テニスの全仏オープンは、6日から車いすの部がスタートする。昨年、当時世界ランキング9位ながらドローが拡大したこの全仏でグランドスラムデビューを果たし、男子シングルスでベスト4の成績を残した小田凱人(東海理化)。その後、急成長を遂げ、今年は第2シードで大会を迎える。男子世界ランキング1位で第1シードのアルフィー・ヒューエット(イギリス)とのポイント差は、わずかに「45」(6月6日現在)。互いに順当に勝ち上がり、小田がヒューエットに勝利すれば、史上最年少(17歳1カ月2日)での世界ランキング1位達成となる。
2日、小田は大会に向けて出国する前に、羽田空港で囲み取材を実施。現在の心境を語った。
──今大会は世界ランク1位がかかっています。心境を教えてください。
それを目指してやってきました。試合に入った時に緊張するのか、ラケットをガンガン振ってプレーできるのか。どういうプレーをするのか自分への期待も高いです。決勝戦の展開や優勝する瞬間は自然に想像していて、自分はそれだけ求めているんだな、と改めて気づきました。そのイメージをどう現実にしていくか、楽しみですね。
──全仏に向けて、どういった部分を強化してきましたか?
クレーコートはハードコードよりもチェアワークスキルが求められます。この2週間ぐらいは、地元・愛知のクレーコートやNTC(ナショナルトレーニングセンター)で強化してきました。土の上なので、やはり車いすが横滑りしたりする。パワーのある選手ならそこから巻き返せるけど、自分はまだそこまで瞬発的な馬力がないので、なるべくロスをしないように円を描く動き方をイメージして、車いすを漕ぐことを意識しました。車いすも全仏仕様で臨みます。少し溝の深いタイヤに変更して、空気圧を上げて。キャスターもハードコートだと新品を使うけれど、尖っている分、クレーでは掘る感じになって埋まってしまうので、少し使ったものに変えるなど工夫しています。
──コンディションはどうですか?
ショットの質やキレは、練習をすればするほど上がっていった感覚がありました。やれることはすべてやったので、自信を持って挑めると思います。ただ、練習の完成度というのは準備としてはもちろん大事なんですけど、自分としては試合を通じていろんなことを学んでアジャストしていくタイプだと思うので、そこは大会が始まってからしっかりと調整していきたいと思っています。フィジカル面では、去年から地道にトレーニングしてきたことが、ようやく最近プレーに表れていると感じます。
── NTCでは、昨年の全仏王者で1月に引退された国枝慎吾さんと一緒に練習されていました。何かアドバイスやメッセージはありましたか?
国枝さんから何か少しでも学びたいと思って、僕から「全仏の前にクレーコートで練習してください」ってお願いしました。当たり前ですけど、めちゃめちゃ強かったです。結果はちょっと言えないです(笑)。国枝さんからは、クレーならではのプレーについてのアドバイスをもらいました。また、僕がアルフィーに負けが続いていて、勝ちたい気持ちが空回りしていたところがあって、自分なりにどんな工夫が必要なのか、何か変えたほうがいいのか少し悩んでいたんですが、国枝さんに「考えすぎなくていいんじゃないの」と言ってもらって、改めて自分のプレーをすることが大事なんだと気づかせてもらいました。
──全仏に向けてクレーコートの前哨戦に出場する選択肢もあったなかで、日本での練習を選んだ理由は?
全仏に向けて調整するなら、何も考えなくていいストレスのない状態で練習する方がいいのかなと考えました。前哨戦が2大会あって、3大会目の全仏にピークを持ってくる選択肢もありましたが、今回はフルパワーで挑んだ方が勝つチャンスが上がると思って日本での練習を決断しました。最年少の世界ランク1位というのがかかってなければ遠征に行っていたかもしれませんが、日本で練習時間をかなり確保できたし、しっかり準備できたので、そこは本当によかったなと思います。
──小田選手を含め、クレーコートを得意とする選手は多くいます。そのなかで小田選手が勝ち上がって行くためには、どんなことがポイントになるでしょうか。
クレーだと、強みであるパワーショットを自分で合わせにいかなくても自然とフィーリングが合うので、大きな武器になると思います。それに、スピンサーブなど回転が強くかかったボールはハードコート以上に効果的に使えると思います。アルフィーはクレーで勝ちまくっているイメージはないけれど、ここ最近は調子がいいし、グランドスラムも連勝しているので怖さはないでしょうね。一方の僕は、負けが続くとメンタル的に考えすぎてしまうので、そこで少し劣っていると思う。ただ、勢いでは絶対に負けないと思うので、一回波に乗ったら(勝利に)持っていける自信はあります。その波をどのタイミングで掴み、相手を支配できるか。わりと最初でつまずくことが多いので、気をつけながらやりたいです。
──今回の全仏は、最年少世界ランク1位やグランドスラムの最年少制覇といったさまざまな記録がかかっていますが、これは小田選手が昔に思い描いていたよりも早いですか?
思っている以上に早くランキングが伸びた感覚があります。ただ、自分としてはテニスの完成度、満足度で言うと、まだそのランキングに追いついてないと感じています。そこは世界ランク1位になっても変わらずコツコツ練習し、自分の“理想のテニス”を追い求めたいですね。
──会場のローランギャロスは、来年のパリ2024パラリンピックと同じです。少し意識するところはありますか?
そこまで意識はしていませんが、パリにつなげていくつもりではあります。今回、しっかり勝てば印象はよくなるし、パラリンピックへの準備になる。そういう積み重ねをして、自信を深めていきたいですね。
取材・文・写真/荒木美晴