2月3、4日、東京体育館で車いすバスケットボールのクラブ日本一決定戦「天皇杯 第49回日本車いすバスケットボール選手権大会」が開催される。コロナ禍での延期を経て、昨年3年半ぶりに開催された前回大会では、11連覇の宮城MAX(東北)が初戦敗退を喫した一方で、パラ神奈川SCが22大会ぶりに王座奪還を果たした。パラ神奈川SCは今年度、「神奈川VANGUARDS」に名称を変更。キャプテンの鳥海連志(2.5)や古澤拓也(3.0)、丸山弘毅(2.5)などの既存メンバーのほか、髙柗義伸(4.0)や宮本涼平(1.0)など日本代表クラスの選手たちが加わり、新たなスタートを切った。今大会ではチーム初の連覇を狙い、“常勝”への一歩を踏み出すつもりだ。その神奈川の牙城を崩すチームが出現するかが、今大会最大の見どころとなる。
まず優勝候補の一角として挙げたいのが、埼玉ライオンズ(関東)だ。関東ブロックの第1次予選会、そして東日本第2次予選会では、いずれも他を寄せ付けない圧倒的な力を見せて1位通過した。昨年の天皇杯で準優勝したNO EXCUSE(東京)に対しても第2次予選会の決勝で66-40と大勝し、チーム力の高さを示した。
昨年とメンバーはほとんど変わらないが、チーム力として熟練度が増している印象だ。中井健豪ヘッドコーチ(HC)も「第1次予選会では苦しい展開のゲームもあったが、それでもいいステップを踏んでいて、チームビルディングにおけるケミストリーの部分で非常にかみ合ってきた」と自信を持つ。
中井HCが緻密な戦術・戦略を練る一方、選手たちは自主的にフィジカルを強化してきたという。「“勝つための戦術”を遂行できているのは、そのベースとなる“負けないフィジカル”を選手たちが頑張ってくれたおかげです」と中井HC。特に日本一のスピードを持つ神奈川に勝つためには、フィジカルの強さは必須だと指揮官は見ている。それを見据えて“フィジり倒す”をテーマに戦った第2次予選会、決勝でNO EXUCUSEに快勝したことでチームはさらに大きな自信をつかんだ。
練習中から不甲斐ないプレーに対して、ライバルチームの主力選手の名前を出して鼓舞するなどして常に天皇杯優勝を意識づけしてきたという中井HC。「いつかではなく、絶対に今年勝つ」という気持ちをチーム全員が共有し、初優勝を狙う。
その埼玉と1回戦で対戦するのが、西日本第2次予選会を3位通過し、2大会ぶりの出場を決めたライジングゼファーフクオカWheelchair(九州)だ。埼玉にはキャプテンの北風大雅(4.5)、大山伸明(4.5/健常)、朏秀雄(4.0)というハイポインター陣のほか、アウトサイドのシュート力を持つ赤石竜我(2.5)や原田翔平(1.0)などがおり、高い得点力を誇る。その埼玉をロースコアに抑えることは至難の業だろう。
そのためカギを握るのは、フクオカがシュート決定力をどこまで高められるかだろう。HCを兼任し、絶対的エースでもある福澤翔(4.5)が大黒柱となることは間違いないが、その福澤以外に得点源となる選手が現れるかがポイント。注目したいのはキャプテンの赤窄大夢(2.5)で、いかにアウトサイドのシュートを高確率で決められるかが勝敗を分けることになりそうだ。
埼玉とフクオカの勝者とファイナル進出をかけて準決勝で対戦するのが、伊丹スーパーフェニックス(近畿)とCOOLS(東京)の勝者だ。2年連続で西日本第2次予選会を1位通過した伊丹は、西日本では無敵を誇る強豪。キャプテンの堀内翔太(4.0)や伊藤壮平(4.5/健常)、さらにはクラス2.0ながらハイポインター並みの高さを持つ桑原旭祥もおり、インサイドの強さがある。
さらに村上直広(4.0)や川上祥平(2.0)、網本麻里(4.5)といった国内トップクラスのシューターも顔をそろえ、アウトサイドからの得点力も高い。選手層は国内随一を誇り、ラインナップのバリエーションも豊富。ラインナップごとに特徴が異なり、相手にとっては厄介だ。ベンチともプレータイムをシェアしながら戦うことができるという点も強みとされる。
伊丹の三浦玄HCによれば、第2次予選会では見せなかったオフェンスのシステムもあるという。狙い通りここ1、2年に加入した新メンバーを含めたさらなるチーム力アップが図ることができれば、2004年以来、16大会ぶりとなる西日本からの王者誕生の可能性は十分にある。
一方、久々に全国の舞台を踏むCOOLSは、天皇杯としては初出場。ほとんどのメンバーにとって初めての日本一決定戦となる。快進撃を見せた東日本第2次予選会では、初戦で日本選手権で最多となる13度の優勝を誇る千葉ホークス(関東)に63-58で競り勝ち、旋風を巻き起こした。
