WPA(世界パラ陸上競技連盟)公認の「2023愛知パラ陸上競技フェスティバル」が4月16日、愛知県一宮市のいちい信金スポーツセンターで開かれた。来年のパリ2024パラリンピック出場を目指す伸び盛りの若手選手も参加。今回は、それぞれのクラスで男子100mと走幅跳に出場した2人のアスリートに注目した。
片大腿義足T63クラスの近藤元(摂南大)は、昨年に続きエントリー。男子100mを追い風参考ながら13秒15(+2.2)で走って連覇を果たし、走幅跳は自己ベストには届かなかったものの、6m02(追い風参考+2.3/公認記録は5m96)で優勝を飾った。
2000年生まれ。中学1年で陸上を始め、大学の陸上部では短距離の選手として活躍していた近藤は2020年12月、交通事故で右脚のひざ上から切断。翌年10月に退院し、大学に復学した。入院中に東京2020パラリンピックで限界に挑むアスリートの姿を観て、「義足でこれほど走れるのか」と衝撃を受けたという近藤。のちに、日本代表の山本篤(新日本住設)が企画した競技用義足の体験会に参加したことを機に、パラリンピックを意識するようになった。
筋力トレーニングやスタート練習など地道に努力を重ね、公式戦に出場するようになった近藤。100mは14秒台半ばのタイムをコンスタントに出せるようになり、昨年5月のジャパンパラ競技大会、6月の日本選手権を経て、7月の愛知パラ陸上競技フェスティバルではついに13秒台(13秒96の大会新記録)をマーク。競技用義足で走り始めてから、わずか9カ月後のことだった。
走幅跳については、パラ陸上転向後に始めたため「まだまだ経験を積んでいって、分析が必要」と話すが、みるみるうちに踏切技術を吸収し、3月には自身初の6m台をマークするなど順調に記録を伸ばしている。
「このクラスは両種目とも篤さんがぶっちぎり(の成績)だったけれど、ようやく同じ土俵に立てるようになったかなと思っている。これから面白い戦いを、みなさんに見せられたら」
22歳の新星は、偉大な先輩の姿を追いかけながら、さらなる高みを目指していく。
視覚障がいT12の男子走幅跳では、石山大輝(順天堂大)が輝きを放った。朝から強風が吹き、コンディションづくりが難しいなか、3回目で6m87を跳び、優勝を果たした。今年2月から助走の走り出しをゆったりとしたことでリズムがとりやすくなり、安定した跳躍につながっているという。
2000年生まれの石山は、中学で陸上をスタート。中学では走高跳、高校では三段跳を専門とし、インターハイにも出場している。高校時代に先天性の網膜色素変遷症と診断され、「まわりがすりガラス的に見える」という。大学に入ってから選手発掘事業「J-STARプロジェクト」(5期生)に挑戦。パラ種目には三段跳がないため、同じ跳躍種目の走幅跳に取り組み始めた。パラ陸上の大会デビューは昨年6月の日本選手権。クラス分け未確定のため公認記録にはならなかったが、視覚障がいクラスでもっとも軽いT13で日本記録を上回る7m03を跳び、一躍注目を集めた。
今年2月末から3月にかけてUAEで開かれたドバイグランプリで国際大会初出場を叶えた石山は、大会前の国際クラス分けを受検し、「T12」で確定した。この大会で100mでは11秒18(追い風参考+3.4)で銀メダル、また走幅跳では日本新記録となる6m93をマークして金メダルを獲得した。走幅跳のこの記録は、東京2020大会の結果に当てはめると4位相当の大ジャンプだ。だが、石山本人は「クラスが確定したのはよかったけれど、T13からT12になったから有利だとか、世界と戦える可能性が増えたとは思っていない。自分がやることは変わらない」と、冷静に捉えている。
今春、愛媛県の聖カタリナ大を卒業し、順天堂大学大学院のスポーツ健康科学研究科に進学した。初めての一人暮らしに四苦八苦しながらも、恵まれた練習環境をどう活かすか、自分なりに工夫をしているところだという。現在、走幅跳については三段跳で培った助走テンポを参考にしながら自分なりの跳躍を模索し、まずは「7m」台の跳躍を目指していくとしている。
「自分にできることをして、記録を伸ばしていきたい。これからも陸上を楽しんでいければ」と、笑顔を見せていた石山。今後の飛躍が楽しみだ。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