「ヒューリック・ダイハツ Japanパラバドミントン国際大会2023」で日本勢は金2個、銀2個、銅4個の計8個のメダルを獲得する活躍を見せた。決勝戦のライバル対決、強敵との戦いで見えた課題など、それぞれのメダリストの奮闘を紹介する。
まずは、車いす男子WH2シングルスの決勝戦。東京2020パラリンピック(以下、東京2020大会)金メダリストで先日の杭州アジアパラ競技大会も制した梶原大暉(日体大)が、ライバルの陳浩源(香港)を下して圧巻優勝を果たした。試合は序盤から、陳が得意とする試合展開のひとつ、クリア合戦に。後衛の深い場所から前に落とし、それを拾ってまたラリーを続ける両選手。ミスをしたほうが負け、という我慢比べの流れになるが、梶原は「攻め急がない」と冷静にシャトルを追い、相手のクリアが浅くなったところを確実に仕留めた。21-15、21-15のストレート勝利だが、対戦時間は69分の熱戦。「体力には自信がある。(クリアの打ち合いには)こうなることは予想していたので、つき合ってあげるよ、という思いでやれていた」と、振り返る。
BWFや日本パラバドミントン連盟等の記録によれば、梶原がシングルスで黒星を喫したのは2020年2月のペルー国際の決勝で金正俊(韓国)に敗れたのが最後だ。翌年の東京2020大会はその金に決勝で勝利して金メダルを獲得、続くアジアユースパラも制したあとは、2022年は出場した4大会で優勝。今年は杭州アジアパラとこのジャパン国際を含めて9大会で頂点に立っている。しかも、この間にフルゲームに突入したのは、東京2020大会の予選と2022年のバーレーン大会準決勝およびドバイ大会決勝で陳に、今年8月の4ネーションズの決勝で金と対戦した時だけだ。
3年間負けなしの「絶対王者」。その強さの礎には、強くしなやかな肩の動きと、正確無比なショットといった技術的な強みはもちろんのこと、自分のプレーに決して妥協しないメンタリティと向上心がある。梶原は「自分は完ぺきではない」と話し、今回のジャパン国際でも「やっちゃいけない場面でのサーブミスもあった。自分の弱さを改めて感じた」と言い切る。パリ大会のパラリンピック世界ランキング1位を独走するが、「ショットの精度をもっと上げて、楽に勝てる試合が増えるように今後も頑張りたい」と慢心しない。2月の世界選手権に向けて、一層のスケールアップに期待したい。
車いす女子WH1シングルスは、里見紗李奈(NTT都市開発)が尹夢璐(中国)を21-11、21-9で下し、2018年大会以来となる2度目の優勝を果たした。里見は緩急をつけたショットを使い分け、相手を前後に動かして試合の主導権を握ると、最後まで攻撃的なプレーを貫き、女王の存在感を見せつけた。
伏線もあった。前日のダブルスの準決勝で尹のペアに敗れたなかで、自身のドロップの精度には手ごたえがあった。その感覚を信じ、このシングルスでもドロップやカットを攻撃の起点として、尹の動きを封じた。ここまでの対戦成績は里見の5戦5勝。ただ、尹には追い込まれる試合展開が多く、東京2020大会の予選で土をつけられた苦い経験もあり、「ライバルのなかでももっとも怖い相手」だと語っていた里見。今大会、そのライバルを少ないラリー数と納得の内容で退け、「いつもよりも身体のダメージが少ないというのが、今回の大きな収穫」と、うなずく。
2月の世界選手権ではシングルスで3連覇が懸かる。「尹選手に対して、ひとつ壁をこえられた。ただ、こういう試合の後は、相手もすごく対策をしてくる。次はすごくしんどい試合になるかもしれないけれど、それも覚悟したうえで頑張りたい」と話し、前を向いた。
下肢障害SL4女子シングルスの決勝は、2019年の前回大会と同じ藤野遼(GA technologies)対程和芳(中国)のカードとなった。SL4は下肢障害のなかでも比較的障害が軽いクラスで、コートも全面を使用する。つまり、健常者と同じようなスピードやフットワークが求められる。藤野は脳性麻痺のため右手と右脚に障害があり、右脚では地面を強く蹴ることができないが、体力強化と鋭いカットを武器に、世界ランキングの上位につける。対する程は、正確なショットと穴のない試合運びで東京2020大会ではこのクラスの初代女王に輝いた強敵だ。
ここまで6連敗中の藤野は、地元開催のジャパン国際での初白星を狙ったが、序盤から相手の巧みな配球に先行を許し、連続失点を喫してしまう。第2ゲームもコート上に吹く風の影響もあってアウトを重ね、終盤はリズムを変えようとスマッシュを打ち込むが、厳しいラインに返球され、5-21、12-21で敗れた。
「失うものは何もないので打っていったけど、全部上げられてしまった。競技者としての自覚や練習に対する姿勢を見直して、世界選手権までに足腰を鍛えたい。次に対戦するときには今日みたいな試合にならないように頑張りたい」と、言葉を振り絞った。
車いすWH1-WH2男子ダブルスは、松本卓巳(創政建設)・西村啓汰(パシフィック車いすバドミントンクラブ)組が決勝に進出。東京2020大会で頂点に立った最強ペア、麦建朋・屈子墨組(中国)に4-21、15-21で敗れた。コートを広く使う作戦を立てたが、スピードとパワーを持つ相手ペアのショットに押し切られ、返球が甘く入ったところを叩かれた。第2ゲームに入ると西村の鮮やかなクロスカットや、松本のカバー力の高さが光る連携プレーで13-14と1点差に追いつくが、そこから5連続で得点を許し、届かなかった。
杭州アジアパラでも対戦して敗れているが、その時の経験から、相手ペアはふたりとも速く動ける分、真ん中への速いクリアは「相手が迷ってくれる」と感じていたという西村。その有効なショットを勇気をもって打ち込み、松本もラケットを伸ばしてシャトルを拾い、チャンスにつなげた。今回はNO.1ペアに敗れたが、「ニシ・マツ」ペアの新たな引き出しが増えた試合だったと感じた。松本は、「日本で銀メダルを獲れたことが一番うれしいし、西村選手に感謝したい」と語り、西村も「今大会はちょっとでも上に行きたいと意気込んできたので、決勝まで残れたのはよかった。ただ、まだ満足できる結果ではないので、練習して次に備えたい」と、言葉に力を込めた。
また、松本は車いすWH2男子シングルスでも銅メダルを獲得。同WH1男子シングルスの長島理(LIXIL)、同WH1-WH2女子ダブルスの山崎悠麻(NTT都市開発)・里見組も3位に入った。立位では、下肢障害SL3の藤原大輔(ダイハツ工業)が男子シングルスで表彰台にのぼった。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