近年、多くの種目で競技レベルが向上し、記録の伸びが著しいパラ陸上。その世界ナンバーワンを決める最高峰の舞台、「パリ2023世界選手権」が7月8日から17日まで、パリのシャルレティ・スタジアムで開催される。来年のパラリンピック開催地、パリで開かれる今大会は4位以内に入れば、パリパラリンピックの出場枠が所属する国に与えられる特別な大会だ。
171種目が実施される今大会には世界107カ国から約1330人(大会公式サイトより)の“超人たち”がエントリー。来年に迫るパリパラリンピックもにらんだハイレベルなパフォーマンスには新記録ラッシュの期待も高い。パリ切符獲得に挑む日本代表は37人。メダルの期待が懸かる種目も多く、精鋭ぞろいだ。ここではトラック編をお届けする。歴史が動く瞬間を見逃すな!(*文中の世界ランキングは国際パラリンピック委員会公式サイトより。期間は2023年1月1日~6月30日)
陸上の花形、100mには男女合わせて6名が登場する。まずは3クラスコンバインド(混合)で行われる同T45/46/47(上肢障がい)に注目だ。東京パラリンピック400mで5位入賞のT46(上肢障がい)、石田駆(TOYOTA自動車)は昨年6月に、日本新記録10秒94をマークしている。これは今季世界ランキングで7位に相当する。「4位以内でパリパラリンピックを決めたい」と石田。また、初出場となるT45三本木優也(京都教育大)も同じレースで樹立した10秒90の日本記録を持ち「7月にこれまでの競技人生で一番のパフォーマンスをしたい」と意気込む。二人とも持てる力を強豪たちとの競り合いで発揮できれば、上位進出も期待大だ。
男子T54(車いす)の東京パラ代表、生馬知季(GROP SENCERITE WORLD-AC)も今年、勢いがある。5月にマークした13秒93は約8年ぶりに100mの日本記録を塗り替えるとともに、今季世界ランキングで4位につけた。新日本記録ホルダーの誇りで、決勝進出から表彰台もうかがう。400mにも出場する。
T52の伊藤竜也(新日本工業)は世界選手権初出場だが、2018年アジア大会の金メダリスト。100mの今季ベスト17秒14は世界ランキング2位、400m(1分2秒13)も同4位と、表彰台も見据える。
女子はまず、今年複数種目で記録を伸ばしている新星、T34(車いす)の小野寺萌恵(北海道・東北パラ陸上競技協会)に注目だ。100mの今季ベスト18秒46は今季世界ランキング3位で、800m(2分15秒77)も同7位。世界選手権デビュー戦で世界を驚かせる。
アルペンスキーとの二刀流で、100mでは東京パラ6位のT54村岡桃佳(TOYOTA自動車)にも期待がかかる。今季は順調にタイムを伸ばし、5月には日本新記録(16秒43)を樹立した。今季世界ランキングは8位だが、パラ陸上では初出場となる世界選手権で、豊富な国際経験を武器に上位進出を狙う。800mにも出場する。
400mも見逃せないレースがつづく。T13(視覚障がい)の福永凌太(中京大クラブ)は4月にマークした日本新記録(48秒34)が前回優勝タイムを上回り、今季世界ランキングでも2位につける。約3年前までは十種競技で学生陸上で活躍していた新星が、ついに世界の大舞台へ乗り込む。
T36(脳原性まひなど)松本武尊(AC・KITA)は7位入賞の東京パラ後、日本記録(55秒90)をマークした。今季ベスト(57秒28)も世界ランキング5位につけており、表彰台を見据える。
T52(車いす)は世界記録保持者で東京パラ二冠の佐藤友祈(モリサワ)に注目だ。今季ベストは400m(56秒34)が2位、1500m(3分32秒30)が1位で、王者の走りを披露するつもりだ。同じく東京パラ銅の上与那原寛和(SMBC日興証券)も同じ2種目にエントリー。日本のレベルを見せつける、ワンツーフィニッシュにも期待したい。
