いよいよ4年に一度の大勝負が幕を開けるーー。車いすバスケットボール日本代表は1月12日~20日、タイ・バンコクで開催されるアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)に臨む。男女いずれも優勝したチームには、パリパラリンピックの出場権が与えられるという大一番だ。11カ国が出場する男子は、オーストラリア、イラン、そして日本の3カ国が最有力候補だが、日本にとっては“因縁のライバル”である韓国も決して侮れない。強敵が揃うなか、予選プールから激しい混戦となることが予想される。
男子は、まず2つのディビジョンに分かれて総当たりでの予選リーグが行われる。日本は上位のディビジョン(プールA)で、オーストラリア、中国、イラン、韓国、タイとの5試合を行う。その順位によって、下位のディビジョン(プールB)の上位2カ国を含む8カ国での決勝トーナメントの対戦が決まる。
今大会は、初戦から注目の試合が控えている。大会2日目の13日にいずれも初戦を迎える“トップ4”が直接対決するのだ。昨年10月のアジアパラ競技大会でアジア王座を奪還した日本は、AOCでは過去一度も優勝を逃していないオーストラリアとの試合に臨む。一方、昨年の世界選手権3位のイランと、アジアパラ銀メダルの韓国が対戦する。日本はその後、大会4日目の15日にはイラン、予選最終日の17日には韓国との戦いが待ち受ける。
まず初戦で対戦するオーストラリアだが、過去の戦績はパラリンピックと世界選手権で2回ずつ金メダル獲得と、アジアオセアニアゾーン随一。しかし、2019年以降、世界の舞台では表彰台に上がれていない。東京パラリンピックでは準々決勝で日本に敗れ、最終順位は5位。昨年6月の世界選手権でも、7位に沈んだ。
近年の戦い方を見ていると、オーストラリアは今、過渡期を迎えているのだろう。16年リオパラリンピック以降は、1.0、3.0、3.0、3.0、4.0というミドルポインターのアウトサイドのシュート力を軸とするラインナップが主力だったが、昨年の世界選手権では全7試合で先発を担ったのは、1.0、1.0、4.0、4.0、4.0と3枚のハイポインターを擁したラインナップだ。高さを強みとしたオーストラリアらしいスタイルに戻ったとも言える。
また、スピードとシュート力を兼ね備えたトム・オニールソン(3.0)を擁した1.0、2.0、3.0、4.0、4.0のラインナップがもう一つの軸となる。さらにシュート決定力は今なお健在のベテラン、ショーン・ノリス(3.0)もいる。彼ら2人を乗せるか乗せないかでは、オーストラリアの戦力や勢いは格段に違うものになるはずだ。
大会4日目の15日には、イランと対戦する。アジアパラでは準決勝で対戦し、日本が43-40で競り勝った。オフェンス力のあるイランをフィールドゴール成功率28%に抑えたことが最大の勝因となり、特に前半で勢いに乗せることなく、我慢を強いる展開にできたことが大きかった。
しかし、今大会はより厳しい試合となることが予想される。アジアパラの準決勝では、世界選手権銅メダルの立役者となったオミッド・ハディアザールとモハマドハサン・サヤリ(いずれも4.0)が10分ほどしか出場していなかったからだ。世界選手権7試合での総得点は2人とも100点を超えていた。世界レベルの得点力を持つ彼らが、今大会で本領を発揮するだろう。
ただ、両者ともにファウルが多いことでも知られる。世界選手権での総ファウル数は、ハディアザールが最多タイの21、サヤリもそれに次ぐ20を数えた。ディフェンスの技術が高い日本戦となれば、オフェンスファウルも含め、ファウルトラブルの可能性は決して小さくはない。
特に前半で思うように得点が伸びないと、イランは苛立ちを隠せずにヒートアップし、ファウルも増える傾向にある。だからこそ、イラン戦でより重要となるのは前半の展開だろう。たとえ日本がロースコアでも、イランの得点を抑え、勢いに乗せないことに尽きる。アジアパラ同様に、まずはディフェンスで試合を支配できるかがカギを握る。
