2017年8月、オーストラリア、トルコ、イギリスという世界トップの強豪相手にシンペーJAPANが挑んだWCC。東京パラリンピックまで、あと3年。希望も課題も見えたシンペーJAPANに井上雄彦が完全密着!
日本、イギリス、オーストラリア、トルコの4カ国が東京体育館で戦う。2016年9月のリオパラリンピック以来約1年ぶりとなる代表戦の観戦を楽しみにしていた。
リオでは最終順位こそ9位に終わったが、そのバスケットの内容は確かな進歩が見て取れるものだった。そこを正当に評価され、及川晋平HC、京谷和幸ACという体制をそのまま維持し、東京パラリンピックへの道を歩むことになった車いすバスケット男子日本代表。進化の道は途切れることなく続いていく。
道のりの第2章。始まりの地点でいずれ劣らぬ強豪国を相手に、日本の人々の前でどんなバスケットを見せてくれるのか。
日本の初戦は対オーストラリア。激しいフィジカルコンタクトで圧倒してくる世界トップの強豪国。
第1クオーター半ば、キャプテン[2]豊島とぶつかりオーストラリアの選手が倒れる。こういった場面で一瞬でも気持ちを引いてはいけない。
特にこのタフなオージーたち相手にはなおさらだ。試合終了まで「一歩も引かないからな」という姿勢をそれぞれが示し続けなくてはならない。
日本がリードし快調に点差を開いていく。オーストラリアはハーフラインを越えるのに8秒以上かかってしまうバイオレーションを連発。運動量豊富な日本のディフェンスにリズムを掴めないでいる。
さらに日本の守備で特筆すべきは、体格、パワーに優るオーストラリアにゴール下での得点を許さないことだ。オーストラリアがミドルショットでの得点でなんとか繋いでいる間に、[55]香西の安定感があってかつアイディア豊富なゲームメイクのもと、日本の得点が積み重ねられていく。
しかも日本の選手たちは相手のファールで得たフリースローをしっかりと2本決めていく。第1Qに得た6本は全て沈めた。
日本代表選手であってもフリースローやレイアップを結構落とすもんだな、そりゃそうだ、イスに座って打つんだもんな、というのが車いすバスケを見始めた頃に私が素朴に感じたことだった。それは自分でも体験してみて難しさを実感したからこそそう感じたのだった。
今は逆に、イスに座って打ってなんであんなに入るんだろう、という驚きの連続だ。ステファン・カリーが3Pラインのはるか後ろからシュートを決めてしまう時の、「そこから!?」という驚きに似ている。
今にして思えば、初めて見にいった2000年シドニーパラリンピックでも上位チームの選手はシュートをバンバン決めていた。その点で当時日本は決定的に後れをとっていたのだ。
経験は受け継がれ、技術は前の世代に少しずつ上乗せされる形で、日本バスケは進化してきた。
それともう一つ、シュートが入る、それは観るスポーツとしてのバスケットの面白さを決定的に左右する。シュートが入るからディフェンスは懸命にそれを止めようとする。そのディフェンスのさらに上をいく形でシュートを決める。だから面白い。今の日本代表の試合は見ていてすごく面白いと皆様に言いたい。機会があれば是非見てみてください。
さて、現時点の日本のスタイルはどうやらリオの時と異なることがはっきりしてきた。攻防の切り替えを早くし、運動量で相手を上回るアクティブなバスケット。それを可能にするのはおそらく過酷なまでのフィジカルトレーニングであり、完成形を見ることができるのはまだ先のことなのだろう。代表のトレーニングを見に行きたい思いにかられる。
オーストラリアは審判の笛にもフラストレーションを露わにし始め、日本のリードは第3Q半ばには49−29と最大20点にまで広がった。だがそれでも安全圏ではなかった。日本がオーストラリア相手にやりたいことを40分間続けるだけの力をつけたわけでは、まだなかった。
第1Qには身体を張って立ち入らせなかったゴール下のペイントエリアを第4Qには完全にオージーたちに蹂躙されてしまっていた。ゴールに近いエリアを支配することに成功したオーストラリアは確率の高いレイアップを続けざまに決め、とうとう日本をとらえた。
[13]藤本、[55]香西のWエースが連続得点で日本のわずかなリードを死守する。「やることやるよ!」と香西が仲間に声をかけるが、フィジカル、メンタルとも日本にその力は残っていなかった。残り36.4秒、逆転され1点ビハインドで日本タイムアウト。
しかしタイムアウト明けのオフェンスはやることがはっきりしないままいたずらに24秒を費やしてしまいバイオレーション、万事休す。手中にしたかに見えたオーストラリアに勝つというチャンスを後少しのところで逃した。
試合の4分の3に焦点を合わせれば、オーストラリア相手にやりたいバスケットを遂行し、あれだけリードした、自信になったと言える。
一方、最も大切な最後の4分の1に焦点を合わせれば、力不足だった、勝ちきる力がなかったということになる。両方ともが真実なのだろう。
(後編につづく)
『パラリンピックジャンプvol.1 』(集英社)より転載
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取材・文◎井上雄彦 撮影◎細野晋司 構成◎市川光治(光スタジオ) 協力◎名古桂士(X-1)