車いすバスケットボールにおける国内最高峰の大会「天皇杯」。その出場権をかけて、5月からスタートした予選が9月ですべて終了し、前回覇者ですでに本大会のシード権を獲得している神奈川VANGUARDS(今年度「パラ神奈川スポーツクラブ」から名称を変更)を除く7チームが決定した。そこで東西に分かれて行われた第2次予選会、および残り1枠をかけて東西の4位チーム同士が対戦した最終予選会についてレポートする。まずは9月9、10日に北九州市立総合体育館で開催された「西日本第2次予選会」を振り返る。
西日本第2次予選会には、東海北陸、近畿、中国、四国、九州の各ブロックごとに行われた第1次予選会を通過した11チーム(徳島WBCは出場辞退)が参加。上位3チームに与えられる天皇杯への切符をかけて熱戦が繰り広げられた。
その結果、昨年に続いて西日本第2次予選会を1位通過したのは、伊丹スーパーフェニックス(近畿)だ。村上直広(4.0)、堀内翔太(4.0)、川上祥平(2.0)と3人の男子ハイパフォーマンス強化指定選手が所属。さらに女子では、今年6月の世界選手権でアシストランキングトップに輝いた網本麻里(4.5)や、10月の女子U25世界選手権に出場した青山結依(1.0)もいる。西日本のなかでは最も多くの代表クラスが多く顔をそろえた強豪だ。
第2次予選会ではシードのために2回戦から登場した伊丹は、富山県WBC(東海北陸)、神戸STORKS(近畿)、ワールドBBC(東海北陸)と、全3試合を勝利で飾った。
伊丹の強さは固定したメンバーに頼り切っていないところだ。エース格の村上をはじめ、同じハイポインターには堀内をはじめ、健常プレーヤーの伊藤壮平(4.5)もいる。ドライブでのペイントアタックを得意とする村上に対して、堀内、伊藤はダイブからの得点に長けている。
さらにクラス2.0ながらハイポインター並みの高さを持つ桑原旭祥の存在も大きい。常にビッグマンが2、3人いる状態を作ることが可能で、ディフェンスリバウンドはもちろん、オフェンスにおいてはセカンドチャンスからの得点も少なくない。
また、スリーポイントを含むアウトサイドのシュートを得意とするプレーヤーも村上だけではない。川上や斉藤貴大(1.5)も貴重な得点源となる。さらに女子の網本も自らドライブで切り込む力があり、アウトサイドのシュート力もある。このように、選手層の厚さはまさに西日本でダントツを誇る。そのためラインナップのバリエーションが豊富で、ある程度プレータイムをシェアしながら戦うことができる。
村上、堀内、桑原、川上、斉藤のユニットが先発であることがほとんどだが、途中で堀内、村上のどちらかを伊藤に替えることも可能だ。また女子選手1人につきコート上の5人の合計に1.5点が加算されるため、クラス1.0の青山を入れた場合の村上、堀内、伊藤のハイポインター3人を揃えたユニットも脅威。さらに網本や、男子次世代強化指定選手の川嶋世羅(3.5)などが入ったスピードを武器とするユニットもある。
「ユニットごとにまるで違うチームのようにそれぞれ特徴が違うようにして、相手に的を絞らせないことが狙い」と三浦玄ヘッドコーチ。現役復帰した林浩輝(3.5)など新メンバーが入った新ユニットがさらにかみ合うようになれば、天皇杯ではより強固なチーム力が見られるはずだ。
その伊丹が、最も苦戦を強いられたのが、2点差で凌ぎ切った富山県WBCとの初戦(2回戦)だ。実はそれは、大きなチャレンジによる代償だったという。実戦で初めてトライした戦術がうまくいかずにミスが重なり、相手に流れを渡してしまったのだ。その戦術が本戦で成功すれば、西日本では初となる天皇杯制覇がさらに近づくはずだ。
前回に続いて西日本2位で天皇杯への出場を決めたのが、男子ハイパフォーマンス強化指定の竹内厚志(3.0)がキャプテンのワールドだ。決勝では伊丹に3Qで大きく引き離され、53-76で敗れたものの、大分WBC(九州)との初戦(2回戦)、ライジングゼファーフクオカ(九州)との準決勝では実力を遺憾なく発揮。いずれも攻防で圧倒し、ハイスコアでの勝利を飾った。
速いトランジションや走力でスピーディに展開するチームが多い昨今、ワールドは唯一無二の存在と言ってもいいだろう。決してスピードによるガチンコ勝負にはもっていかず、時間をかけてじっくりと攻めるハーフコートのオフェンスを得意とする。ディフェンスもオールコートはほぼない。これは主力5人がフル出場することも少なくないというチーム事情もあると見られるが、ワールドが継承してきた伝統でもある。
