6月9~20日にUAE・ドバイで開催された車いすバスケットボール世界選手権。2大会ぶりの出場となった女子日本代表の戦いをふり返る。まずグループリーグでは、開会式の翌日10日にアルジェリアとの初戦を70-36で快勝し白星スタート。そして12日、第2戦では今大会最初の大一番、東京2020パラリンピック銅メダルのアメリカと対戦した。岩野博ヘッドコーチ(HC)が「日本の現在地を知る意味で大事な一戦」と語っていた日米戦をレポートする。
車いすバスケットボールが大学スポーツの一つとして確立され、全米大学選手権が行われるなど、スキルを磨き、実戦を経験する環境が整えられているアメリカは、人材も豊富で競争力も高く、戦力には事欠かない。激しく選手が入れ替わりながら常に安定した力を持っており、車いすバスケットボールにおいても、まさに「大国」と言うにふさわしい。今大会でも、東京パラリンピックの金メダル・オランダ、銀メダル・中国と並んで優勝候補の筆頭に挙げられていた。だからこそ、岩野HCは東京パラリンピック以降、再建してきたチームの世界における“現在地”が最も見える試合として重要視していた。
すると開始早々、アメリカが主導権を握った。日本のシュートがリングに嫌われ、アメリカがディフェンスリバウンドからの速攻で得点を重ねていったのだ。日本はわずか3分間で2-10と大きく引き離された。
そんな窮地を救ったのが、網本麻里(4.5)だった。ベンチスタートだった網本は、1Qの前半でコートに入ると、果敢にダイブしてペイントエリアに相手ディフェンスを引き付け、アウトサイドからのシュートを演出。さらに少しでも隙があれば、積極的にドライブで切り込んで自ら得点と、チームに勢いを与えた。これによって日本の得点が入り始め、リバウンドから速攻に走られるという嫌な流れを断ち切ることができた。
すかさずアメリカは、金メダルに輝いた16年リオパラリンピック以来の代表復帰を果たしたベテランのベッカ・マレー(2.5)を投入。すぐに流れを引き戻し、1Qの終盤から2Qの序盤にかけて7連続得点を挙げて日本を引き離した。ただ日本も単にやられていたわけではなかった。2Qの序盤にはアメリカから24秒バイオレーションを奪い、オフェンスでも途中出場の土田真由美(4.0)が指揮官の期待に応え、短いプレータイムにも高確率でシュートを決めた。
さらに2度の8秒バイオレーションを奪ったゲーム後半には、柳本あまね(2.5)が2本の3Pシュートを含む10得点を挙げるなど、強豪アメリカに食らいついた。だが、1Qで8点と1ケタに抑えられていたアメリカとの差は、2Qで13点、3Qで24点、そして最終的には46-76と30点差にまで開いた。
岩野博HCが「アメリカとこれだけやれたというのは収穫の方が大きい」と語る通り、内容的には日本の攻防はスコアほどの差はないようにも見えた。例えばオフェンスではしっかりとシュートにまでもっていくことができていた。フィールドゴール(FG)のアテンプト(シュート数)は68とアメリカの66を上回っていたのが何よりの証だろう。さらにターンオーバーもアメリカが8に対して日本は6と抑えられている。決してアメリカのワンサイドゲームではなかったのだ。
それでもスコアが大きく開いたのはなぜだったのか。もちろん、オフェンス、ディフェンスいずれも細かい修正点はあっただろう。しかし、最大の要因はやはり東京パラリンピック前からチームの課題としていたシュート力にあった。FG成功率が27.9%と上がり切らなかったのだ。岩野HCが「それほどタフショットが多かったわけではない」と述べていることからも、しっかりとシュートシチュエーションは作れていたが、フィニッシュが決められなかった。そのため相手にやられたというより、どちらかと言えば自分たちで首をしめてしまったという印象が強かった。その点、アメリカは試合を通して安定していた。1Qから52%と高確率で決めると、2Qは51%、3Qでは59%にまで上げ、最終的には56%と日本との差は歴然だった。
もちろんアメリカの強いコンタクトと高さは、日本を苦しめた。一方でアメリカも日本の最後まで諦めずに走り、手を伸ばし続ける粘り強いディフェンスは決して楽ではなかったはずだ。そうした高い強度の中で、いかにコンスタントにフィニッシュを決め切るか。30点差はそこにあった。
ただ「この段階まできた」という手応えは感じていたはずだ。そして、収穫も少なくなかった。まずは相手がこれまで以上に脅威を感じるシューターとして成長を見せた柳本の存在だ。初戦のアルジェリア戦で20得点を叩き出した柳本だが、アメリカ戦でも16得点と実力を証明。いずれの試合でも武器とする3Pシュートも決めている。
また、これまでアウトサイドのシュートにほぼ専念してきた土田が、アメリカを相手に果敢にダイブし、ペイントエリアで得点を決めたことも大きい。土田自身も「プレーの引き出しが増えた」と手応えを感じており、もともと高確率で決めるミドルシュートに加えて、インサイドにも強さを持ち始めた。ハイポインターの土田がダイブすることで彼女自身の得点だけでなく、相手ディフェンスを引きつけることによって、柳本や萩野真世(1.5)といったミドル、ローポインターを含め、味方のアウトサイドでのシュートシチュエーションも作り出すことができた。
その巧さをアメリカ戦で見せたのが、チーム最多のアシスト数(9)を誇った網本だ。ボールハンドリングの巧さと突破力がある網本が入ることによって、アメリカのディフェンスを崩すことができていた。
そしてもう一人、今後への大きな可能性を見出したのが、チーム最年少の江口侑里(2.5)だろう。海外勢にもひけをとらない高さを持つ江口は、これまではペイントエリアでのプレーが主だった。しかしシュートレンジを伸ばし、今ではフリースローラインの距離のシュートを武器としている。そのためミスマッチの状態が作りやすく、アメリカ戦でも立て続けに江口にシュートチャンスを与えるようなセットオフェンスが決まっていた。
得点こそ最初の1本目のみにとどまったが、シュートタッチは決して悪くはなく、江口自身もいい感触を得たのではないか。岩野HCも「高さを生かした侑里のアウトサイドシュートは一つの武器になるという手応えはつかんだ」と高く評価。ハーフコートに引いて守る相手に対しての大きな得点源となることが期待される。
「Fearless ~地獄の40分間の その先に~」をチームスローガンに掲げる女子日本代表。怖れることなく挑み続けた結果、決勝トーナメントに進出。次は、死闘を繰り広げた中国との準々決勝をレポートする。
写真・文/斎藤寿子