9月15日から17日、WTA(女子テニス協会)ツアー公式戦「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス2023」の車いすテニスの部が、ITC靭テニスセンターで開催された。車いすテニスの部は今大会から実施される新種目。14日には、国枝慎吾トーナメントディレクターと、選手を代表して上地結衣(三井住友銀行)が記者会見に臨んだ。
ジャパンオープンの男子大会では2019年から車いすテニスの部が実施されている。それに追随する形で女子大会も今年から新設されることになった。国内でWTAの大会で車いすテニスの部が同時開催されるのは初で、東京2020パラリンピック女子シングルス銀メダリストの上地をはじめ、世界ランキング7位の田中愛美(長谷工コーポレーション)、船水梓緒里(ヤフー)ら8人の日本人選手がエントリーした。
兵庫県明石市出身で、会場のITC靭テニスセンターでの試合にも出場してきた上地にとって、今大会は「ホーム」でもある。準優勝したグランドスラムの全米オープンから帰国したばかりで、日程の面から体力的な厳しさはあるが、「地元で開催される大会で、エントリー前から『出るの?』と声をかけてくれる人もいた。たくさんの人に観に来ていただきたいと思うし、出ないという選択肢はなかった」と、振り返る。
今年2月にオランダで開催された「ABN AMRO OPEN」も、男子に続いて健常と女子の車いすテニスのトーナメントが共同開催され、上地も出場した。グランドスラムとはまた違った雰囲気だったといい、「地域全体が盛り上がっていて、こういう大会が日本でも開催されればいいなと思っていたところだった。実現して嬉しい」と、上地は目を細める。
当初は、全米オープンで優勝したダブルスパートナーのホタッツォ・モンジャネ(南アフリカ)が今大会に参加予定だったが、ビザの関係で断念。海外勢のエントリーはゼロになってしまったが、「みんなに話をしてみると、大阪に行ってみたいと興味を持ってくれる。今年の大会で認識はされるだろうし、レベルアップしていける大会だと思う」と前を向き、「そのなかで、第1回目というのはすごく意味があると思うし、自分自身もこの大会の優勝者になることを目標に掲げている」と、力強く語った。
また、車いすテニス界のレジェンドで今年1月に引退を表明した国枝氏が、10月に有明で行われる男子大会とともに、車いすテニス部門のトーナメントディレクターを務める。「引退をしたタイミングで、自分も車いすテニスを裏から支える立場になったという自覚があった。そこで、自分から日本テニス協会に『何かご協力できることがあれば』とお話したところ、トーナメントディレクターの話をいただいた」と、着任の経緯を説明する。
国枝氏は現役時代、ATP(男子プロテニス協会)ツアー公式戦である男子大会において長年にわたって車いすテニスの部の新設を日本テニス協会に掛け合い、実施の実現と成功に導いた立役者でもある。「男子があるならば、女子もあるのが自然」という想いも常々持っていたといい、念願の女子大会の開催実現に笑顔を見せた。
続けて「通常の車いすテニスのツアーとATP・WTAは、まったく別物で切り離して実施されている。でも、グランドスラムは健常のプロ選手と車いすの選手がプレーしているし、プロの大会に車いすの選手が参加できるのは、テニスファンを車いすテニスファンにする大きなチャンスでもあると思う」と併催の意義を語り、参加選手には「存分に自分の力を発揮して、お客さんを車いすテニスの虜にしてほしい」とエールを送った。
写真・ 文/荒木美晴