8月28日に開幕するパリ2024パラリンピック。車いすテニス日本代表で男子の世界ランキング2位の小田凱人(東海理化)が、初めて迎える大舞台に向けて最終調整を行っている。7月22日には名古屋市内で練習を報道陣に公開し、好調さをアピールした。
世界ランキング1位で臨んだ7月のウィンブルドンは、準決勝でマーティン・デ ラ プエンテ(スペイン)に逆転負けを喫した。帰国後はこの22日から練習を再開し、フィジカルトレーニングとオンコートトレーニングで2時間弱にわたり汗を流した。
フィジカルトレーニングでは、まずはストレッチで入念に体をほぐし、腹筋や腕立てといったアップから、ボールを使って肩甲骨まわりの可動域を広げるトレーニングまで、短いスパンでメニューをこなしていった小田。途中で熊田浩也コーチも加わり、時々会話を交わしながらリラックスした様子で取り組んだ。その後、コートに入った小田は、帰国後初の練習ということもあり、チェアワークやショットの感覚を確認しながら、ラリーなどで軽めに調整した。
パラリンピックの会場は、全仏オープンと同じスタッド・ローラン・ギャロス。サーフェスはクレーコートで、球足が遅くなり、バウンド後のボールは高く弾む特徴があり、四大大会のなかで最も波乱が起きやすいと言われる。また、車いすの場合は直線的に漕ぐときは重く、横滑りしやすいため、車いすテニスプレーヤーにとっても過酷な大会のひとつといえる。そんななかで、世界ランキング1位に返り咲いたアルフィー・ヒューエット(イギリス)は全仏オープンで3勝を誇り、またクレーコートが広く普及しているヨーロッパや南米の選手、とくに前述のデ ラ プエンテ、グスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)らはクレーコートの上で一層存在感が増す。
そして、小田もまたクレーコートを得意としている。昨年の全仏オープンを史上最年少の17歳1カ月で制し、今年も優勝して連覇を成し遂げ、グランドスラム4勝目を挙げた。混戦が予想されるなかで、新世代のニュースターとしてパリパラリンピックのメダル獲得有力候補に名が挙がっている小田は、「自信はあります。男子の競技レベルはかなり上がっていると感じますが、僕がその先頭に立ってやってきた自負があるので」と、力強く語る。
これから約2週間はハードコートでトレーニングを行ったあと、大会前にはクレーコートでの合宿に移る予定だという小田。「パラリンピックは僕にとって特別な場所です。でも、だからといって、練習内容を特別に変えることはないです。いつも通りの練習を重ねて、徐々に強度をあげていくつもり」と明かし、「パリで金メダルを獲る自分に期待をしています。でも、『絶対に勝つぞ』というよりも、やっぱりどれだけ『楽しめるか』が勝利のカギになると思っています」と語る。
そして、現在の心境を自然体でこう付け加える。「なんていうか、遠足に行く前みたいな気持ちです」
プロ選手になっても、グランドスラムで優勝するようなトップ選手になっても、小田のテニスに向かう姿勢は変わらない。それが、彼の強さのベースになっているのではないだろうか。熊田コーチもこう話す。「今の凱人を作っているのは、地道な基礎練習です。プロだから当たり前ではあるんですが、コツコツと、意識を高く持って、納得して、最後までやりきることができる。絶対に手を抜くことはしません。だからこそ、ここぞという場面でよいパフォーマンスが引き出せるし、勝負強さにつながっているんだと思います」
パラリンピックでは、選手村での生活や開会式も楽しみにしているという小田。「日の丸をつけて戦う責任感や楽しさは、アジアパラで経験しています。でも、今回はより規模が大きくなるし、想像ができないなぁと。はやく本番を迎えたいです」と、にこやかに語る。
憧れの舞台でも、自分らしく、さまざまなワクワクをエネルギーに変えていく。18歳の特別な夏が、もうすぐ始まる。
写真・文/荒木美晴