全仏オープンで車いすテニスの男子シングルスを史上最年少の17歳で制し、世界ランキング1位を達成した小田凱人選手が20日、凱旋帰国した。到着ロビーで大勢のファンから祝福を受けたあと記者会見に臨み、「みなさん、こんにちは。世界ランキング1位の小田凱人です。これが言いたくて」と、第一声で会場を盛り上げた小田選手。緊張感に満ちた決勝戦の振り返り、快挙達成の心境、子どもたちへのメッセージのほか、憧れの先輩・国枝慎吾氏の存在、7月のウィンブルドンや今後の目標について、たっぷり語ってくれた。
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────国枝さんと大会後に話をされましたか?
日本で解説をされていたので、コートインタビューで会話する機会がありました。決勝戦の前の週に、国枝さんに一緒に練習をしてほしいとお願いして、その時にいろんなアドバイスをしてもらって、試合に生かすことができました。それを国枝さんから褒めてもらって嬉しかったです。これまでずっと追ってきた国枝さんが引退されて、1位の座がイギリス人選手にわたって、それをすぐに日本人が取り返して。1位は渡さないぞ、という気持ちがモチベーションでもありました。
────その大会前の練習で、国枝さんは「クレーの奥義を小田選手に教えた」とおっしゃっていました。どういったことが決勝に活かされたでしょうか。
国枝さんから伝授してもらったので表には出せないです(笑)。決勝戦を見てもらえれば、それまでの違いが分かると思います。クレーの戦い方も違いますし。クレーは車いすが進まない分、自分の攻撃的なショットがより効きやすくなるので、攻撃的なというところだと思います。
──── 国枝さんの単複あわせてグランドスラム50回優勝について、この50という数字はどうみていますか?
現役生活が続くなかで数字が近づけば意識するかもしれないですけれど、50かぁ……っていう感じです(笑)。長い道のりだなと感じます。
────国枝さんは、車いすテニスをエンタメとして魅力的なものにしたいという目標を掲げていました。小田選手はどんなふうに発展させていきたいですか?
ここ数年で、日本でも車いすテニスのことが多くの方に知られるようになりました。でも、競技は知っているけれど、試合を観たことがないという人は多いと思います。最近は一般のテニスと変わらないワンバウンドでの返球がメインですし、速いテンポでテニスをするというのが主流になっていると思うので、それを観てもらえれば、車いすでもこんなに速いボールが打てるのかとか、こんなに速く動けるのか、と思ってもらえるのではないでしょうか。そういう想像を上回るようなプレーは、僕ならできると思います。そこはこれからも意識したいですし、車いすテニスの競技の進化をみてもらいたいです。
────国枝さんが、「小田選手には新しい車いすテニスの世界を彼自身が作っていってほしい」とおっしゃっていました。これまで国枝さんの後継者と言われていたことについて、どう思っていましたか?
後継者だったり、海外ではネクストシンゴと言われたりすると、すごく嬉しいです。でも、「おれは小田凱人なんだ」という感情が少しはあって。国枝さんも、国枝慎吾2世ではなくて、小田凱人としてこれからは(頑張れ)と言ってくれていると思います。自分も車いすテニスの小田凱人という伝わりかたをしてほしいし、それだけの結果を残さないとダメだなという責任も感じています。
────全仏オープン直後のフレンチリビエラオープンでは、準決勝でスペインのマルティン・デ ラ プエンテ選手に敗れました。群雄割拠の男子ですが、これからさらに実力が接近していくと想像しています。小田選手は現在の男子の勢力図をどうみているのか、また勝ち続けるためにどういう努力をしていきたいですか?
本当に今のトップ10の選手はレベルが高くて、誰が勝ってもおかしくないという状況にあると思います。そのなかで世界ランキング1位になったことで、心境の変化というか、少し意識はしちゃいます。でも、20代30代の選手やベテランの選手が多いなかで僕はだいぶ年下で、経験値や場数で劣る部分があるなかで戦うのは正直怖いですし、すごく孤独な感じもあります。ただ、自分なりの勢いだったり、キレ、ボールのスピードなど、オリジナリティは負けない自信はあるので、それを武器に勝負をしていきたいし、これから徐々に経験値を上げていきたいと思っています。これからは(より相手が)勝ちに来ると思うので、それをいかにこれまでと変わらない心境でできるか、意識しすぎずプレーできるかが、今後の戦いには重要かなと思います。
────このフレンチリビエラオープンでは何がうまくいかなかったのでしょうか。
相手の調子がものすごく良かったし、全仏で対戦していたので、対策されていたなと思います。ただ、大事なのは全仏だったので、そこで負けなくてよかったなという感覚のほうが大きいです。
────ウィンブルドンはグラスコートですが、どういった対策をしますか?
芝なのでボールが滑りやすいし、クレーコート並みに車いすを漕ぎづらいという特徴があります。ただ、サーフェスに関係なく、全仏同様にとにかく相手に主導権を握らせないことが重要だと考えています。全仏では始まった時から最後のポイントまでやるべきことを貫けたので、それが勝ちにつながりました。それをウィンブルドンでもできれば勝てるし、できなければ負ける、ということだと思います。基礎練習をコツコツとやりながらしっかり準備して、試合ではそれをすべて出し切りたい。それが、勝ちへの道だと思っています。
────気が早いですが、これから年間グランドスラムなどのチャンスがあると思います。そこへの意識はいかがですか?
年間グランドスラムについては、今はそれほど意識していないです。今はウィンブルドンのタイトルを獲るということが目標で、それを積み重ねていくことが年間グランドスラムにつながると思っています。段階を踏んで目標を立てていますので。また、パラリンピックは4年に一度なので、貴重な舞台になるし、一番意識している部分ではあります。グランドスラムは年に4回あるので「何回獲れるか」がモチベーションになるし、今はどこまで行けるか楽しみです。このまま進化していければ目標は達成できると思っています。
────今後の目標を聞かせてください。
世界一とグランドスラム優勝は達成できました。あとは、世界ランキングをどれだけ維持できるか、またグランドスラム優勝はこれから何回できるかを目標にしています。これまでは「俺ならできる」と思ってやってきたけれど、今回優勝して、「俺にしかできない」というふうに、モチベーションが変化しつつあります。これからは自分にしかできない、という気持ちで頑張りたいと思います。
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写真・ 文/荒木美晴