「2024ジャパンパラゴールボール競技大会」が3月15日から2日間にわたり、横浜国際プールで開催された。世界ランキング2位の日本、同6位のイスラエル、同14位の韓国、同20位のフランスの4カ国が参加。日本を含めてこの4カ国はすでにパリ2024パラリンピックの出場を決めており、本大会の前哨戦にふさわしい熱戦が繰り広げられた。日本は総当たりの1次リーグを3戦全勝とし、準決勝ではフランスに快勝。決勝では、イスラエルに1-3で敗れ、昨年に続く優勝はならなかった。
総当たりの1次リーグ初戦の相手フランスは、パリ2024大会の開催国として経験を積んでいる成長中のチームだ。日本は前半、センターにキャプテンの高橋利恵子、レフトに新井みなみ、ライトに萩原紀佳の布陣で臨んだ。立ち上がりこそフランスの堅守にゴールを阻まれたが、開始5分が過ぎたところで、新井がレフトからセンターの右側に移動して投げた鋭いボールが相手の身体を乗り越えて先制点。その後も得点を重ねて5-0と優位に試合を運んだ。日本は後半、センターに安室早姫、レフトに天摩由貴、ライトに小宮正江と、がらりとメンバーを変える。そして、開始から2分の間に天摩が2連続得点に成功すると、センターの安室が相手の投球をブロック後に速攻で8点目をマーク。その後は、フランスの反則によるペナルティスローで小宮と安室が1点ずつ決め、10-0のコールド勝ちと、好発進した。
第2試合はイスラエルと対戦。開始3分で、イスラエルのエース、リヒ・ビン・デビッドの強力なボールが、センター高橋とレフト新井の間を抜き、先制点を許す。その直後、ライトの萩原がセンター寄りのポジションから投球したボールがバウンドしながら相手を乗り越え、1点を取り返すことに成功。前半残り2分には、イスラエルのハイボールの反則によってペナルティスローが与えられ、萩原が落ち着いて決めて2-1と逆転した。後半は小宮の得点と、安室のペナルティスローによる得点を追加。イスラエルには1点を返されたもののリードを守り、4-2で勝利した。
1次リーグ最終戦の韓国との試合は、両チームとも堅守が光り、無得点で進む。前半残り2分で、萩原が均衡を破る先制点を決めると、後半は新井の3連続得点などで主導権を握り、5-0と快勝した。1次リーグ1位の日本は、同4位のフランスと準決勝で再び対戦。ここでも、先発したライトの小宮が前半だけで4得点を入れるなどして主導権を握り、7-1で勝利した。
決勝は、センター高橋、レフト新井、ライト萩原が先発し、先制点を狙った。しかし前半、イスラエルのデビッドの回転投げによる強烈なボールを止めることができず、2失点を喫してしまう。日本は相手の反則によるペナルティスローで1点を返すが、またもやデビッドにセンターとレフトの間を抜かれ、1-3と追いかける展開に。後半はイスラエルの猛攻を抑えた日本だが、2度のペナルティスローをいずれもセーブされたことが響いて無得点に終わり、追いつくことができなかった。
試合後、萩原は「個人的には2、3本目のペナルティスローを外し、コントロール力の悪さが目立ってしまった」と悔やみ、「相手に研究されても、ぶち抜ける技術をつけたい。合宿や大会を通して、パリまでにしっかり改善していく」とコメントした。昨年は、アジアパシフィック選手権やアジアパラ競技大会、ワールドゲームズといった重要な国際大会ではいずれも銀メダルだった日本。萩原は「苦しみは、もうおなか一杯。パリではうれし涙、喜びに変えられるように、チーム一丸となって突き進んでいきたい」と、ロンドン大会以来の金メダル獲得を誓っていた。
今大会はパリ2024大会の日本代表選手選考期間に実施されたこともあり、選手たちは緊張感を持ちながらも、それぞれがパリへの想いをプレーで表現していた。
とくに刮目したのは、若手からベテランまで充実しているレフトだ。東京2020大会を観て競技を始めたチーム最年少の21歳の新井は、昨年のジャパンパラ競技大会で国際大会デビューを果たした新星。175センチの長身を活かしたしなやかな投球を武器に、急成長を遂げている。今大会は決勝を含む3試合で先発を経験。決勝のイスラエル戦では、自身とセンターの間を抜かれ得点を献上するなど反省点もあったが、1次リーグでは強化している移動攻撃などで計5得点と、勝利に貢献した。パリに向けて、「メンバーに選ばれるよう、さらに練習を積んでいく。回転投げのバウンドボールで高低差をつけるような攻撃もしたい」と、さらなるスケールアップに意欲を燃やしていた。
リオ大会から2大会連続でパラリンピックに出場している天摩は、1次リーグと準決勝のフランス戦では精度の高い投球で得点を決め、また全試合を通して守備力の安定感が光った。実は、もともとはライトプレーヤーの天摩。昨年のアジアパラ競技大会後にポジションチェンジし、本格的にレフトに取り組み始めた。その理由について、天摩はこう話す。「この数年、チームの失点の多くが真ん中から左側で、ずっと変わらない課題があった。自分としてもディフェンス面はこの数年でとくに磨いたところで、チームがパリで金メダルを目指すうえで、もし自分にやれることがあるならば、それを全部出しきりたかった。そのひとつが、レフトへの挑戦だった」。天摩の場合、守備をする際にライトと同じように頭が中側に寄るため、内側に転がってきたボールは手でしっかりと抑え込む必要がある。「まだ苦戦しているけれど、身体の使い方は今まで以上に着目して取り組んでいる。パリまで一日一日を大事に過ごしていきたい」と、言葉に力を込めた。
また、センターが本職の安室は、準決勝の後半、高橋の投入に伴いポジションをレフトにスイッチしてプレーを継続した。決勝のイスラエル戦でも新井に代わってレフトで出場するなど、マルチプレーヤーぶりを発揮した。さらに、今大会はケガの影響で欠場したが、力強い回転投げでチームをけん引する欠端瑛子も主なポジションはレフトだ。パリに向けたチーム構成と選手起用に注目が集まる。
写真/植原義晴・ 文/荒木美晴