17日、Asueアリーナ大阪では「2024IWBF女子車いすバスケットボール最終予選」が開幕し、20日までの4日間にわたって、パリパラリンピック出場をかけて最後の熱戦が繰り広げられる。残された4枠の出場権を8チームで争う今大会、女子日本代表は開催国枠が与えられた東京2020大会を除き、08年北京大会以来となる自力での切符獲得を目指す。
今大会に出場するのは、各大陸ゾーンの予選を勝ち抜いたスペイン、ドイツ(いずれもヨーロッパ)、アルジェリア(アフリカ)、カナダ(アメリカ)、オーストラリア、タイ(いずれもアジアオセアニア)と、パラリンピック開催国のフランス、そして最終予選開催国の日本の8チーム。まずは2グループに分かれ、4チームで総当たりでのリーグ戦が行われる。その順位に基づいて最終日にはクロスオーバー戦が行われ、勝利した4チームがパリへの切符を掴むことになる。
つまり最も重要なのは最終日に勝つことだが、その対戦相手を決めるグループリーグもまた、パリへの扉を開けるかどうかのカギを握っている。そのグループリーグで日本が対戦するのはカナダ、フランス、スペイン。特にポイントとなるのは、初戦のカナダ戦、そして最後のスペイン戦だ。
大会初日の17日に対戦するカナダは、今大会の出場国のなかで最強と言っていいだろう。昨年のパラパンアメリカ大会では準優勝と最短でのパリ行きを決めることはできなかったが、優勝したアメリカと56-62と善戦。最後の4Qは21-16とアメリカの得点を上回り、最後まで激しく競り合った。
得点源は、アリン・ヤンとカディー・ダンデーノのいずれもクラス4.5のハイポインター。アメリカとの決勝では両者ともに2ポイントシュートは40%台の成功率を誇り、ヤンが15得点、ダンデーノが19得点と量産した。高さを生かしたインサイドへのアタックもさることながら、日本と並んで3ポイントシュートもある。さらに、スピードとクイックネスを持ち味とする司令塔のシンディ・オウレ(3.5)のドライブも脅威で、オフェンス力は間違いなく今大会随一だ。
日本とは東京2020パラリンピックで2度対戦し、グループリーグで35-61、5・6位決定戦で49-68と連敗。さらに昨年2月の大阪カップでも、44-73と完敗を喫している。ただ主力メンバーが変わっていないカナダが、どういうバスケをしてくるかは熟知しているだけに、対策を立てやすいチームでもあるだろう。いかに3人のキーマンを思うようにプレーさせないディフェンスができるかに注目したい。
大会2日目に対戦するフランスは、開催国枠が撤廃されたために、2大会ぶりのパラリンピック出場を目指す。さらに昨年の世界選手権にも出場することができなかったため、世界の舞台は16年リオパラリンピック以来だ。
実力からすればグループリーグで最も格下の相手と言えそうだが、対戦していないだけに日本にとっては不気味な相手でもある。もしフランスに敗れた場合、グループで最下位になる可能性が高くなり、そうなれば最終日のクロスオーバーはもう一方のグループを1位通過したチームとの対戦となる。そのため絶対に落とすことができない一戦。ここで足元をすくわれないようにしたい。
そしてグループリーグでの最大のヤマ場となるのが、大会3日目のスペイン戦だ。昨年の世界選手権では最後の7・8位決定戦で対戦しており、日本が54-51で競り勝っている。実力は拮抗しており、今大会でも激戦が繰り広げられることが予想される。
長身センターのイザベル・ロペス(4.5)も脅威だが、チームの柱はペアトリス・スダイレ(3.0)だろう。世界選手権の日本戦では、最多の21得点および15リバウンドをマーク。その2カ月後、銅メダルを獲得したヨーロッパ選手権でもスダイレが得点、リバウンド、アシストでチーム最多を誇っていることからも、いかに彼女を抑えられるかがスペイン戦の最大のカギとなりそうだ。
さて、日本は今年1月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)でパリ行きを決めることはできなかったものの、決勝では前半をリードし、世界2位の中国を苦しめた。世界選手権でも中国をあと一歩のところまで追いつめており、チーム力は着実に上がっている。
なかでもマンツーマンから、横一列になって下がっていくシャドウ、そしてハーフコートディフェンスと3段階で移行するオリジナルのシステムを持つディフェンスは、試合を重ねるたびに強固となっている。まずはマンツーマンで強いコンタクトで相手の動きを封じ、シャドウへの移行のタイミングやラインを合わせることができるかがポイントとなるが、できるだけフロントコートに押し込み、相手の攻撃時間を削りたい。
さらに課題として取り組んできたハーフコートのディフェンスが機能するかも重要だ。今年2月の大阪カップでも大会期間中にいくつかの修正にトライし、その後の合宿で強化を進めてきた。高さのある海外とはミスマッチが起こりやすいだけに、いかにペイントエリアへの侵入を防ぐことができるかがカギを握る。
一方、オフェンスにおいてはまずはアテンプト数に注目したい。大阪カップでは、強豪イギリスとの2試合でいずれも大きな差が生まれ、得点の伸び悩みにつながった。その原因として岩野博ヘッドコーチ(HC)が指摘したのは、いずれの試合でも2ケタを数えたターンオーバーだ。特に相手がプレスディフェンスであたってきた際のミスは、カウンターの機会を与えることにもなり、要注意だ。
そこで合宿では、バックコートからフロントコートへとパスを出す際の動きを修正し、プレスブレイクの際のボール運びを入念に確認した。いかに早くフロントコートにボールを運ぶことができるかが、その後のシュートに大きく影響してくる。
そして、何より大事なのがシュート成功率だ。まず大前提として、日本が得意とする速攻やカットインからのレイアップシュートを確実に決めること。そして、生命線となるアウトサイドのシュートの確率をどれだけ高められるかがカギを握る。なかでも注目したいのは、網本麻里(4.5)のドライブからのレイアップ、柳本あまね(2.5)の3ポイントシュートで、相手のディフェンスを崩すことができるかだ。
そのほかキャプテン北田千尋(4.5)や萩野真世(1.5)、さらにベンチには土田真由美(4.0)も控えるなど、日本には好シューターが揃っている。一人ひとりが実力を遺憾なく発揮し、チームのフィールドゴール成功率を40%台にのせられれば、勝機は見えてくるに違いない。
「Fearless~地獄の40分間のその先に」をスローガンに掲げ、世界選手権、アジアパラ、AOCと戦い続けてきた女子日本代表。今大会はその“集大成”ではなく、あくまでも“通過点”。“Fearless JAPAN”がパリへの扉を開ける瞬間は、もうすぐだ。
写真・ 文/斎藤寿子