車いすフェンシングはとくにヨーロッパで盛んなスポーツで、パラリンピックでは1960年の第1回大会から行われている。下肢に障害がある人が対象で、フレームという装置に競技専用車いすを固定し、上半身のみで戦う。国際フェンシング連盟が定める競技規則に則って行い、車いすフェンシング特有のルールは国際車いす・切断者スポーツ連盟が設ける基準に準じている。マスクや剣、防具などは一般のフェンシングと同じものを使用する。
上半身を乗り出せるよう、車いすには持ち手が装着されており、多くの選手が剣を持たないほうの手で持ち手をつかみ、バランスを保っている。安定した剣さばきにつなげるため、選手は規定の範囲内で車いすをカスタマイズしたり、自身の障害に合わせて身体の一部をベルトで固定するなど工夫を凝らして競技に臨む。なお、競技中は臀部が車いすの座面から離れると反則になる。
車いすフェンシングは前後に動くフットワークがない分、常に相手と至近距離で突きあうことになる。接近戦ならではの目まぐるしい剣の攻防はもちろん、一瞬の突きや斬りが決まるまでの戦術や駆け引きが、魅力のひとつだ。時にはフレームごと体が浮き上がる場面が見られ、その迫力とスピード感にもぜひ注目したい。
車いすフェンシングは、障害の種類や程度によって2つのカテゴリーに分かれ、それぞれで順位を争う。カテゴリーAは、下肢の切断やまひなどの障害で、体幹が効き、上半身を前後に倒して攻撃をかわすことができるクラス。カテゴリーBは、障害の程度が重く、体幹のコントロールができにくいクラスであり、上肢にも障害があり、握力が少ないため剣と腕をテーピングで固定する選手もいる。
種目は、胴体だけを突く「フルーレ」、上半身の突きを行う「エペ」、上半身の突きに斬る動作が加わった「サーブル」の3種目がある。パラリンピックでは、フルーレとエペは男女の個人戦と団体戦、サーブルは男女の個人戦が行われる。
パリパラリンピックの個人戦は3分間を3セット行い、15トゥシュ先取か、3セット終了時により多くのトゥシュを決めた選手が勝利となる。プール戦(予選)がなくなり、トーナメント方式の勝ち抜き戦から始まる。ベスト4までの敗者は敗者復活戦に回り、所定の対戦順に従って戦う。2回負けるとその場で敗退となる。敗者復活戦を勝ち抜けば3位決定戦まで行ける。
また、団体戦はカテゴリーBの選手を1人以上含めた3人でチームを構成する。予選・決勝トーナメントともに同じ試合方式で行われ、3分間で5トゥシュ先取の試合を1人3セットずつ行い、3人で最高9セット中に45トゥシュ先取するか、タイムアップ時点で得点の多いチームが勝ちとなる。
パリ大会の会場は、オリンピックと同様にフランスの世界遺産「パリのセーヌ河岸」にあるグラン・パレ。歴史と豪華な雰囲気に包まれるなか、男子48人、女子48人、計96人の世界トップクラスの車いすフェンサーが剣を交える。
日本からは、女子の櫻井杏理(日阪製作所)が個人戦のエペ、フルーレ(カテゴリーB)で表彰台をめざす。男子はエペとフルーレの団体戦で出場権を獲得。得意のフルーレでメダル獲得を狙う。個人戦のエントリーも叶い、加納慎太郎(LINEヤフー)が3種目(カテゴリーA)、安直樹(東京地下鉄)がエペ、フルーレ(カテゴリーA)、藤田道宣(GO)がエペ、フルーレ(カテゴリーB)に出場予定だ。
文/荒木美晴