パラローイングは、身体障害の選手と視覚障害の選手によるローイング競技。各艇が同時にスタートして2000mの直線コースを漕ぎ切り、タイムを競う。欧米で盛んなスポーツで、パラリンピックでは2008年の北京大会から正式競技として実施されている。パリ大会では5種目が実施される。
障害の種類や程度に応じてPR1、PR2、PR3の3つのクラスがあり、クラスごとに出場できる種目が決められている。PR1は1人乗りのシングルスカルで、体幹が利かず、上肢と肩のみで漕ぐ選手が出場する。男子、女子それぞれで競技を行う。PR2は2人乗りの混合ダブルスカル(男女ペア)で、体幹と上肢を使って漕げる選手が出場する。下肢に障害がある選手は脚を使うことができないため、PR1とPR2の両クラスで使用するボートは一般のボートとは異なり、シートがスライドせず固定されているのが特徴だ。
PR3の種目には、混合ダブルスカルと混合舵手つきフォアがあり、PR3混合ダブルスカルは、パリ大会から採用された。男女1名ずつペアで漕ぐが、視覚障害の選手を1名まで含むことができる。
PR3混合舵手つきフォアは、四肢に障害があるが、下肢・体幹・上肢を使いスライド式シートを使える身体障害の選手と、視覚障害の選手(2名以内)が男女2人ずつ、計4人のクルーと、指示を出すコックス(舵手、健常者でも可)が出場する。唯一、進行方向を向いているコックスが司令塔の役割を担い、視覚障害の選手はコックスの声を頼りに漕ぐ。
PR1シングルスカルの選手は比較的障害が重く、体幹が利かないため、主に腕と肩の力でオールを漕ぐ。ボートには背もたれを装備し、胴体にベルトを巻いて身体を固定するなどして、バランスを保ちながらスピードを出す工夫をしている。一方、PR2混合ダブルスカルの選手の最大の特徴は、体幹が利くことだ。2人が上半身全体を使って漕ぎ、息を合わせたコンビネーションが見どころだ。
PR3混合舵手つきフォアは、身体障害と視覚障害の選手、そして健常者が行うことができるコックスがひとつの艇に乗り、協力し合ってゴールを目指す。PR3の種目は、混合ダブルスカル、混合舵手つきフォアともに、互いの障害特性を理解し、支え合いながらチーム編成や戦略を構築していく独自の面白さがある。
パリ大会では、PR1男子シングルスカルに森卓也(CHAXパラアスリートチーム)が出場する。もともと陸上の砲丸投げの選手で、現在もF55クラスの日本記録保持者。アジアパラ競技大会に日本代表として出場するなど活躍していたが、投擲台から車いすに移乗する際に落下し、右肩を負傷。3年前に肩への負担が少ないローイングに転向した。砲丸投げで培った腕力を活かした力強い漕ぎを武器に、初めてのパラリンピックに挑む。
文/荒木美晴