歴史をまた、塗りかえたーー8月12日からイギリス・バーミンガムで開かれていた「IBSA ブラインドサッカー男子世界選手権 2023」最終日の8月25日、世界ランキング4位の日本代表は5位決定戦でイラン代表に1-0で勝利し、世界選手権では過去最高位となる5位入賞を果たした。
同選手権は4年に1度の世界一決定戦であり、来年のパリパラリンピックの出場権枠もかかっていたが、5位を死守した日本は、11月のパラパンアメリカン競技大会の結果次第では残り1枠を獲得できる可能性も残した。東京大会につづき2回目のパラリンピック出場を目指す日本は今大会で、「大陸別選手権でパリパラ出場枠をまだ獲得していないチームの中で上位3カ国に入ること」を目標に戦った。
16チーム(実際は1チーム欠場)が4つに分かれ総当たり戦を行うグループリーグで日本は、初戦のイタリアには1-1の引き分けに持ち込まれたが、第2戦はタイに1-0で、第3戦はトルコに1-0で勝利。代表最年少16歳、平林太一の3試合連続ゴールにより、2勝1分のグループ2位で決勝トーナメントに駒を進めた。
準々決勝では昨年、アジア王者となりパリパラ出場を決めている中国と対戦したが、前半にゴール前の混戦から不運とも思える形で失点。そのまま追いつけず0-1で惜敗し、今大会でパリパラ切符を自力で獲得する目標はついえた。
だが、つづく順位決定トーナメントで2連勝し、5位に入賞すればまだ可能性は残る。悔しさをバネに日本は仕切り直してまず、初戦でパリパラ開催国出場枠をもつフランス戦に臨んだ。前半8分、相手ゴールキーパーのファウルから得たペナルティーキックを平林がしっかりと決め、1-0で前半を折り返す。後半12分には川村怜キャプテンも今大会初得点となる追加点をあげ、2-0でフランスを完封し、まず1勝。
そして、迎えた5位決定戦はアジアのライバル、イランと対戦。ともにパリパラへの可能性を残す両チームは試合開始から激闘を展開し、前半は日本が押し気味にゲームを進めるも無得点。後半はイランが攻勢に出てきたが、後半4分に相手ゴール前約7mの位置で得たフリーキックを川村キャプテンがドリブルで相手の壁を動かし、狙いすましたコースに右脚を振り抜いて先制。その後はイランの猛攻をチーム一丸でしのぎ切り、1-0で勝ち切った。
なお、決勝戦はアルゼンチンがスコアレスドローからPK戦2-1で中国を退けて優勝。3位決定戦はブラジルがコロンビアに7-1で勝利した。今大会の結果から、アルゼンチン、ブラジル、コロンビアがパリパラ出場枠を獲得し、パリパラ出場8枠中で7枠(*)までが決定した。
だが、規定により今年11月に開催予定の「パラパンアメリカン競技大会2023」の優勝国にも出場枠が与えられるため、上記のアルゼンチン、ブラジル、コロンビアの3カ国のうちいずれかが優勝した場合、今大会5位になった日本が繰り上がりでパリパラ出場枠を獲得できる。
苦しみながらも土壇場で勝ち取った5位入賞は大きな勝利だった。日本のパリパラ出場枠獲得が叶えば、開催国枠でなく予選を兼ねた大会の結果から自力で勝ち取った初のパラリンピック出場となり、また新たな歴史を作ることになる。
今大会を総括し、日本代表の中川英治監督が日本ブラインドサッカー協会を通じてコメントを発表した。
「今大会5位という結果で、日本の世界ランキングが4位なので、世界ランク通りの結果となりました。大会全体としては、出場16チームの力の差はほとんどなく、その中でブラジル・アルゼンチン・中国は一歩リードしている状況。この一歩リードしている3チームにどれだけ近付いていくかが、今後の大きな課題だと思っています。ただ、中国と今回対戦してみて、大きな力の差は感じなかったですし、ブラジル・アルゼンチン相手にも、先々月の大会で良いパフォーマンスができたので、本当にあと一歩のところまで来ているなという印象があります。準々決勝で負けた後に、2試合連続で勝たなければならないという大きなプレッシャーはあったのですが、よく選手もスタッフも乗り越えてくれたと思いますし、今まで悔しい想いをしてきた経験が、すごく活きたのではないかなと思いました」
同様に川村キャプテンもコメントを寄せ、激戦を振り返り、さらなる進化を誓った。
「準々決勝中国戦に向けては最高の準備ができ、集中して試合に挑めましたが、日本のミスから失点してしまって流れが中国に向いてしまい難しいゲームになりました。一瞬心が折れそうになりましたが、『あと2勝すれば、いけるんだ』とみんなで励まし合い、メンタル的にもいい準備ができました。フランス戦も、平林選手の先制点に加えて、個人的にも世界選手権で初ゴールを決めることができました。5位決定戦はアジアのライバルのイランということで、やはり中国もイランも超えないとパラリンピックには行けないんだと、運命なんだなと感じました。後半、諦めずに戦い続けて前に進んだことでフリーキックを得て、上林(知民)コーチの指示通りにいつもの練習通り蹴って、みんなの気持ちがボールに乗って、ゴールに吸い込まれたんじゃないかなと思います。結果的に5位という成績で終えられたことは非常に満足していますし、パリ大会の出場権についてはまだ確定ではないので実感が湧かないですが、目標にしてきたところは達成できましたし、今大会では世界選手権過去最高順位ということで、どんどん歴史を作り、チームや自分が進化していくことをすごく楽しく感じています」
人事を尽くして天命を待つーーさらなる躍進を目指し、ブラサカ日本男子は走り続ける。
<「IBSA ブラインドサッカー男子世界選手権2023」最終順位>
1位:アルゼンチン、2位:中国、3位:ブラジル、4位:コロンビア、5位:日本、6位:イラン、7位:フランス、8位:イタリア、9位:タイ、10位:モロッコ、11位:ドイツ、12位:スペイン、13位:イングランド、14位:メキシコ、15位:トルコ、16位:マリ(大会不参加のため全て不戦敗)
(*)パリパラリンピック出場枠獲得チーム(2023年8月25日時点): フランス(開催国枠)、トルコ(ヨーロッパ選手権2022優勝国枠。開催国フランスが優勝したため準優勝国が繰り上げ)、モロッコ(アフリカ選手権2022優勝国枠)、中国(アジア・オセアニア選手権2022優勝国枠)、アルゼンチン・ブラジル・コロンビア(世界選手権2023上位国枠)
写真提供:鰐部春雄/ 日本ブラインドサッカー協会・文/星野恭子