12日、タイ・バンコクでアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)が開幕。日本代表は男女ともに1枚しかないパリへの切符を獲得するべく、優勝を狙う。大会3日目の14日から予選プールがスタートする女子日本代表は、まず世界2位の中国、メンバーが大幅に入れ替わったオーストラリアと2試合ずつを行う。その順位によって決勝トーナメントの山が決まり、準決勝、決勝に臨むことになる。2013年を最後に勝つことができていない強豪・中国、そして未知の不気味さを持つオーストラリアに対する攻略ポイントを探る。
予選プールで日本は、初戦の中国戦で手応えをつかみ、その後の連戦につなげたい。その中国戦、まずはチーム目標に掲げている「60点台に抑えるディフェンス」にどれだけ近づけられるかが、一つの指標となるだろう。
その意味で、日本は大きな自信を持つ。昨年3度対戦した中国戦の、いずれの試合も60点台に抑えているからだ。もちろん相手が日本のディフェンスに対応してくることは想定しており、これまで重点を置いてきたオールコートのディフェンスの精度を高めると同時に、ハーフコートのディフェンスもしっかりと強化してきた。驚異的なシュート力を持つ中国をゴールから離れさせ、タフショットを打たせることがまずは大前提となる。
そのうえで勝利の最大のポイントとなるのが、オフェンスだ。昨年6月の世界選手権ではしっかりと競り合い、一時は日本がリードを奪ったが、フィールドゴール(FG)成功率を見ると、50.0%の中国に対し、日本は36.5%。アテンプト数は中国の56を上回る63を数えていただけに、決定力が課題であることが浮き彫りとなった。
今大会も中国が通常通りにハーフコートに引いてディフェンスをしてきた場合は、シュートの決定力、特に中国にはない強みとされる3ポイントシュートの確率を上げることができるかが重要となるはずだ。
一方、10月のアジアパラ競技大会での2試合、中国はいずれもオールコートのプレスディフェンスをしかけてきた。想定外の奇策に、日本は対策を講じ効果もあったが、しかし決して完全ではなかった。岩野博ヘッドコーチ(HC)が「どうしても強い当たりに対してブレイクすることが主眼に置かれて、攻め切るところまで意識がいっていなかった」と語れば、キャプテンの北田千尋(4.5)も「確かにフロントコートにはボールを運ぶことができましたが、そこからしっかりとシュートシチュエーションにもっていくことができなかった」と振り返る。
そのアジアパラから2カ月余り、日本は中国のプレスへの対策を図ってきた。単にブレイクするだけでなく、その後の攻めを頭に入れながら、スペースを意識した流れの中でレイアップのチャンスを生み出す。そうしたシチュエーションが増えれば、中国は下がらざるを得なくなる。その時こそ、岩野HCが就任して以来、磨いてきた3ポイントシュートが生きてくるはずだ。
中国のメンバーは、アジアパラでは東京パラリンピックから6人が入れ替わり、今大会はそのアジアパラから1人が入れ替わった。しかし、主力の6人で40分間を戦うスタイルは東京前からまったく変わっていない。
もちろん主力6人だけで東京パラリンピックおよび世界選手権で銀メダルを獲得するその強さはまさに脅威だ。しかし、主力が崩れた場合の流れを変えるカードを持ちえていないという苦しいチーム事情を抱えていることも事実だろう。
その点、チームで戦いに挑む日本には切るカードが揃っている。北田も「どの選手が出ても戦力が変わらないのが、日本の強み」と自信をみなぎらせる。目指すは、決勝での“ジャイアントキリング”だ。
早めのアジャストで主導権を握りたいオーストラリア戦
中国と最後の決勝を戦うためにマストとなるのが、オーストラリア戦だ。ただ、今大会のオーストラリアは戦ってみないとわからない未知のチームでもある。
2022年のAOCは、東京パラリンピックから半数の6人が入れ替わり、そのAOCとほぼ同じメンバーで臨んだ昨年の世界選手権から、今大会はさらに6人が入れ替わっている。東京パラリンピック以来の代表復帰、あるいは一度は引退した選手の現役復帰なども見られ、国内での競争が激しいことが推測される。
しかし日本や中国にとってまったくの想定外だったのは、これまで唯一無二の大黒柱として君臨してきたアンバー・メリット(4.5)が引退し、不在ということだろう。どれだけ“絶対的な存在”だったかは、数字からも明らかだ。東京パラリンピックでは1試合平均得点は全体で2位の21.4点。決勝トーナメントに進出したチームより試合数が少なかったにもかかわらず、総得点部門でも堂々の6位に入った。
22年のAOCでは、得点(189)、リバウンド(68)の2部門でトップ。2位がそれぞれ北田の79得点、イラン選手の53リバウンドだったことからも、オーストラリアがいかに“メリット頼り”だったかがわかる。そして、その状態は昨年の世界選手権でも同様だった。チームは6位だったが、個人ランキングでは優勝したオランダのダブルエースを上回る得点を挙げてトップスコアラーに輝いた。また、東京パラリンピック後に主力のガードを務めていたジョージア・イングリス(2.5)も今大会は不在だ。
一方で、2004年アテネから3大会連続でパラリンピックでメダルを獲得しているシェリー・マセソン(3.5)が5年ぶりに現役に復帰するなど、“アラフォー”のベテラン勢も名を連ねている。いずれにしてもメリットが抜けた穴をどう埋めるかが、オーストラリアにとっては最大のカギとなることは間違いない。
日本はそのオーストラリアに対して早めにアジャストし、試合を優位に進めたい。どのラインナップ、ディフェンスが効果的なのか、見極めが重要となりそうだ。
女子の世界最終予選は、4月に大阪で開催される。そのため日本には開催国枠があり、AOCでパリへの道が閉ざされることはない。しかし、選手たちは最終予選に行くつもりはまったくない。目指すは「中国を倒して、パリ行きの切符をつかむ」のみだ。
大会直前に主力の一人、大津美穂(2.5)が負傷し、出場を辞退することが発表された。さらに厳しい戦いとなることが予想されるが、“Fearless”のチームスローガンの下、怖れることなく、08年北京大会以来となる自力でのパラリンピック出場に向けて突き進む。
写真・ 文/斎藤寿子