今回第2次予選会に出場した東西23チームの中で、平均年齢が最も高く、さらに唯一健常プレーヤーが不在だが、そんななか毎年必ず予選を突破し、天皇杯への切符をつかんでいる。元男子日本代表エースでレジェンド的存在の大島朋彦(4.0)など、ベテラン勢揃いでメンバーが変わらないからこその息の合った組織力が最たる強みだとも言える。
特にセットオフェンスでのフォーメーションは巧みで、緻密だ。スピードや高さがないなかでも、相手のディフェンスをボールサイドに引きつけながらバックカットで得点チャンスを作るなど5人の連携プレーは見事だ。加えて主力メンバーはいずれもシュート力が安定している。
2回戦では101得点、準決勝では91得点といずれもハイスコアとなったが、より強度が高いゲームとなる天皇杯では、むしろ得意とするロースコアのゲームにもっていけるかがカギを握るはずだ。「相手の速いペースには乗らずに、自分たちのペースで試合をすること。あとはシュートをしっかりと入れてくれれば勝機はある」と杉浦寿信ヘッドコーチ。それが唯一できなかったのが、伊丹との決勝だった。
メンバーチェンジを繰り返し、選手層の厚さを見せた伊丹に対し、ワールドは先発の5人がいずれもフル出場。その日は準決勝に続くダブルヘッダーということもあり、疲労もあったのだろう。1Q、2Qのいずれも後半になって得点が止まり、3Qでついに大きく引き離された。4Qこそ18-16と得点で上回り、粘りを見せたが、ゲーム全体からすると、焦りからか早打ちするシーンもやや多く、 “らしさ”に欠けていたようにも感じられた。
杉浦ヘッドコーチもこう述べている。「少し個人で勝負しすぎてプレッシャーがかかり、いっぱいいっぱいになってしまった。オフェンスでリズムに乗れない分、ディフェンスにも影響が出てしまったところがあったと思います。やはりうちは組織力で戦うチーム。相手がどうということを考えるよりも、まずは自分たちのバスケットができるかどうか。こちらの土俵で戦わなければいけません」
天皇杯では、ワールドの世界に相手を引きずりこみ、1999年から4連覇を達成した2002年以来、18大会ぶりの王座奪還を狙う。
第2次予選会でのラストチャンスで天皇杯の切符を獲得したのが、ライジングゼファーフクオカだ。準決勝ではワールドに完全に主導権を握られたまま敗れたが、気持ちを立て直して臨んだ神戸STORKSとの3位決定戦では、1Qこそ12-12とドローとしたものの、2Qでリードを奪うと、3Qは相手のシュートの確率が落ちたところをリバウンドからの速攻が決まり、次々と得点。試合の主導権を握り、10分間で21得点を叩き出した。4Qもフクオカの勢いは止まらず、64-25と圧勝した。
前回は第2次予選会でシードだったものの初戦(2回戦)でワールドに敗れ、早々と“切符争い”から離脱。そこで「もう一度チームを見つめ直すことから始めた」とヘッドコーチを兼任する福澤翔(4.5)は明かす。「天皇杯に出場するためにはどうすればいいかを考えながら、1年間ずっとやってきました」
特にハーフコートオフェンスについては、それまで個に頼りがちだったものから、しっかりと5人でシュートチャンスを作ることを意識。そのために必要なスキルの習得や、フィジカル強化にも取り組んだ。その結果、第2次予選会では敗れた準決勝のワールド戦も「実力差を見せつけられた」としながらも「1年間やってきたことを少しは発揮できたし、手応えもあった」と収穫があったと福澤は語る。
一方で、現段階では福澤が最大の得点源であることは間違いない。第2次予選会での3試合すべてで福澤がチーム最多を誇り、2回戦の岐阜SHINE(東海北陸)戦での38得点をはじめ、準決勝のワールド戦では29得点、3位決定戦での神戸STORKS戦では28得点とした。
それでも「僕の個の力は微々たるものでしかない」と語り、あくまでもチーム全体の底上げを重視する。「自分以外にも得点力のある選手が増えてきた」と福澤。3試合中2試合で2ケタ得点を挙げたキャプテン赤窄大夢(2.5)のアウトサイド、あるいはゴール下の攻防に強いハイポインター陣にも期待を寄せる。
チームとしての戦略、個々のシュート力をどこまで上げられるかが重要となる天皇杯。全国のファンの前で、まずは一戦一戦、自分たちの全力を披露し、“応援したくなるようなチーム”となることが目標だ。
本戦で西日本のチームが優勝すれば、04年以来、実に16大会ぶり、18年から下賜されている天皇杯では初の快挙となる。3チームにとってはプライドをかけた戦いとなる。
写真・ 文/斎藤寿子