1月25~28日、パラスポーツの普及と日本代表の競技力向上を目的とした国際大会「2024 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催された。
世界ランキング9位(※)のドイツと同11位のブラジルを迎えて行われた今大会で、日本(同3位)は決勝を含む全7試合で圧倒的な強さを見せ、パラリンピックイヤーの幕開けを全勝優勝で飾った。(※2023年11月24日付)
車いすラグビーでパリ・パラリンピックに出場できるのは8カ国。昨年の大陸予選(ヨーロッパ、アジア・オセアニア、南北アメリカ)を経て、日本を含む5カ国がすでに出場権を獲得している。3月には残り「3枠」を巡り8チームがしのぎを削る世界最終予選が開催され、今回来日したドイツとブラジルは、そこでの出場権獲得を目指している。
パリ・パラリンピックとその先に向け、チーム全体の底上げを図る日本代表は、国際試合の経験が浅い若手選手を中心としたメンバーで今大会に臨み、試合では若手とベテランを組み合わせたラインナップが多く起用された。
日本の初戦となったドイツとの一戦では、立ち上がりから日本の強いプレッシャーが機能し、守備から攻撃、攻撃から守備への早いトランジションでドイツにリズムを渡さない。フル代表として出場する国際大会で初めてスターティング・ラインナップに名を連ねた橋本勝也は、ローポインターと連係して相手ディフェンスを抜き去り、また、同じクラブチームに所属する中町俊耶からのロングパスを着実に得点につなげ、29点を挙げる活躍でチームに勢いをもたらした。試合は日本が50-38と快勝。その後も日本は相手を10点以上引き離す戦いぶりで、予選ラウンドの6試合すべてで勝利を収め、アジア・オセアニア王者のプライドを見せた。
そうして迎えた、ブラジルとの決勝戦。ブラジルはスピードのある若手ハイポインター2名が入るラインナップで日本に挑んだ。序盤から走り合いとなったこの試合で印象的だったのは、日本の「密なコミュニケーション」だ。コートの中で声を掛け合い、ポジションや次の動きを確認するのはもちろん、オフコートでのベンチワークも光った。ベンチにいるメンバーは、ただボールの動きを追うのではなく、まるで役割分担でもしているかのように、それぞれが違う場所に視線を向け、状況を仲間に伝える。コートに立つ4人だけではなく12人全員で得点を奪い、リードを広げていった。
ブラジルは個人技に頼らざるをえない苦しい展開が続いたが、あきらめないプレーで走り続けた。しかし、日本の壁を崩すことはできなかった。最後は、白川楓也がとどめのラストトライを決め55-43で試合終了。日本は全勝優勝で大会を終えた。
日本代表キャプテンの池透暢と副キャプテンの羽賀理之が不在となった今大会で、岸光太郎ヘッドコーチ(以下、HC)の絶大な信頼を得てキャプテンを務めたのが乗松聖矢だ。
ディフェンスとハードワークを武器に、代表での確固たる地位を築いている乗松は、チームのメカニックが「どの選手よりもタイヤがすり減るのが早い」と語るほどの練習量を誇る。車いすラグビー人生で初めてキャプテンという大役を担った乗松は、「今までとは全く違う心境で初戦を迎えた」という。ただ、そこには明確なキャプテン像があった。
「自分が考えるキャプテンというのは、チームによくない流れとか、何か助けが必要なときに、チームが前を向くような言葉であったりプレーをできる人だと思っている。今のところチームはいい流れできているのでそんなに仕事はないが、チームに必要な声など常に考えて過ごしたい」
そして、ずっと背中を見てきた池への思い、また、目指すべきチームの在り方についても語った。「コート外のところでこれまで池さんが背負ってきたものの大きさを肌で感じている。池さんだけではなく、選手それぞれが気づいたことを補い、チームを強くすることに関わっていく、そういう人間が集まるチームが絶対に強いチームだと思う。ラグビーだけではなく、そういう部分にもチーム全員で目を向けていきたい」
コートではプレーで引っ張り、ベンチでは人一倍大きな声で仲間を鼓舞し続けた乗松。そのリーダーシップが、またひとつ、日本を強くした。
岸HCは今大会での戦いを次のように振り返った。「いま課題として取り組んでいるのは、『チームプレー』の精度を高めることです。個人のスキルでボールを運ぶのではなく、例えば、仲間のローポインターを使いながら焦らずに上がり、そこで走れなかったとしても、スペースを使って上の方でパスをもらうようにするというイメージです。チームとして戦う力をつけるには、みんなが一致した戦術を確認してそれを成し遂げることが必要です」
その言葉の通り、ハイポインターが個のパフォーマンスで相手を振り切れる場面でも、味方のローポインターが来るまで一瞬待ち、2人の連係で、より確実にボールを運んでいく、というプレーが目立った。
そこで思い出されたのが、パリ・パラリンピックへの切符を勝ち取った、昨年7月の「アジア・オセアニア選手権」での戦いだった。一致した戦術理解のもと同じ絵を描きながら、コート上の4人が連動して動き、どのラインナップが出ても一貫したプレーをし続けた。加えて、その大会を最後に退任するケビン・オアー前HCに勝利を届けたいという全員の強い思いも、チームを後押しした。
その一方で、数名のメンバーが入れ替わったとはいえ、そして各国が日本への対策を強化したとはいえ、「自分たちのラグビー」ができずに悔しさを味わったのが、その3カ月に行われた「国際車いすラグビーカップ」だった。個々の経験と同じように、チームとしての経験がチームを成長させ、強くする。キーワードは、「チームとして戦う力」。
パリ・パラリンピック開幕まで、200日。心ひとつに、オールジャパンで、東京で成し遂げられなかった悲願達成に向け、突き進んでいく。
【試合結果】
(1/25)日本 ○ 50–38 ● ドイツ
日本 ○ 57–32 ● ブラジル
(1/26)日本 ○ 62–34 ● ブラジル
ドイツ ● 34–47 ○ 日本
(1/27)ドイツ ● 39–54 ○ 日本
ブラジル ● 27–50 ○ 日本
(1/28)<決勝> 日本 ○ 55–43 ● ブラジル
【最終順位】 優勝 日本 2位 ブラジル
写真/SportsPressJP・ 文/張 理恵