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2023.04.12 一ノ瀬メイ ロングインタビュー
一ノ瀬メイさんインタビュー

“カテゴリー”を超えて「誰もが生きやすい社会へ」。リスタートを切った一ノ瀬メイが今、思うこと

1997年生まれの一ノ瀬メイさん。1歳半から泳ぎ始め、9歳でパラリンピックを目指して本格的に練習を開始し、13歳で初めて国際大会でメダリストになった。日本記録をいくつも塗りかえ、19歳で念願のリオパラリンピックにも出場したが、24歳で現役を引退。以来、講演会講師やテレビリポーター、ファッションモデルや俳優など、「肩書を聞かれたら、その時々の活動を答える」というほど、幅広く活躍している。

「引退の理由はいろいろありますが、一つは、『パラアスリート』というカテゴリーから抜けて、ただの一個人として話をしたいと思ったことです」

 

社会には人を分類する多様なカテゴリーが存在する。例えば、性別や人種、健常者や障害者など。生まれつき右腕の肘から先がない一ノ瀬さんは「幼い時から、ただ見た目だけで障害者とカテゴライズされることが嫌だった」と話す。9歳で本格的に水泳に取り組もうとスイミングクラブの競泳コースを目指したとき、泳力でなく右腕の障害を理由に断られた経験があるのだ。

 

だから、練習に励んだ。「同い年の両手両足のある子よりも速く泳げること」が、勇気や自信をくれた。水泳は「自分を守るための手段」だった。少しずつ実績を重ね、13歳という当時史上最年少でアジアパラ競技大会に出場し、50m自由形で大幅な自己新記録で銀メダルに輝いたとき、ようやく周囲から認められた感覚があったという。「これで十分かも。自分を守るための水泳は、これで終わり」

 

それでも、さらにパラリンピックを目指したのは、社会にはまだ、自分と同じように見た目だけで障害者とカテゴライズされ、居心地の悪い思いをしている人たちがたくさんいると気づいたからだ。水泳でもっと結果を残して、その人たちの分までと声を上げていこうと誓った。

 

一ノ瀬さんがずっと発信しているのは「障害の社会モデル」だ。障害はその人の身体の特徴や病気にあるのではなく、そうした特徴のために社会のなかで生きにくさを感じたり、差別を受けたりすることが障害であり、だから、社会のシステムや環境が変われば、障害の程度も変わるというという考え方だ。

 

「身体の障害だけでなく、LGBTQなども同様だと思います。それぞれ状況が違うから全く同じ思いにはなれないけど、話を聞くなかで理解し想像することはできます。誰もがもっと不自由なく暮らすにはどうなればいいのか、私も一緒になって考えたいし、少しでも不自由さが減るように、役に立てたらいいなと思っています」

 

水泳時代に経験した、パラアスリートとしての葛藤

しかし、現役時代は水泳を頑張れば頑張るほど、障害者というカテゴリーから抜けられないことも思い知った。そもそも、目指しているパラリンピックは何らかの障害のある人しか出られない。現役時代はもどかしく、葛藤の毎日でもあったという。

 

大学は近畿大学に進み、名門の水泳部に入った。水泳部史上初めての、そしてたった一人のパラ選手だったので、理解を深めるために、部員70名に対して「パラリンピックとは」「パラ水泳とは」といったプレゼンテーションを自ら行った。部員としてレベルの高い環境に身を置けたことは大きな力になった。しかしインカレ出場に目標を置く選手たちのなかで、一人だけパラリンピックを目標とし出場する試合日程が異なるため、練習日程も異なった。孤独な思いは常にあったという。

 

リオパラリンピック出場後、JSC(日本スポーツ振興センター)が始めた海外派遣強化選手に選ばれたことを機に、オーストラリアのクラブチームの練習に参加するようになり、近大卒業後の2019年、練習拠点を完全にオーストラリアに移した。オーストラリアではパラ選手と、いわゆる健常の選手たちが当たり前に一緒に練習していたし、初めて自身と同じ障害クラスの強豪選手たちと切磋琢磨できた。街を歩いても過度に注目されることもない。

「なんてメンタルが楽なんだろう」と感じる環境のなかで、東京パラリンピック代表を目指し、懸命に取り組んだ。だが、他の多くのアスリート同様、コロナ禍の影響を大きく受け、強化プランが揺らいだ。正規の代表選考会には出場がかなわず、オーストラリアで急遽、代替レースに臨んだが、代表を逃した。

 

だが、「シンプルに、アスリートとして全部やった」と思えたし、最後のレースもタイムは出なかったが、「100%やった」と思えた。「もう一度チャンスがあったとしても、同じ練習をする。それしかできない」と思ったとき、引退を決めた。悔いはなかった。

 

“水泳じゃなくてもいい”。初心に戻って、リスタート

引退を強く意識したのは東京大会の1年延期が決まったときだ。「なぜ水泳をしているのか」と自分自身に何度も問いかけて、思い出したのが初心だった。

 

もともと「障害があるから、何もできない」と決めつけられるのが嫌だった。自分と同じような立場にある人たちも傷つかないように社会に対してメッセージを届けたい。それが一番の目的であり、その手段として取り組んできたのが水泳だった。「それなら、水泳じゃなくてもいい。もっと自分が心から楽しめることで、同じ目的に向かって活動していこう」

 

引退後は精力的に発信活動を行っている。その一つが、ファッションモデルの仕事だ。これまで雑誌や広告で、自分のような片腕が短い人は見たことがなかった。だから、そこに自分が出ることで、「人と違うことも美しい」「ユニークな美しさが一人ひとりにある」と伝えられるのではないかと思っていた。

 

さらに、「言葉を介さずにメッセージを伝える力がある」とも感じていた。言葉での伝達は使う言葉によって誤解を生んだり、表現しきれなかったリ、限界がある。現役時代には泳ぐ姿で何かを伝えられている手応えもあったが、引退後は講演会や取材など言葉での発信に限られていた。水泳の次のステップとして「モデルをやりたい」と言い続けていたら、少しずつチャンスが巡ってきた。

嬉しかったことがある。一ノ瀬さんの右手は短いが、指があり、爪もある。ある撮影現場のメイク担当者が気づいて、当たり前のようにマニュキュアを塗ってくれた。その状況を俯瞰したときに、「自分がナチュラルに、そこに存在している」と感じられ、「新しい風が吹いている」と思えた。

 

「パラアスリートや障害者のために用意された枠を私が埋めるのではなくて、誰がやってもいい、誰でもできる枠に、私が入ることに意味があると思っています。あのネイルは、すごく嬉しかったです」

 

多忙な毎日のなか、一ノ瀬さんが一番大切にしているのは、「今」だ。現役時代は、目標の大会から逆算して過酷なトレーニングを重ねる日々だった。あの頃のような「未来の目標」ではなく、「今を起点にして、この瞬間の幸せに意識的でいたい」と思うようになったという。

 

引退してスイマーとしての毎日はもちろん、目標も所属先も、パラスポーツというコミュニティも一気に手放した。改めて自分自身とだけ向き合っていくうちに、自分にとっての心地よさに気づいた。「自分の本当の気持ちと行動を1本の線に乗せて生きていく。その心地よさこそが、活動をつづける持続可能なパワーだと感じています」

 

穏やかにほほ笑む瞳が、きらきらと輝いていた。

 

写真/村上庄吾・ 文/星野恭子

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