パラパワーリフティングは、下肢障害および小人症の選手によるベンチプレス競技。1964年の東京大会からパラリンピックで実施されている(当時の競技名はウエイトリフティングで、胸の位置から挙上する種目)。1992年のバルセロナ大会から現在の競技名になり、腕を伸ばした位置からベンチプレスを行うようになった。男子種目のみだったが、2000年のシドニー大会から女子種目が加わった。
競技は男女別に行い、それぞれ体重別に10階級に分かれ、階級ごとに順位を競う。一般のベンチプレスのルールに準じて競技が行われ、障害の程度によるクラス分けはない。
選手が使用するのはパラ専用のベンチプレス台で、脚は地面に着けずに台上に全身を乗せて腕の力のみでバーベルを挙上する。
試技は1人1回ずつ順番に行い、3回の試技のうち最も重い重量を挙げた選手が勝者となる。新記録を狙う目的で特別試技として4回目に挑むことができる。東京大会以降のルール改正で、この特別試技の重量も記録として残り、順位にも反映される。
試合は制限時間などのルールが設けられている。まず、名前がコールされた選手は舞台上に登場し、ベンチ台にあおむけに横たわり、必要があればストラップなどで脚を固定する。心身ともに準備ができたらラックからバーベルを外して静止し、主審の「スタート」の合図が出たら試技を始める。ここまでを2分間で行わなければならず、制限時間を超えると失敗試技となる。
その後、バーベルを胸の位置までおろし、ピタリと胸の上で止めて、一気に押し上げて再び静止し、主審の「ラック」の声がかかったらバーベルを元に戻す。ここまでが試技全体の流れとなる。
胸からバーベルをおろす時も、また挙上する時も、「まっすぐ」が基本。左右どちらかに傾いたり、ぐらついたり、バーベルが胸でバウンドしたりしていないかを3人の審判がチェックしており、「白」が2個以上の判定で成功試技となる。バーベルをおろし、上げるまでの時間はわずか3秒。この一瞬にすべてをかける選手の鍛え上げた肉体と精神力は見ごたえ十分だ。
なお、最重量級の男子107㎏超級の世界記録は、故シアマンド・ラーマン(イラン)が2016年のリオ大会でマークした310キロ。これは同じ条件で試技を行う健常者の記録を超えている。
パリ大会では、日本から男子107㎏級の佐藤和人が出場する。兵庫県警に所属する佐藤は2013年に白バイ訓練中の事故で障害を負い、入院やリハビリを経て2015年に復職。翌年に選手発掘プログラムに参加し、パラパワーリフティングを始めた。男子97㎏級から階級を変更後に大きく記録を伸ばし、今回はバイパルタイトにより出場権を獲得した。初のパラリンピックに向け、「選ばれたからには頑張るのみ」と力強く語る。
文/荒木美晴