予選リーグの最後には“日韓戦”が控えている。アジアパラでは予選と決勝で対戦し、1勝1敗。さらに14年のアジアパラ以降の10年間の戦績は、日本の6勝5敗と、まさに“因縁のライバル”だ。
その韓国への対策は明確だ。キム・ドンヒョンとチョ・スンヒョン(いずれも4.0)の得点をいかに抑えるかにかかっていると言っても過言ではないだろう。シュート力がある2人をゴールから離し、アテンプトを少なくしたうえでタフショットを打たせることが重要となる。
もちろん予選リーグで勝利を挙げて勢いをつけ、決勝トーナメントに臨むことが理想だが、京谷和幸ヘッドコーチ(HC)が「予選ですべてをすべて出すわけにはいかないなかで、どう戦っていくかが重要」と述べている通り、あくまでも通過点に過ぎない。勝つべきは、決勝トーナメントであることは、2019年の前回大会の教訓でもある。
前回、東京パラリンピックの予選を兼ねて行われたAOCで、日本は予選でオーストラリア、イランと立て続けに撃破し、1位通過した。ところが、準決勝で予選に続いて韓国に連敗を喫し、さらに3位決定戦ではイランにリベンジされ、まさかの4位。開催国枠がなければ、パラリンピックの出場を逃していたことになる。
その日本が、結局は東京パラリンピックで銀メダルを獲得したことからも、アジアオセアニアの4強は今、どこが勝ってもおかしくない群雄割拠の時代と言える。今大会も激戦が繰り広げられることは間違いない。
そんななか、いずれの試合でも最重要となるのはディフェンスだ。日本が東京パラリンピック以降、取り組んできたディフェンスの種類の豊富さも精度もおそらく世界トップを誇るだろう。今大会のメンバー12人のうち東京パラリンピックを経験したのは8人。その全員が「銀メダルを獲得した東京の時よりも強くなった」と自信を口にする。
アジアパラではフィスト(プレス)の究極の形である“フィストパワー”を初披露し、優勝への糸口としたが、実は新しいディフェンスはそれだけではない。果たしてAOCでは、いつどんなディフェンスのカードを切るのかも見どころとなる。
そして、チームの真価が問われるのが得点力だ。特にセットオフェンスでのアウトサイドのシュート成功率が勝敗を分けるポイントとなる。京谷HCから全幅の信頼を寄せられている藤本怜央(4.5)、香西宏昭(3.5)のベテラン2人に並ぶシューターが出現することが期待される。
なかでも赤石竜我(2.5)は注目の一人だ。もともと守備力を買われて代表の座に上がってきた赤石だが、東京パラリンピック後はシューターとしても開花。3ポイントシュートがディフェンスに並ぶ彼の代名詞となりつつある。その実力を出し切れずに終わったアジアパラの分も、今大会では本領発揮といきたいところだ。
また、鳥海連志(2.5)も、ポイントガードの役割として自身の得点が、チームのシュートチャンスにつながると考え、東京パラリンピック後はよりアウトサイドのシュートを磨いてきた。赤石同様に消化不良に終わったアジアパラのリベンジとしたい。
貴重なシックスマンの役割を担う古澤拓也(3.0)には、流れを変えるシュートを期待したい。もともと3ポイントシュートを持ち味の一つとしてきた古澤だったが、東京パラリンピック以降はシューターとしては影を潜めてきた。しかしアジアパラで復調の兆しを見せており、その後の合宿でも調子の良さが感じられるだけに、完全復活の姿が見られそうだ。
今大会、準優勝チームには4月の世界最終予選への出場権が与えられ、パリへのチャンスが残される。だが、「自分たちは優勝しか見ていません。そこだけを目指して戦います」とキャプテンの川原凜が言うように、チームは頂点に立つことしか考えていない。果たして、バンコクの地でパリ行きを決めることができるか。自力での出場権獲得という意味では、8年ぶりとなる大一番がいよいよ始まろうとしている。
写真・ 文/斎藤寿子