9月2日まで東京体育館で行われたパラ卓球のジャパンオープンで、大学1年の舟山真弘(まひろ/早稲田大)が躍動した。もっとも障がいが軽いクラス10の男子シングルスで、これまで2連敗中だった蘇晉賢(チャイニーズタイペイ)に3-1で競り勝ち、グループリーグを全勝として金メダルを獲得。強豪国の中国や大会日程が重なったヨーロッパ勢は大会参加を見送ったものの、昨年9月のフィンランドオープン以来となる優勝に「やっと頂点に立てた。本当に良かった」と、笑顔を見せた。
4歳の時に右上腕骨骨肉腫を患い、右の上腕骨と肩関節、その周りの筋肉を切除し、右足の腓骨を右上腕骨に移植した。右肩関節がなく、肩を支点にする動作がしづらいため装具で固定してプレーする。基本はフォア主戦型。バック側へのまわりこみや、課題であるバックハンドとの連携が強化できれば、さらに強力な武器になる。ジャパンオープンに向けて、このフォアハンドの安定感を意識して練習に取り組んできた。今大会、とくに蘇との試合では競った場面で無理にフォアハンドを選択したことがミスにつながるシーンもあったが、「次のボールで取り返そう」と奮い立ち、立て直した。「まだ粗い部分はあるけれど、ミスで落としたポイントは減ってきた。ゲーム内容としてもこの1カ月の練習の成果を感じられた」と、自信を深める。
卓球は小学5年で始めた。もともと身体を動かすことやスポーツ好きで、小学校低学年の時は家族で5キロのマラソンなどを楽しんだ。バスケットボールやサッカーなどでも遊んでいたが、右脚の腓骨が1本ないため、骨折などのリスクは回避したかった。そこで、相手と身体が接触することがなく、純粋にプレーをしていて楽しいと感じた卓球を選んだそうだ。
パラと健常という区別はせず、「どちらの世界でも勝ちたい」。高校2年で健常者に交じって全日本ジュニアの東京都予選を通過(本戦は新型コロナウイルスの影響で棄権)し、高校3年だった昨年はインターハイに出場した。パラ卓球では、2021年のアジアユースパラ競技大会で国際大会デビュー。パラ卓球のツアーにまわるようになり、世界のトップ選手たちとの対戦を通して、経験値と技術を磨いているところだ。
最新の世界ランキングは10位で、来年のパリ2024パラリンピックを狙える位置につける。そのパリ大会の出場権がかかる10月のアジアパラ競技大会では優勝を目標に掲げており、「達成できるように頑張りたい」と、前を向く。
現在は早稲田大文学部に籍を置き、卓球部の活動と両立している。卓球部OBにはクラス9の岩渕幸洋(協和キリン)やクラス7の金子和也(TMI総合法律事務所)らがおり、「先輩方がパラ卓球の下地を作ってくれていた」ため、時にはパラの大会を優先するなど配慮してもらえるという。
興味がある学びの領域は哲学。高校の現代文の先生が面白く哲学の世界観を教えてくれたことがきっかけだといい、専攻を決めるのは来年だが、今も本や動画から学びを得ているそうだ。「答えが決まっていないのが面白い。哲学って、結構理想の世界を追い求めるものだと思うし、これから生きていくなかで自分の人生の芯になるものなのかなって」。ただ、今のところ哲学が卓球に役立つことは「……ないかもしれない」と舟山。「卓球をしているとぜんぶ忘れちゃう。考え方も変わるし、(「哲学脳」が)卓球で現実に戻されちゃう。こういうものなのかなぁ」と、笑う。
勉強も卓球も、理想を追求する18歳。これからのさらなる飛躍が楽しみだ。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