女子はT47(上肢障がい)日本記録(58秒45)を持ち、東京パラ5位の辻沙絵(日本体育大学)と、T13日本記録(日本記録(58秒45)を持ち、東京パラ7位の佐々木真菜(東邦銀行)がパラリンピック連続出場を見据える。今季ベストは冬季練習でスピード強化に取り組んできた辻が59秒9で世界ランキング2位、小柄ながら大きなストライドで伸びやかな走りを磨いてきた佐々木は58秒62で5位につけている。「世界の選手と走って、より力を引き出せるようなレースにしたい」と佐々木。東京パラ代表のT38(脳性まひ)高松佑圭(ローソン)、世界選手権初出場のT20(知的障がい)菅野新菜(みやぎTFC)はファイナリストを目指し、世界に食らいつく。
激しい競り合いや駆け引きも見どころの中・長距離もメダルの期待が高い。最有力はT11(視覚障がい)男子で、東京パラメダリストの和田伸也(長瀬産業)と唐澤剣也(SUBARU)が1500mと5000mで再び世界に挑む。1500mの今季ベストは和田が3位(4分8秒69)、唐澤が4位(4分9秒53)、5000mは和田が3位(15分24秒04)、唐澤が1位(15分8秒38)と、ともにメダル圏内だ。
T20(知的障がい)1500mには赤井大輝(ワークマン)、十川裕次(大分陸上競技協会)、岩田悠希(KPMG)の男子3人と、女子の山本萌恵子(愛知陸上競技協会)がエントリー。全員決勝進出を果たした東京パラにつづく世界への挑戦でメダルを目指す。今季ベストは十川が3分54秒46で世界ランキング3位とリード、山本も4分51秒27で5位と好調だ。
T54(車いす)では東京パラ代表の鈴木朋樹(TOYOTA自動車)が800mと1500mの2種目でファイナリストを目指す。5000mはT54(車いす)東京パラ代表の久保恒造(日立ソリューションズ)とトラック種目では初代表となる吉田竜太(SUS)の二人が、強豪たちとの競り合いから決勝進出を狙う。
陸上競技唯一の“チーム戦”であるリレーは国際大会ならではの醍醐味であり、パラ陸上のユニバーサルリレーは「多様性とチームワーク」も大きな見どころである唯一無二の種目だ。障がいの異なる男女各2人の4選手がバトンでなくタッチでつなぐのが特徴で、走順も1走から視覚障がい、切断・機能障がい、立位の脳原性まひ、車いすの順でチーム編成しなければならない。男女の走順は自由だが、各障がいで最も程度の軽いクラスの選手は1チーム2人までという規制があるため、各国の編成や戦略により、フィニッシュするまで勝負が分からないというワクワク感もある。
今大会では個人種目同様、上位4チームにはパリパラ出場権が与えられるが、東京パラ以降、新しいデータが少ない種目だけに勝負の行方は未知数だ。世界記録(45秒52)をもつアメリカ、アジア記録(46秒02)をもつ中国は頭一つ抜けていそうだが、3位以下は日本をはじめ、イギリスやドイツなど数カ国にチャンスがあり、混戦必至の様相だ。
日本は前回大会ではバトンがつながらず失格となったが、東京パラでは47秒94の日本新記録で銅メダルを獲得した。ただし、着順は4位で、上位チーム失格による繰り上がりの結果だっただけに、リレー代表の高野大樹コーチは、「しっかり3着以内に入ってメダル獲得」を今大会での最大目標に掲げる。
6月の国内大会では澤田優蘭(T12)、三本木(T45)、高松(T38)、生馬(T54)という「初組み合わせ」のメンバーで、48秒41をマークしている。東京パラの一走、澤田は、「初めての組み合わせだったので、まだまだいける」と力強い。当日のメンバーは各クラスの日本記録保持者を揃えた強化指定選手から規定に応じたベストメンバーが編成される予定だ。それぞれの個人記録も上がっており、パリパラリンピック出場権とともに日本記録更新も期待される。
パリパラリンピックの出場枠もかかった世界陸上。パリを舞台に、7月8日から17日までの10日間で開催される。
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<日本選手競技スケジュール> (日本時間は+7時間)
https://para-ath.org/pdf/02-1/20230703-003.pdf
写真/吉村もと ・ 文/星野恭子