「天皇杯・皇后杯 第40回飯塚国際車いすテニス大会(Japan Open 2024)」が4月9日から14日まで、福岡県のいいづかスポーツ・リゾートテニスコート等で開催された。カテゴリーはグランドスラムに次ぐスーパーシリーズ。パラリンピックイヤーということもあり、20カ国・1地域から世界のトップランカーを含む97人がエントリーした。女子シングルス決勝は、上地結衣(三井住友銀行)がアニク・ファンクート(オランダ)に2-6、6-1、6-0で勝利。2018年大会以来の優勝を果たし、皇后杯を手にした。
※以下、世界ランキングは2024年4月1日付のもの
女子シングルスは世界ランキング2位の上地が第1シード、また同4位の大谷桃子(かんぽ生命)が第2シードに入った。同1位を独走するディーデ・デ フロート(オランダ)はアジアシリーズの参戦を回避しており、また同3位のイエスカ・グリフィオン(同)もエントリーを見送った。
2回戦から登場した上地は、準々決勝で第8シードの高室冴綺(スタートライン)、準決勝で第4シードのホタッツォ・モンジャネ(南アフリカ)にそれぞれストレートで勝利。ここまで落としたセットは、わずかに「4」という圧倒的な強さで決勝に駒を進めた。また、大谷も同じく2回戦を勝利し、準々決勝は第6シードのルーシー・シューカー(イギリス)にストレート勝利。しかし、ファンクートと対戦した準決勝は第1セットを落とし、第2セットも1-3となったところでコンディション不良のため棄権した。
大谷は昨年の全米オープンのプレー中に腰を痛め、その後の杭州アジアパラ競技大会と世界マスターズをキャンセル。手術をして臨んだ今年の全豪オープンでヘルニアが再発し、2月に3度目の手術を行った。練習再開は3月末のことで、今大会が復帰戦だった。大谷は悔しさをにじませながらも、「痛みがあるなかでここまでできたのはよかった。パリに向けて再調整したい」と話し、会場を後にした。
上地とファンクートは今年に入って1月のビクトリアオープン(オーストラリア)、3月のテグオープン(韓国)と2度対戦。いずれも上地が勝利しており、これらを含めて上地が6連勝中だ。ただ、ファンクートは昨年こそ怪我のためツアーを離脱した時期があったものの、この10年間は世界ランキングでトップ5を常に維持している地力のある選手だ。今大会も初戦から好調を維持しており、決勝でもその勢いは止まることなく、序盤から自分のペースで試合を作った。第1セットのサービスゲームをキープすると、第2ゲームはコースを突いた2度のリターンエースでブレークに成功。さらに高い集中力で展開を読み、先手を取ると、第8ゲームもブレークに成功してセットを奪った。
一方、ラリーに持ち込めずに第1セットを失った上地は、トイレットブレークから戻ると気持ちを切り替えてコートへ。まずは、丁寧にコースに打ち分けてファンクートのアウトを誘い、先にブレークに成功。相手のサービスゲームでは、ファンクートの重たいサーブに対応するために第1セットよりリターンのポジションを下げ、素早い反応でリターンエースにつなげるなど修正力を発揮。5連続でゲームを奪い、このセットを取り返した。流れに乗る上地は、ファイナルセットも落ち着いたプレーで試合の主導権を握り、最後は1ゲームも落とさない完璧な内容で試合を締めくくった。
逆転勝利をおさめた上地は試合後、「しっかりと戦況を見極め、第2セットで相手のサーブをコースに返せたことが結果につながった」と振り返り、「日本の皆さんの前で勝てて本当に嬉しいし、格別。ディーダは不在だったけれど、今の女子の高いレベルの試合を見せることができたと思う」と笑顔を見せた。また、パリに向けては「ディーダは、もう一歩ギアを上げないと勝てない相手。時間はあまりないけれど、しっかり準備をして、金メダルを獲ってまたこの場所に戻ってきたい」と話し、前を向いた。なお、上地はモンジャネと組んだ女子ダブルスも制し、単複2冠を達成した。
今大会は、上地と大谷以外にも、前述の高室のほか、世界ランキング11位で第5シードの田中愛美(長谷工コーポレーション)、第7シードの船水梓緒里(LINEヤフー)も準々決勝進出と奮起した。船水は昨年のジャパンオープンで初めてスーパーシリーズでの勝利を経験。今大会はシードを獲得し、2回戦でアジアパラの優勝経験もあるカンタシット・サコーン(タイ)を6-1,6-1で退けてベスト8と、ジャパンオープンの最高成績をおさめた。
WTC(ワールドチームカップ)出場などの条件を満たしたうえで、世界ランキングによりパリパラリンピックの代表に選出されるラインは、女子の場合は上位20人(2024年7月15日付/各国の最大選手枠は女子は4人)。同18位の船水はランキングをひとつでも上げるため、今季はクレーシーズンに入る時期を遅らせてでも、まずはハードコートでの試合に優先的にエントリーしてポイントを獲得していく予定だといい、初めてのパラリンピック出場に向けた覚悟をのぞかせていた。
上肢にも障がいがあるクアードのシングルスは、昨年準優勝で世界ランキング2位のサム・シュローダー(オランダ)が制した。決勝では2022年まで男子でプレーし、2023年からクアードでプレーするガイ・サッソン(イスラエル)を6-1、6-2で退けた。シュローダーは東京パラリンピックでは銀メダルを獲得。パリ大会では単複2冠を目指しており、「競技レベルが上がっているクアードで勝ち続けるために、メンタルトレーニングも取り入れ、結果が出始めている。パリに向けてもしっかりと準備していきたい」と力強く語った。
東京パラリンピック日本代表で、昨年10月の杭州アジアパラ競技大会金メダリストの菅野浩二(リクルート)は、その後のITF実施のクラス分けでオープンクラスに認定されたため、クアードクラスの出場が認められず、今大会は不参加。日本勢では、杭州アジアパラ競技大会銀メダリストの石戸大輔(三菱オートリース)、東京パラリンピック日本代表の諸石光照(EY Japan)らがシングルス2回戦で敗退した。
クアードのパリパラリンピック各国最大選手枠は3人で、世界ランキングによる選出は上位12人。ジャパンオープン終了時点では、石戸と宇佐美慧(LINEヤフー)が10位台後半に入っており、今後のポイントの積み上げが期待される。
写真/植原義晴・ 文/荒木美晴