「2022 IBSAゴールボール世界選手権」は12月7日から16日までポルトガル・マトジーニョスで男女各16チームがしのぎを削った。日本代表「オリオンJAPAN」男子は大会9日目の15日、準々決勝で東京パラリンピック銅メダルのリトアニアと対戦。善戦するも、4-6で敗れて最終順位6位で大会を終えた。今大会の上位2カ国に与えられるパリパラリンピック出場枠は優勝したブラジル、準優勝の中国がそれぞれ手にした。
開催国枠で初出場した東京パラリンピックで5位入賞と躍進した日本は今大会、「2位以内に入ってパリパラリンピックへの自力出場」を目標に掲げていた。今大会では予選グループCを勝ち点13(4勝2敗1分)の3位で通過。予選グループDを2位で通過したリトアニアと準々決勝で顔を合わせた。リトアニアは東京パラリンピック銅メダリストだが、日本は同大会の予選ラウンドで対戦し、10-2で勝利しているなど、いいイメージをもって臨んだが、あと一歩、及ばなかった。
東京パラと同様に準々決勝の壁に跳ね返される形となり、工藤力也ヘッドコーチ(HC)は悔しさをにじませた。「ここ数年の強化で、日本は本当に実力がついてきている。(リトアニアとも)現時点での力は5分5分だったと思う。だが、リトアニアというパラ常連国と日本では心技体の紙一重の違いがあり、流れをつかめなかった。この悔しさを次につなげ、準々決勝の壁を乗り越えられる、『真の実力』をつけたい」
本当に紙一重の試合だった。日本はセンターで主将の川嶋悠太、レフト金子和也、ライト佐野優人といういつも通りの先発陣でスタート。試合開始から両チームとも集中した攻防を繰り返すが、4分をすぎてリトアニアに先制される。さらに1分後、追加点も奪われ、2点のリードを許す。前半残り3分から日本が反撃。まず、金子に替わってレフトに入った宮食行次が1点、さらに佐野もポール際にねじ込み、2-2の同点で前半を折り返した。
後半序盤に点を取り合ったあと、試合は同点で膠着したが、残り3分からの攻防でリトアニアに強烈なクロスで2点をあいついで決められ、日本は4-6で敗れた。
センターで攻守の司令塔を担った川嶋キャプテンは、「互角に戦えたところもあり、世界のレベルに近づいていることは感じたが、決勝トーナメントで準々決勝の壁を超えられる実力では、まだなかったと痛感した。粘り強いディフェンスやフェイクなどチームとしての手ごたえもあったが、全試合を通してできるレベルになかった」と課題点を振り返ったうえで、「この悔しい経験を生かさないと意味がない。パリへの切符は次のアジア(・パシフィック選手権)で絶対に取りたい」と力強く誓った。
スピードボールや高低差のあるバウンドボールで得点を重ねた宮食は、「リトアニア戦では自分たちの力は出し切れて悔いなく戦えたと思う。個人的には、攻撃は攻めたい部分を攻めて得点できたし、持ち味の低いボールだけでなく高いバウンドボールも通用することが確認できた。課題は、あと一押しできる攻撃でのパワーと、苦手な手側の守備。悔しい気持ちから切り替えて、次の2回のチャンスに向け、すぐに練習したい」と前を見据えた。
工藤HCは、「相手がリトアニアと決まった時点で、分析班に急ぎで情報を集めてもらい、準備は万全だった」と振り返ったが、2本のペナルティスローのミスなど残念な取りこぼしもあり、「決めきれなかったメンタリティとテクニカルの部分を受け止めて、次に進みたい」と今後の強化について語った。
前回2018年の世界選手権は初出場で9位、2021年の東京パラリンピックも初出場で5位に入り、今年7月のアジア・パシフィック選手権では初制覇を果たした。進化の波に乗る日本男子は今大会でも試合を重ねるごとに存在感を増していった。
初戦は開催国ポルトガルとの大会開幕戦という難しい状況のなか、7-5と苦しみながらも勝ち切った。つづいて東京パラ金の絶対王者、ブラジル戦は前半に1-4とリードされながら、後半には宮食や佐野らの猛攻で5-5に追いつく。再びリードされるも、佐野に代わってライトに入った山口凌河のクロスで食らいつく粘りを見せたが、最後は6-8で屈した。攻守に貢献した佐野は、「チーム一丸となって、ブラジル相手にここまで戦えたことが嬉しくもあり、悔しさもある。次につながる一戦になった」と強豪との熱戦を振り返った。
その後、アルジェリア(12-2)、ベルギー(13-3)と2戦連続でコールド勝ちを収め、2-2で引き分けたトルコ戦をはさみ、強豪ドイツも11-1で退けた。最終カナダ戦も8-9と打ち合うなど海外に通じる攻撃力は示した。ドイツ戦の10得点などチーム最多の計24点を挙げた金子は、「映像を撮ってくれた分析班からの情報など、チームで取った得点」とチーム一丸を強調した。また、金子が先発し、途中で宮食と交代しながら、得点を量産するレフトの攻撃の有効性も示した。「二人の持ち味が違うので、ベンチがうまく交代で使ってくれる。『任せた』『任せろ』とお互いに信頼してプレーしている」と、同じコートには立たない「コンビプレー」で見せ場をいくつも作った。
引き分けに持ち込んだトルコ戦は予選ラウンドの大きなヤマだった。0-2と先制された苦しい展開から、途中出場の伊藤雅敏が1点を返す。トルコの猛攻を全員でカバーしあって後半を無失点でしのぎ、残り48秒で金子がレフトポール際に同点ゴールをねじ込み、貴重な勝ち点1をつかんだ。
競技歴24年の大ベテラン、東京パラ後に日本代表に復帰し、体力強化や守備姿勢の改善などに取り組んでこの世界選手権に臨んだ伊藤。ライトの控えとして7得点を挙げ、攻撃にアクセントを加える存在感を放った。「長くやってきたなかで、これまでになくチームとして手ごたえを感じた大会だった。具体的にはメンタル的に耐える力が強くなり、先制されても、『自分たちのやるべきことをやれば、勝てる』と皆が信じてやれている。これからが楽しみ。自分自身にも、チームにも期待して、さらに強化に取り組みたい」
世界の強豪チームには時速70㎞にも達するスピードボールや多彩な球種で翻弄するなど、一人で決めきれるエースを要するチームも多い。一方、攻守にわたってそれぞれの長所を組み合わせ、掛け合わせ、連係や機敏性など「チーム力」で戦うことを持ち味とする日本。
世界との「壁」は確実に低くなっている。実際、日本男子は11月末発表の世界ランキングで過去最高位となる6位に名を刻んだ。悲願のパリパラ出場権は来年開催予定のアジア・パシフィック選手権(開催日程・場所未定)、さらにパラリンピック出場ランキングトーナメント(8月/イギリス)で再挑戦する。工藤HCは力強く、宣言した。
「今の男子は守備も攻撃も、世界ランキング6位通りの力は持っていると思うので、パラ出場は決して夢の目標ではない。実力はついているので、あとはつかみ取る力だけ。今大会をいい経験ととらえて前だけを見て、選手だけでなくベンチも含めてチームとして成長したい」
個人として、チームとして、まだまだ伸びしろを感じさせる日本男子。今大会で味わった悔しさや重ねた経験は、次に世界を驚かすためのきっと大きな財産になるはずだ。
写真/吉村もと・ 文/星野恭子