パラアイスホッケーの世界選手権Bプールが10月6日からカザフスタンのアスタナで開催され、日本が5戦全勝で優勝を果たし、来季のAプール昇格を決めた。
世界選手権Bプールは2部に相当するもので、今大会は世界ランキング9位以降の6チーム(スロバキア、スウェーデン、日本、フィンランド、イギリス、カザフスタン)が参加。総当たりで順位を競い、上位2チームがAプールに昇格、最下位はCプールに降格するという状況のなか、日本はスピードと機動力を活かして格上を撃破し、存在感を示した。
銀メダルを獲得した2010年のバンクーバーパラリンピック以降、日本がBプールを戦うのは4度目。長らく国際大会で勝てず、苦しい時期が続いたが、昨年から元カナダ代表のブラッドリー・ボーデン氏を日本チームのハイパフォーマンスディレクターとして招き、技術向上はもとより、元選手ならではのスレッジコントロールなどを学ぶなどして、地道に世界で戦うチームづくりに取り組んできた。今大会は主に、伊藤樹(ロスパーダ関西)を軸とした攻撃力のあるラインと、代表に復帰した上原大祐(長野サンダーバーズ)を中心としたディフェンシブなラインをそろえ、全員が全力で臨んだ。
初戦のイギリス戦はパックを支配して13-0、第2戦のカザフスタン戦は6-0と白星を重ねる日本。上位進出のカギとなる第3戦の強豪のスウェーデンとの戦いは、さらに高い集中力と組織力で対峙。序盤から膠着状態が続く展開となったが、第2ピリオド開始早々に熊谷昌治(長野サンダーバーズ)が待望の先制点を決めると、その後は相手の猛攻をしのぎ、1点を守り切って勝利した。
休養日を挟み、迎えた第4戦の相手は、北京パラリンピック7位で優勝候補のスロバキアだ。大量得点で勝ち進む攻撃力あるチームで、日本も第1ピリオド序盤に先制点を許してしまう。日本は伊藤の連続得点で逆転するが、相手にも追加点を入れられて2-2に。その後も拮抗した状態が続き、5分間の延長戦でも決着がつかず、ゲームウイニングショット(シューター vs GKの1対1、サッカーでいうPK戦)に突入した。
先攻の日本は伊藤、熊谷、上原の3人がシューターに選ばれ、熊谷が成功。スロバキアも1人が決め、サドンデスに持ち込まれた。そのサドンデスはスロバキアが先攻で、GK堀江航(東京アイスバーンズ)がプレッシャーをかけてミスを誘うと、日本は再び指名された伊藤が今度は落ち着いて決め、3-2で勝利した。これで4連勝とした日本は最終日の試合を残してAプール昇格が決定。その最終戦のフィンランド戦も8-0と完勝し、見事に全勝優勝を飾った。
成長を続ける若手選手と中堅選手、ベテラン選手が噛み合い、難敵に対しても自信を持って戦っていた日本。とくに高校3年の伊藤の貢献度は高く、世界選手権デビューながら、幼少期から培ったホッケーセンスを随所で発揮。攻守にわたる活躍が評価され、大会MVPに選出された。伊藤とのコンビネーションが光った新津和良(長野サンダーバーズ)はスピードを活かしたプレーで相手を翻弄し、キャプテンの熊谷もチーム最多の11ゴールと気を吐いた。そして、ベテラン三澤英司(北海道ベアーズ)の粘り強いディフェンス、上原のパックへの執念と献身的なプレーは流れを引き寄せ、幾度と攻撃の起点となった。また、2018年の平昌パラリンピックはプレーヤーとして出場した堀江はポジションをコンバートし、GKとして初めて参加する国際大会ながら、全チーム中トップとなるシュートセーブ率92.86%をマークして大会ベストゴーリー賞を獲得するなど、まさに守護神としてチームを勝利に導いた。
伊藤は、「第3戦、第4戦は大きなプレッシャーがかかる試合だったが、勝ち抜くことができた。目標としていたMVPも獲得でき、非常に楽しい大会だった」と振り返る。また、中北浩仁監督は、「本大会の最大の成果は、勝つ味を覚えたこと。一大会で表彰式を含め6回の君が代を聞くことができたのは、チームとして大きな自信につながったと思う。来季のAプールでは、今回の成果をベースにして、さらなる攻撃力とディフェンスシステムを構築し、Aプール定着と2026年のミラノ・コルチナダンペッツォパラリンピック出場を目指したい」と語る。
2大会ぶりのパラリンピック出場を狙う日本にとって、今大会はその目標に向けての「第一関門」であり、結果は「通過点」ではあるのだが、苦労を乗り越え手にした優勝だけに、選手やスタッフたちの喜びは大きかったに違いない。しかし、先を見据える選手たちは気を引き締める。
「今大会は若手選手の成長が目立ち、チームメートに大いに助けられた。ただ、Aプールを戦うには、まだまだレベルアップをしなければならないと感じる」とキャプテンの熊谷。堀江も「Aプールで通用する力はまだついていない。来年の大会までできる限りの準備をしていく」と言葉に力を込める。
日本パラアイスホッケー協会によれば、来年の世界選手権Aプールは5月または6月に予定されている。世界のトップ8が集まるステージで、日本は今一度存在感を示せるか。これからの取り組みに注目していきたい。
文/荒木美晴