4月17~20日、Asueアリーナ大阪で開催された車いすバスケットボール女子最終予選。出場8チーム中、4チームに与えられるパリパラリンピック出場権をかけ、熱戦が繰り広げられた。予選を1勝2敗で3位通過した女子日本代表は、最後の出場権決定戦でオーストラリアを50-26で破り、東京2020パラリンピックに続く2大会連続出場が決定。予選を突破し、自力での出場は2008年北京パラリンピック以来、4大会ぶりの快挙となった。パリ行きの切符獲得につながった勝利の裏側に迫ると同時に、チームが目標とするパリパラリンピックでの金メダル獲得へのポイントを探る。
パラリンピック出場枠が、男子は12、女子は10から、いずれも8へ減少した車いすバスケットボール。過去最も過酷となった切符争奪戦が繰り広げられたなか、初めて行われたのが最終予選だ。各大陸ゾーンの予選で敗れたチーム同士による“敗者復活戦”が、男子はフランス、女子は日本で開催された。
まずは4チームずつ2グループに分かれ、総当たりでの予選リーグが行われた。その順位により、クロスオーバーで出場権決定戦が行われ、勝利を収めた4チームにパリパラリンピックへの切符が与えられることになっていた。
女子最終予選に出場したのは、スペイン(ヨーロッパ3位)、ドイツ(同4位)、カナダ(アメリカ大陸2位)、オーストラリア(アジアオセアニア3位)、タイ(同4位)、アルジェリア(アフリカ1位)、そして日本。ホスト国の日本が選択したのは、今大会最強とされたカナダをはじめ、スペイン、フランスがいるグループB。その結果、カナダ、スペインに敗れ、1勝2敗で3位となった。
黒星を喫した初戦のカナダ戦、第3戦のスペイン戦は、いずれも2ケタのビハインドを負い、なかでもカナダ戦は46-81という大差での敗戦だった。しかし、決して歯が立たないというような内容ではなかった。日本が武器とするディフェンスがさらに強さを増していることが示された一戦でもあったのだ。
大会期間中、筆者には気になっていたことがあった。それは、ディフェンスがマンツーマンから、横一列で相手の走路を妨げながら下がるシャドウに切り替わる位置がこれまでよりも低いことだった。大会最終日、財満いずみ(1.0)にこの点を問うと、こう説明してくれた。
「これまでのやられ方としてはマンツーマンで相手をキャッチアップできずに抜かれてランニングプレーに行かれてしまうことが多かったと思います。でも抜かれても誰かがすぐにヘルプにいって、そこでまた(シャドウの)ラインを作るようにしたことで、ラインの位置がハーフラインあたりになっていたのだと思います」。実は、この変化こそがディフェンスがブラッシュアップされていた何よりの証だった。
実際、カナダ戦では相手に速攻で得点を奪われたのはわずか1回。オールコートのディフェンスが機能していた一つの証と言ってもいいだろう。ちなみに勝利をおさめたフランス戦での速攻からの失点は0、オーストラリア戦では2だった。
一方、オフェンス面もスキルアップされていた。2カ月前、同じAsueアリーナ大阪で行われた大阪カップでは、すでにパリ行きを決めていたイギリスのオールコートのプレスディフェンスに大苦戦し、なかなかフロントコートにボールを運ぶことができなかった。そのため、2ポイントシュートのアテンプト(シュート数)はイギリスの60に対し、日本はわずか36。シュートシチュエーションにさえもっていくことがままならない状態に陥ったのだ。翌日の決勝でも改善はしたもののやはり2ケタ差が開いていた。
しかし、最終予選ではイギリス同様にプレスをしいてきたカナダのディフェンスをブレイクし、スムーズにボールを運ぶことができていた。修正したのは、パスの距離だった。大阪カップではゴールに向かって走ることに意識がいきすぎて、スローインから2つ目めのパスをもらう選手が、ハーフラインを越えてフロントコートで待っていたために距離が遠く、相手からすればカットしやすい状況が生まれていた。そこで、大阪カップ後の合宿でフロントコートに走って相手のディフェンスを下げた後に、ハーフラインあたりに戻って味方との距離を詰めてパスが出しやすいように修正。それが功を奏し、カナダ戦をはじめ、今大会では相手のプレスに対して苦戦を強いられた印象はなかった。
一方、カナダ戦とスペイン戦の敗因、あるいは勝利を収めたフランス戦、オーストラリア戦においても序盤に苦戦を強いられた要因は、シュートの決定力不足にあった。各試合のフィールドゴール(FG)成功率を見ると、それは一目瞭然。カナダ戦は36.8%、フランス戦は37.9%、スペイン戦は33.9%、オーストラリア戦に限っては26.4%にまで落ち込んだ。アテンプトが日本が72に対し、オーストラリアは46と開きがあったことからスコアは50-26と大差での勝利となったが、FG成功率はオーストラリア(26.1%)と変わりなかったのだ。
