「天皇杯・皇后杯 第40回飯塚国際車いすテニス大会(Japan Open 2024)」が4月9日から14日まで、福岡県のいいづかスポーツ・リゾートテニスコート等で開催された。カテゴリーはグランドスラムに次ぐスーパーシリーズ。パラリンピックイヤーということもあり、20カ国・1地域から世界のトップランカーを含む97人がエントリーした。
※以下、世界ランキングは2024年4月1日付のもの
とくに、男子シングルスは世界ランキング上位10人のうち8人が参戦し、ハイレベルな戦いが予想された。そのなかで注目を集めたのは、17歳にして昨年の全仏オープンとウインブルドン、今年の全豪オープンを制している第2シードの小田凱人(東海理化)と、世界ランキング1位のアルフィー・ヒューエット(イギリス)との対戦だ。両選手は決勝で激突し、6-1、7-6で小田が勝利。大会2連覇を達成した小田は表彰式で天皇杯を高く掲げ、笑顔を見せた。
大会を振り返ると、小田とヒューエットの盤石の戦いぶりが光った。小田は準々決勝で同9位のルベン・スパーガレン(オランダ)を、準決勝でリオパラリンピック金メダリストで同5位のゴードン・リード(イギリス)をそれぞれストレートで下し、決勝に進出。ヒューエットも準々決勝で同6位のヨアキム・ジェラード(ベルギー)、準決勝で今勢いのある選手のひとりである同4位のマーティン・デ ラ プエンテ(スペイン)を、やはりストレートで退けた。
小田とヒューエットの直近の戦績は、前述の昨年の全仏オープン以降、今年の全豪オープンまで小田の4連勝。その後のアメリカでの2大会は、ヒューエットが2連勝中だ。
第1セットは小田のサービスゲームからスタート。重く、伸びのあるサーブで相手のリターンアウトを誘い、また体勢を崩しながらも深いクロスショットでポイントを奪うなどしてキープした。その勢いのまま、小田が第2ゲームと第4ゲームをラブゲームでブレークし、6-1で奪った。
迎えた第2セットは、ヒューエットが奮起。小田のミスも続き、1-5とリードを許してしまう。しかし、小田がここから高い集中力を発揮。第7ゲームをブレークすると、キレのあるサーブと緩急をつけたショットで相手を追い込み、5ゲームを連続で奪取。逆転に成功した。第12ゲームで再びブレークを許して6-6となり、試合は7点先取のタイブレークへ。ここでも互いに譲らず、ポイントの取り合いで6-5となるが、最後は小田が前に出た相手をバックハンドのクロスショットで抜き、リベンジマッチに決着をつけた。最後まで諦めない姿勢を貫いた両選手に、熱戦を見守った会場の観客から大きな拍手と声援が送られた。
大会初日から、「何か新しく強化をしてきたわけじゃない。自分がやりたいことをやれば、勝てると思う」と一貫して話していた小田。今は自分の“引き出しの中身を濃くしていく作業”を重視するなか、とくに意識をして取り組んでいることのひとつが、強いショットから前にボレーに出る攻撃的なテニスだ。この試合では、動きを見切ったヒューエットにライジングショットで抜かれるシーンもあったが、自分で仕掛けた駆け引きからチャンスを幾度と作り出した。
小田は、「アプローチの種類が増えたのは有効だと思う」と自信をのぞかせ、「すごくいい感じ。緊張するジャパンオープンを制して、自分はパリパラリンピックでも勝てると思った。本番まで、今のスタイルを磨いていく」と、力強く振り返った。
実は、前日の男子ダブルス決勝で左上腕を痛めていたヒューエットは、第1セット後にメディカルタイムアウトを要求。小田はそこで初めてヒューエットが違和感を抱えていることに気づいたそうだ。試合後、小田は「ゲーム中のボールの質やプレーの彼の動きはいつも通りに感じた。やっぱり強かったし、万全だったら1-5からまくれていたかはわからない。100%じゃないのに試合をすると決断してくれたのは、本当にリスペクトです」と語る。
ヒューエットもまた、「リタイアすることもできたけれど、多くの観客の前で頑張る姿を見せたいし、諦めたくなかった」と葛藤があったことを明かすと同時に、「彼(小田)との試合はいつもワクワクする。彼はどんどん良くなっていくし、とてもいいライバルだ」と、熱戦を振り返った。
現在26歳のヒューエットは、18歳の時に初めてのパラリンピックとなるリオ大会に出場した。この時は、シングルスとダブルスともに銀メダルを獲得した。昨年の杭州アジアパラ競技大会で優勝し、すでにパリ大会の出場権を獲得している5月生まれの小田も18歳で初めてのパラリンピックを迎えることになる。パリ大会は小田とヒューエットにとってどんな舞台になるのか、本番が楽しみだ。なお、小田は三木拓也(トヨタ自動車)とペアを組んだ男子ダブルス決勝でもヒューエット・リード組を撃破しており、単複二冠を達成した。
第6シードの眞田卓(TOPPAN)は、昨年はツアーで17戦を戦い、今年はジャパンオープンですでに9大会目とハイスピードで試合をこなしている。その理由を「調子が良かったのもあるし、パリに向けて早い段階でポイントを獲得して有利な状況で後半を迎えたかったから」と明かす。
今大会直前に開かれたソウルオープンはコンディション不良で棄権しており、今大会もその影響が少なからずあったためか男子シングルスは2回戦で敗れたが、荒井大輔(BNPパリバ)と組んだダブルスは4強入りした。
パリパラリンピックの各国の最大選手枠は、男子は4人。WTC(ワールドチームカップ)出場などの条件を満たしたうえで、男子の場合は世界ランキング上位32人(2024年7月15日付)に入れば、出場できる。日本勢では杭州アジアパラ競技大会で優勝した小田がすでに内定を得ており、世界ランキング8位につける眞田もほぼ確定といっていいだろう。6月に39歳になる眞田にとって、パリ大会は4度目のパラリンピックとなる。「車いすテニスのキャリアは14年。これほど長くプロで生活できたのは感謝しかない。そのなかでパリを目指せるのは嬉しいし、もし出場できたら優勝を目指しつつ、大会を楽しみたい」と話し、前を向いていた。
写真/植原義晴・ 文/荒木美晴