな奥深いボッチャの、世界クラスのプレーを堪能できる大会が、まもなく東京で開かれる。「2017ジャパンパラボッチャ競技大会」で、11月18日(土)から19日(日)まで武蔵野総合体育館(東京都武蔵野市)で行なわれる。ジャパンパラ大会は、日本代表の国際競技力強化を目的に海外の強豪国を招いている。ボッチャでは今回が初開催となり、リオのチーム戦金メダルのタイと古豪イギリスが初来日する。
ボッチャでは男女の区別はなく、選手は障がいの内容や程度に応じて4クラス(BC1~4)に分かれて競う。各クラスの個人戦に、ペア戦(各BC3、BC4)と3人1組のチーム戦(BC1とBC2の混合)があるが、今大会はチーム戦とペア戦のみが実施される。最新の世界ランキングではタイが日本より上位だが、今年10月に行なわれたワールドオープン・バンコク大会のチーム戦では、日本が王者タイを準決勝で下し、金メダルを獲得するなど、実力は伯仲している。今回もレベルの高い熱戦が期待できそうだ。
日本代表では今大会、緻密な杉村英孝、パワフルな廣瀬隆喜らリオのメダリストに加え、急成長を見せる若手2選手にも注目したい。ひとりはチーム戦メンバーで、19歳の中村拓海(たくみ)。アシスタントのサポートが受けられるBC1クラスだが、技の幅が広くパワーもあり、初代表となったバンコク大会での金メダル獲得に大きく貢献。
もうひとりは、BC4ペア戦に出場予定の江崎駿(えさき・しゅん)だ。まだ16歳の高校生だが、8月に行なわれた特別支援学校を対象にした全国大会、「ボッチャ甲子園」で、リーダーとしてチームを準優勝に導いた。両選手とも強豪国との対戦で多くを学び、さらなる成長を期待したい。
今大会は2020年東京大会も見据え、観戦初心者にもうれしい工夫がされている。会場はボールの色の違いがわかりやすい緑色の特設コートを1コートのみ作り、コートをぐるっと取り囲むように仮設席が設置され、臨場感あふれるプレーが楽しめる。さらに場内には実況解説放送も流される。選手のプレーに影響しない範囲で、「1球の意図」や「技のすごさ」などが解説される予定だ。
ボッチャは頭脳戦だけに、「静かに観戦」というイメージがあるが、実は、「野球やサッカーのように好プレーには歓声や拍手などで盛り上がり、選手を乗せてほしい」と村上氏は願っている。今大会は観客席で飲食も可能で、皆でワイワイ応援しながら、スポーツ観戦としての醍醐味も味わってほしい。
<大会名:2017ジャパンパラボッチャ競技大会>
日程:11月18日(土)~19日(日)
会場:武蔵野総合体育館(武蔵野市吉祥寺北町5-11-20)
観戦サービス: 実況解説放送、体験会(サブアリーナにて終日)、
会場内で出店あり(アリーナ内も飲食可)
インターネット中継: 大会サイトからネット配信の視聴可能 (Ustreamにて)
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
【Sportiva webサイト】
https://sportiva.shueisha.co.jp/
星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko photo by Murakami Shogo(人物), AFLO SPORT(競技)