10月18日から22日までの5日間、「国際車いすラグビーカップ」(International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023、以下IWRC)が、フランス・パリで開催された。
世界中のラグビーファンの視線が注がれる中、ラグビーワールドカップ・フランス大会組織委員会とワールド車いすラグビー(WWR)の共催で行われた今大会には、世界ランキング上位8か国が出場し見応えある試合を繰り広げた。日本は3位決定戦で劇的勝利を収め、銅メダルを獲得した。
パラリンピックを1年後に控えるパリで行われた今大会は、出場する8チーム中、日本を含む4か国(フランス、イギリス、デンマーク、日本)がすでにパラリンピック出場権を獲得しているとあって、その前哨戦として注目された。
日本代表にとっては、6年にわたり指揮を執ったケビン・オアーヘッドコーチ(HC)退任後、8月に就任した岸光太郎HCのもと新体制で臨む初めての国際大会で、世界の動向と日本の現在地を知るための貴重な実戦の機会となった。悲願のパラリンピック金メダル獲得に向け、選手層の拡大を図る日本は、フル代表初選出となった安藤夏輝と草場龍治の2名の若手選手を含む12名のメンバーで今大会に臨んだ。
試合は、4か国ずつ2つのプールに分かれて総当たり戦の予選ラウンドを行い、各プールの上位2チームが準決勝へと進む方式で実施された。
予選ラウンド・プールBの日本(世界ランキング3位 ※大会当時)は大会1日目の10月18日、ニュージーランド(同8位)との初戦に臨んだ。硬さが見られた日本は、立ち上がりでニュージーランドの守備に思わぬ苦戦を強いられたが、ラインナップを入れ替えリズムを取り戻すと、後半は、勢いを失った相手からダブルスコアに迫る得点を奪い、52-36で圧勝した。
続く第2戦は、昨年の世界選手権で悔しい負けを喫したアメリカ(同1位)との対戦。スペースを広く使い、長めのパスでスピーディーに展開するラグビーで互角の戦いを見せる両者。同点で前半を終えると、会場のハル・ジョルジュ・ カルパンティエには、応援にかけつけたパリ日本人学校の全校生徒、約150人による力強い「ニッポン!」コールが響く。
その声援に後押しされ、日本は後半、羽賀理之や小川仁士のパスカットでターンオーバーを奪い、じりじりと相手を引き離した。最後はアメリカの主力選手をベンチに下げる戦いぶりで、55-50と勝利を収めた。
予選ラウンド最終戦は、ヨーロッパ・チャンピオン、フランス(同6位)との一戦となった。高い位置からプレッシャーをかける日本に対し、個人技を生かしたプレーで対抗するフランス。一進一退の攻防が続くなか、前半終了間際、日本のパスミスにより3連続失点を許し、23-27とビハインドを背負う。
ハーフタイムに円陣を組むと、今大会バイスキャプテンを務める橋本勝也が、熱のこもった声で仲間を奮い立たせ、再び心をひとつにする。後半、日本のしぶといディフェンスに、フランスはノートライを連発。2対2、1対1のマッチアップで相手を振り切り、第3ピリオドで同点に持ち込んだ。日本はハードワークで最後まで挑み続けるも、トライラインの数メートル手前で試合終了のブザーが鳴り、49-50で惜敗した。
予選ラウンドの3試合を終え、プールBは日本、アメリカ、フランスの3チームが2勝1敗で並んだが、得失点差により日本が首位通過を果たした。
大会4日目の10月21日、日本はプールA・2位のオーストラリア(同2位)との準決勝に臨んだ。