今大会のスタッツを見ると、FG成功率のランキングは以下の通りだ。
ドイツ 55%
カナダ 54%
スペイン 44%
タイ 33.8%
オーストラリア 33.6%
日本 33.5%
フランス 31%
アルジェリア 25.5%
対戦相手が異なるため一概には言えないが、それでも同じくパリパラリンピックの出場を決めたドイツ、カナダ、スペインがいずれも40、50%台に乗せているのに対し、日本は33.5%と開きがあるのは事実だ。また、タイがドイツやスペインとヨーロッパの強豪と対戦しながらも、わずかではあるものの日本を上回っていることも注目すべき点だろう。今のままではパラリンピックで勝負するのは、非常に厳しいということは明らかだ。それは、選手自身が一番わかっている。キャプテン北田千尋(4.5)は「自分たちの現実を思い知らされたし、このままではパリでは1勝もできずに終わってしまう」と語っている。
ただ、今大会の戦力が日本のすべてではない。例えば、3ポイントシュートを得意とする柳本あまね(2.5)。今大会、3ポイントシュートを4本決め、ランキング2位となったものの、全体的には本領発揮とは言えなかった。実は大会前の合宿で違和感を覚えていた右肩を、初戦のカナダ戦で転倒した際に本格的に痛めてしまったのだ。肘や手首にも痛みがあったと言い、第2戦以降はテーピングをしながらプレー。柳本自身は「ケガを言い訳にするつもりはない」と強気の姿勢を崩さなかったが、影響は小さくはなかったはずだ。
柳本が海外勢相手に大躍進を遂げたのは、昨年の世界選手権だ。今大会よりも格上のチームとの対戦もあったなか、8試合中6試合で2ケタ得点をマークし、そのうち4試合はチーム最多を誇った。世界最強のオランダ戦でFG成功率41.2%で14得点、さらに世界2位の中国戦では43.5%で21得点を叩き出すなど、強豪相手にもシュートを炸裂。さらに3ポイントシュートでは個人ランキング2位となるなど、世界にその名を知らしめた。
果たして、パリの地で再び実力を証明することができるか。特に3ポイントシュートは、日本の大きな武器となるはずだ。
そしてもう一人、復活が待たれる選手がいる。日本を代表するシューターの一人である副キャプテン萩野真世(1.5)だ。今大会は2試合で無得点に終わるなど、全4試合で8得点。大会中に一度は2ケタをマークすることも珍しくない萩野らしからぬ結果に終わった。
岩野博ヘッドコーチ(HC)によれば、開幕直前の合宿では打てば入るというほど絶好調の様子を見せていたのだという。ところが、大会に入ったとたんにスランプに陥り、最後まで抜け出すことができずに苦しんだ。決して不調だったわけではなく、シュートタッチも悪くはなかったという。ボールをリリースした瞬間はリングに入るイメージで打つことができていたのだ。ところが、萩野のシュートはリングに嫌われ続けた。しかも、飛び過ぎてしまうという現象が起きていたというのだ。
「これまでになかったくらいオーバーしてしまった」と萩野。そして、こう続けた。「ただ、決してマイナスなことではないと思っています。自分が思っていた以上にトレーニングの成果が出て飛距離が伸びたのかもしれません。逆にステーショナリースリー(静止した状態で打つ3ポイントシュート)が打てるくらいの飛距離が出ていると思うので、それを自分の持ち味にできればと思っています」
ふだん萩野がパスを受けることが多いのはコーナー、いわゆる0度のポジションだ。スペースが非常に狭く、特に車いすの幅を取る車いすバスケで3ポイントシュートを狙う場合は勢いをつけることなく静止した状態で打たなければならず、非常に難しい。そのため、0度からのシュートはほぼすべてがミドルシュートだ。3ポイントシュート自体、女子の車いすバスケで強みにしているチームはまだ世界でも少ない。そんななか、3ポイントシュートのなかで最も難しいとされる0度のポジションから打つことができれば、日本の大きな武器となることは間違いない。
いずれにしても、いかにシュート成功率を上げられるかが、日本の喫緊の課題であり、パリでの勝敗のカギを握るはずだ。岩野HC就任当初から世界の頂点を目指してきた女子日本代表。そのスタートラインに立つ権利を得て、4カ月後、いよいよクライマックスを迎える。
写真・ 文/斎藤寿子