8月5日、パリ2024パラリンピックに出場する車いすバスケットボール女子日本代表の壮行会が、ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)で行われた。
どんな相手にも怖れることなく自分たちのバスケットをやり切ろうという意志を込め、「Fearless JAPAN(フィアレス・ジャパン)」とみずから名付け、努力を積み重ねてきた女子日本代表。ついに3週間後に迫ったパラリンピック開幕を前に、固い決意を語った。
パリ本番の試合で着用する、紅のユニフォーム姿でコートに現れた女子日本代表。はじめに、日本車いすバスケットボール連盟を代表し、田中晃会長が「パリ2024大会が掲げる多様性、それを世界に発信するのはパラアスリートたち。パラリンピックが理想とする世界を、みずからのパフォーマンス、みずからのパッションで示してくれることを期待してほしい」と述べた。
そして、心強い応援団からの激励メッセージが紹介されると会場が沸いた。パリ・オリンピックに出場したバスケットボール日本代表・AKATSUKI JAPANから、男子の富樫勇樹キャプテンと河村勇輝選手、女子の恩塚亨ヘッドコーチと林咲希キャプテン、町田瑠唯選手。さらには、元・車いすテニスプレーヤーで日本車いすバスケットボール連盟理事の国枝慎吾氏から熱いエールが送られた。
思わぬサプライズに選手たちは歓声をあげ、また、世界の舞台で戦ってきた先輩の言葉に耳を傾け、気持ちを新たにした。
東京パラリンピック後から、車いすバスケットボール女子日本代表チームを指揮する岩野 博ヘッドコーチは、就任からの3年間を振り返った。
「就任当初から基礎技術の向上に努め、走ることから求めてきた。新しいこともたくさん取り入れた中で、選手はそれを信じて今日までついてきてくれた。選手もチームも格段に成長した。パリでこのチームが40分間デザインする姿を見届けてほしい。そして、そこにできあがったアートをしっかり目に焼き付けてほしい。必ず、すばらしいアートを残してくれるはず。私も最後までしっかりサポートしたい」。熱のこもった言葉に、会場から大きな拍手が送られた。
続いて、選手・コーチ・スタッフ、一人ひとりがパリの舞台にかける思いを語った。
「自分たちの力で勝ち取ったパリへの切符。みなさんの応援を胸にコートで力を発揮して、一戦一戦大事に戦いたい」(副キャプテン・萩野真世)
「日本とは時差があるが、寝る時間すら惜しいと思っていただけるような熱い試合をしたい」(柳本あまね)
女子日本代表メンバー12名のうち5名がパラリンピック初出場となる。そこには、今年1月にタイで行われたアジア・オセアニア選手権大会でフル代表デビューを果たした、西村 葵と小島瑠莉、2人の高校生も含まれる。
チーム最年少(高校1年生)の小島は、「緊張している」と率直に心境を語った。持ち点2.5のミドルポインターで、シュートレンジが広く3ポイントシュートも打てるのが強みだ。自身初となるパラリンピックには「お守りをたくさん持っていこうと思っています」と話す。中学時代からの友だちが心を込めてお守りを作ってくれたという。パリでは何よりも「試合が楽しみ」と笑顔を見せ、「日本代表として責任を持ってやり遂げたい。試合では自信を持ってシュートを打ち、緊張すると思うけど、それも楽しいという気持ちに変えられたら」と、頼もしく語った。
そして、ひときわ力強い言葉で決意を表したのが、キャプテンの北田千尋だ。パリ・パラリンピックで北田が掲げるのは『心』。この一字に、東京からの3年間の思いを込める。
「男子が東京パラリンピックで銀メダルを獲って、正直めちゃくちゃ悔しかった。男子は車いすバスケの未来を変えられた。ファンが応援してくれるようになって、車いすバスケ全体がすごく盛り上がった。今度は自分たちの力で車いすバスケの未来を変えたい。それができるのが、多くの人に注目してもらえるパラリンピックという舞台。そこで結果を残し、自分たちができる最大限のことをすることで、男子だけじゃなく女子も未来を変えたいと思って3年間やってきた」
海外勢に体格では負ける。でも『心』は勝てる。最後に北田は、このように締めくくった。「このチームが好きなので、このチームで1試合でも長く試合がしたい。一日一日、一試合一試合、心を込めて、心を強く、心をひとつに、このチームが最後の日まで戦い抜くことを誓います。Fearlessというスローガンのもと勇敢に戦う姿を日本のみなさんに見ていただき、車いすバスケ女子の試合がおもしろいな、車いすバスケっておもしろいなと思ってもらえたら、その気持ちが車いすバスケの未来を作ると考えています。最後の日まで一緒に戦い、一緒に喜んで、このチームを応援してよかったと思ってもらえれば、がんばった意味があります。応援よろしくお願いします!」
日本代表としてパラリンピックの舞台に立つのは、選手だけではない。国際審判員の二階堂俊介さんが、世界最高峰のステージで笛を吹く。世界各国から審判員20名が招集された。二階堂さんは東京パラリンピックに続き2大会連続、また、パリ大会では日本から唯一の選出となった。
東京2020大会では10試合を担当し、女子の3位決定戦でクルーチーフ(主審)を務めた。2大会連続での選出に、「素直にうれしい。目指してきた舞台なので、とてもワクワクしている」と心境を語る。
福島県立大笹生支援学校の教員として、ふだんは体育やいくつかの教科を教えている。生徒にはまだ話せていないということだが、帰ったらこの経験を生徒たちにしっかり伝えるつもりだ。
「プレーヤーは命をかけてこの舞台に臨んでくる。プレーヤーたちのために、公正、公平なレフリングを心がけ一生懸命がんばりたい」。国際審判員としてパラリンピックの大舞台に立つ、二階堂さんにも注目だ。
車いすバスケットボール女子日本代表は、オランダでの事前合宿を経て、8月30日(日本時間 17:30ティップオフ)に世界女王・オランダとのパラリンピック初戦を迎える。心を込めて、心を強く、心をひとつにして戦うFearless JAPANの活躍に期待だ。
写真・文/張 理恵