アジア・オセアニア地域に属する両国は対戦回数も多く、言わば、お互いの手の内を知り尽くすライバル。日本は相手のインバウンド(スローイン)エラーを誘ってリードを奪い、上々の立ち上がりを見せた。しかし中盤以降、オーストラリアの采配に振り回される。なんとか流れを取り戻そうと努めるも、その焦りが連係のぎこちなさを引き起こし、48-52で敗れた。「試合の中で相手に対応しきれず、ボールキープの場面でも自分たちの甘さがでた」と、池崎大輔。翌日の3位決定戦に向け、「チームで課題を見つけ、しっかりと共通認識を持ち、みんなで勝ちにいきたい」と意気込みを語った。
そうして迎えた、地元・フランスとの3位決定戦。まぶしいライティングに照らされた場内にはフェイスペイントをした親子連れの姿。フランス国旗が揺れる。
第1ピリオドを同点、第2ピリオドも同点、そして第3ピリオドを終え同点、と手に汗握る攻防が続く。張り詰めた空気の中、先にギアを上げたのはフランスだった。日本が苦し紛れに放ったパスをカットすると立て続けにターンオーバーを奪い、一気に3点をリードした。
フランスが勝利を確信し始めた、試合時間残り3分07秒。「絶対に勝ってやる。俺が決める!」と、橋本がコートに出た。倉橋香衣、乗松聖矢のローポインターが一段と集中力を高め相手の動きを止める。池透暢と橋本が、フランスのエースに執拗にプレッシャーをかけボールを奪い取りトライ。さらに、精度の落ちたフランスのインバウンドを次々とカット。4連続得点を挙げ、日本がついに逆転。残り1分半を切ってからの怒涛の反撃に、頭と気持ちが追いつかないまま試合終了の時を迎え、50-49!マンガでも描けないほどの大逆転劇を演じた日本は、今大会一番の歓喜に沸いた。
「誰もが勝利を信じて最後の1秒まであきらめずに戦った。自分たちのプレーをやり切れば勝てる、そう信じた結果が勝利につながった」
キャプテンの池は、一語一語かみしめるように勝因を語り、銅メダルという結果には決して満足していないとしながらも、「現段階の最高の結果を出せた」とうなずき、小さく肩を下ろした。
昨年の世界選手権王者・オーストラリアの優勝で幕を下ろした、国際車いすラグビーカップ。そのオーストラリアは予選ラウンドで世界ランキング5位のカナダに破れ、世界ランキング1位のアメリカは準決勝進出を逃し6位に終わった。世界ランキングの順位では語れない、世界の勢力図が絶え間なく書き換えられる、そんな群雄割拠の時代を象徴する大会となった。
全5試合を3勝2敗で終えた日本代表。キャプテンの池は、「世界各国、強豪ばかりで楽に勝てる試合はない。どちらが勝つか負けるかわからない緊迫した状況で勝ち抜く難しさ、連戦の中で、全勝で勝ち上がる難しさ。そして、どこかに緩みがあると、その1戦で金メダルを失うというシビアさ…様々なことを痛感し学んだ大会だった」と率直な胸の内を語った。
自分たちの“最高”を知った、7月のアジア・オセアニア選手権。対して、世界の強豪との戦いを通して、自分たちの“足りないピース”を知った今回の大会。2023年のパリで目にしたのは思い描いていた景色ではなかった。しかし、確信を持って言えることは、日本はここで終わらない、ということだ。
タフな試合ほど限られたラインナップで戦わざるを得ない海外のチームとは違い、タフな場面でも安藤や草場といった若手の入るラインナップを送り込める日本ベンチの層の厚さ、そして、苦しい時ほど全員で声を出し、簡単には折れない強固なチームワークを見た。経験を武器に、さらに上を目指して行けるのが今の日本だ。
「僕たちは、パラリンピックの金メダルしか目指していない」
車いすラグビー日本代表は、さらなる武器を携え磨き、ブレない目標に向かって突き進んでいく。
【国際車いすラグビーカップ 大会結果】
金メダル;オーストラリア
銀メダル:カナダ
銅メダル;日本
4位:フランス
5位:イギリス
6位:アメリカ
7位:デンマーク
8位:ニュージーランド
写真・ 文/張 理恵