ゴールボールは元々、目に障害を負った傷痍軍人のリハビリテーションを目的に考案された、パラスポーツ特有の競技だ。視覚障害者を対象にしたチーム球技で、音を頼りに2チームで対戦する。全盲から弱視(B1~B3)まで参加できるが、見え方の差をなくすために、選手は全員アイシェード(目隠し)をしなければならず、条件を揃えてプレーする。
1チームは最大6人で構成され、コート上では3人対3人で対戦する。コートはネットのないバレーボールコート(長さ18mx幅9m)を使用し、各エンドにサッカーゴールに似たゴール(高さ1.3mx幅9m)が立つ。コート内のラインには直径3mmのロープの上からテープが貼られている。この凹凸を手掛かりに選手は位置を知る。センターラインをはさんで2チームが対峙して鈴入りのボールを相手ゴールに向かって転がすように投げ合い、前後半各12分の24分間で得点を競う。
守備側はボールのコースを聞き分け、床に体を投げ出して全身でボールを止める。ボールをセーブしたら、今度は攻撃側となってボールを投げ返す。攻撃では攻撃では床を転がすグラウンダーと、床に弾ませるバウンドボールの大きく2つの球種があり、投球コースを投げ分けたり、ボールに緩急をつけたり、緻密な戦略を駆使して相手守備を崩しゴールインを狙う。ボールがゴールラインを越えると、1点となる。
選手は鈴の音や相手選手の足音、床の振動などを頼りにプレーする。ボールのコースを正確に聞き分けるサーチ力や、高い精度でコースを投げ分ける制球力など、見えない中での高度なテクニックに注目だ。また、バスケットボール大のボールは1.25kgと重く、体に当たったときの衝撃はかなり大きい。守備の際、体を投げ出す勇気や衝撃に負けない強靭な体なども見どころだ。
「ベンチからの声」も選手の重要な情報源だ。プレー中断時にも声をかけることができる。タイムアウト(1試合4回まで)後に試合が動くことも多く要注目だ。
長さ18mのコートは6mずつ3エリアに分かれ、中央部分はニュートラルエリア、両側は各チームエリアとなる。攻撃ではボールを投げる際、自陣のチームエリアとニュートラルエリアで少なくとも1回ずつバウンドさせなければならない(転がしてもよい)。攻撃側エリアでバウンドしないと「ハイボール」、ニュートラルエリアでバウンドしないと「ロングボール」という反則となる。
反則を犯すと相手チームに「ペナルティスロー」という投球機会が与えられる。反則した側はたった一人で守備をしなければならず、得点の大きなチャンスだ。他に、守備側が不利になるような音を出す「ノイズ」や、守備側がボールに最初に触れてから10秒以内にセンターラインを越えるように投げ返さない「10(テン)セカンズ」、インプレー中にベンチからコート内の選手に指示を与える「イリーガルコーチング」なども反則で、「ペナルティスロー」が相手に与えられる。
「静寂」もゴールボールの特徴だ。音を頼りにプレーする選手を邪魔しないよう、審判はプレー前に「クワイエット・プリーズ」(お静かに)をコールする。コール以降は観客もプレーが途切れ、審判が笛を吹くまで、声を出して応援したり、音を立てたりできない。その分、ボールの音や選手同士の声、ボールが体に当たる衝撃音などもよく聞こえ、試合の臨場感がストレートに伝わってくる。
東京大会まで男女各10チームだった出場国が、パリ大会では競技方式変更により各8チームに減ったが、日本は男女とも出場権を獲得している。東京パラリンピックでは女子は5大会連続出場で銅メダルを獲得、男子は開催国枠で初出場し、5位に入った。パリ大会では男女ともにさらなる躍進をめざす。世界ランキング(*)2位の女子は東京パラリンピックから3選手が入れ替わり、若手とベテランが融合した6人で金メダルに再挑戦する。同6位の男子は初代表2選手を含む6人で初の表彰台、さらには頂点まで見据える。(*: 2024年5月末時点)
文/星野恭子