トーナメントが発表されて以降は初戦での千葉対策に注力してきたと言い、ディフェンスではインサイドケアのための1対1の強さ、オフェンスではスクリーンからのドリブル突破よりもパスを回すことでコートを広く使い、相手のディフェンスを崩す戦法をとった。
さらにゲーム前のアップも工夫したという。それまでは試合開始3分前には一度アップを終えてベンチで集合をかけていたが、1分半前というギリギリまでアップの時間を伸ばした。その意図について、HCを兼任する坂上拓也(2.5)はこう語る。
「選手によっては3分前だと試合までの間にせっかくの集中力が途切れると。それでスタートから集中力を持って体も動かせる状態で入れるように、ギリギリまでアップの時間にあてることにしました」。それが功を奏し、千葉との初戦では1Qで20-12と大きくリードを奪い、主導権を握った。
さらに、ここ1、2年で新しい戦力が加わり、スピードと高さを兼ね備えたチームへと変貌を遂げたことも躍進の要因の一つとなった。22年には16年リオデジャネイロパラリンピック男子日本代表の永田裕幸(2.0)が加入。もともとのスピードに加えて、近年になって磨きをかけてきた3ポイントシュートも武器となり、攻防にわたって大きな力をもたらしている。さらに青柳隼翼(4.5/健常)、野本陵太(4.5/健常)、青柳雄一郎(4.5/健常)と3人のハイポインター陣が揃い、インサイドの強さもチームが飛躍した要因の一つだ。
伊丹もCOOLSも高さがあるチーム同士だけに、“インサイドケア”と“アウトサイドのシュート力”がカギを握りそうだ。
そして優勝の最有力候補とされる神奈川とまず初戦で対戦するのが、SAGAMI FORCE(関東)だ。東西に分かれて行われた第2次予選会での4位チーム同士で行われた最終予選会では58-56で神戸STORKS(近畿)に競り勝ち、初の全国への切符を掴んだ。
キャプテンの春田賢人(2.5)の速攻もチームの強みとするSAGAMIだが、国内最速とも言われるスピーディな展開を得意とする神奈川とは、やはりオールコートでのスピード勝負は避けたい。いかにハーフコートでバスケットができるかがカギを握るだろう。そのうえでHCを兼任する坪龍司(4.5/健常)の高さ、あるいはドライブを得意とする春田や女子の椎名香菜子(4.5/健常)のスピードを生かしてペイントエリアを攻めることができるか。
神奈川に一気に流れをもっていかれることなく、前半で点差を1ケタに抑えることができれば、勝機はある。初戦で“ジャイアントキリング”となれば、間違いなく今大会一番の台風の目となるはずだ。
その神奈川とSAGAMIとの勝者と準決勝で対戦するのが、NO EXCUSEとワールドBBC(東海)の勝者だ。NO EXCUSEは過去に5度、決勝に進出しているが、いずれも準優勝に終わった。その5度目となった前回大会は決勝で神奈川に2、3Qの20分間で突き放され、最後に猛追したものの44-51で敗れた。その敗因の一つとして挙げられていたのは、チームの総力だった。主力とベンチとの戦力に差があったことは否めず、決勝では先発の5人中4人が40分間フル出場した。
その点、今回のNO EXCUSEはチーム全員での勝利を目指すスタイルにシフトしている。予選会ではさまざまなラインナップが登場。そのなかで、前回大会で主戦だった1.0、1.5、3.5、4.0、4.0のほかに、新加入の立川光樹(3.0)が入った1.5、2.0、3.0、3.5、4.0のラインナップが柱となりそうだ。
対するワールドは、ベテランが揃った少数精鋭のチーム。もともと時間とスペースを使い、5人の合わせでしっかりとシュートチャンスを作り出すスタイルだが、主力の5人が40分間フル出場することも少なくないというチーム事情からも、スピードや走力によるガチンコ勝負は避けたい。
杉浦寿信HCも「相手主導ではなく、自分たちのバスケットを自分たちのリズムでやれるかが重要」と語る。ベテランだからこその熟練したプレーは安定感があり、今や唯一無二と言っても過言ではない独特のバスケットは、相手にとっては厄介だ。どれだけ多くの時間、自分たちの土俵に相手を引きずり込めるかが勝敗のカギとなる。
いずれのチームも2次予選会や最終予選会からの約4カ月間で、どこまでチーム力を伸ばすことができているかが重要となる。そして神奈川は1年ぶりとなる負けられないプレッシャーがかかる公式戦で、いかにチームの士気を高めていけるか。日本のトップ8が集結する天皇杯。日本最高峰のプレーの応酬で熱戦が繰り広げられることを期待したい。
写真・ 文/斎藤寿子