8月28日に開幕するパリ2024パラリンピック。2008年北京以来3大会ぶりに自力出場を決めた車いすバスケットボール女子日本代表は、30日に予選リーグ初戦を迎える。そこで今回は、副キャプテン萩野真世選手、チーム最多3回目のパラリンピックとなる網本麻里選手、東京2020パラリンピックに続いての出場となる清水千浪選手と財満いずみ選手、初出場の石川優衣選手の5人をゲストに迎え、座談会を開催。前編では、東京からパリへの道のりを振り返ってもらった。
――いよいよパリパラリンピックが開幕します。今、どんなお気持ちでしょうか。
網本 東京パラリンピックまでに比べたらめちゃくちゃ速かったのですが、今年1月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)から4月のレペチャージ(最終予選)までの3カ月は、すごく長く感じました。レペチャージをすること自体が車いすバスケットボールでは初めてだったので、これまで負けたらそこで終わりだったアジアオセアニア予選のAOCから、3カ月でもう一度上げていくというのが初めてということもあったかもしれません。でも逆にレペチャージからは、あっという間だったなと感じています。
清水 私は車いすバスケットボールを始めたのが、2015年のリオデジャネイロパラリンピックの予選が終わった後で、東京パラリンピックまでの6年というのはすべてが初めてのことばかりでめちゃくちゃ長く感じました。一方、岩野博ヘッドコーチ(HC)になってからは改めて覚えることがたくさん増えたので、この3年も長く感じましたが、麻里が言ったように、レペチャージからはすごく早かったです。とても充実した時間を過ごせているという実感があって、チーム力もすごく上がっていると感じているので、今は開幕が楽しみです。
萩野 東京は開催国枠があったので、予選を勝ち上がって自力出場でのパラリンピックを迎えるのは、ほとんど全員が初めて。しかも今回は8カ国しか出場できないという狭き門を潜り抜けて迎えるパラリンピックなので、すごく嬉しいですし、「パラリンピックに行くぞ!」という気持ちが今、すごく高まっています。
財満 私は思い返すとすべてが一瞬だったなと思っています。初出場だった東京パラリンピックは結果もそうですが、自分自身が本当に何もできず、チームに貢献できなかったなというのが一番に感じたことでした。次のパリを目指すにあたってはこのままでは嫌だと思いましたし、やるからには少しでもチームに貢献できるような選手になりたいと思ったので、転職したり所属チームを移籍したりと、いろいろと環境を変えた3年間でした。だからすごく過ぎるのが早かったですし、東京までよりもすごく濃い時間を過ごせたなと思っています。今は、東京の時もそうだったのですが、パリでも開幕したらあっという間に終わってしまうと思うので、1日1日、1試合1試合を大切に過ごして、少しでも長くみんなとバスケットをするためにも勝ちたいなという気持ちでいます。
石川 私は東京パラリンピックが終わった後から(女子ハイパフォーマンス強化指定の)合宿に呼んでいただくようになったのですが、最初の合宿は3、4日でもすごく長く感じていました。ただ今振り返ると、それもあっという間のことだったんだなと。今は1週間以上の合宿でも時間が過ぎるのがあっという間に感じていますし、最初の合宿の頃はフリースローも届かなくて助走をつけて打っていたのが、今では止まって打てるようになったりとか、すごく自分自身がいろいろ変われたなという実感があります。
――東京からの3年間で、チームやご自身にとってのターニングポイントや、一番印象に残っていることは何でしょうか?
清水 私は昨年6月の世界選手権です。一つは最終戦でスペインに競り勝って終われたことはすごく良かったなと思いますし、中国に対しても負けはしましたが、しっかりと競ることができました。岩野HCが就任時からずっと言っていた「40分間走り続けるディフェンス」が機能すれば、世界ともこれだけ戦えるんだということを実感できた大会でもありました。
萩野 千浪さんがおっしゃったように、あの世界選手権は日本が世界と戦えるという自信がついたという部分ではチームにとっての大きなターニングポイントになったと思います。もう一つは、アジアオセアニアゾーンで勝たなければいけない中国に対して、今年1月のAOC決勝でも前半を終えてリードできたというところでは、これまでのように出だしからやられて大きく引き離されるということがなくなってきているなと。そういうところで自分たちの力がついてきているという実感ができたことはとても大きかったです。
石川 私は自分自身のことになってしまうのですが、やっぱり世界選手権がすごく印象に残っています。それまではコートに出ても自分で何をやっているかよくわからないという感じだったのですが、あの世界選手権ではいい意味でそれほど緊張していませんでした。「あれがよく言われるゾーンだったのかな」と思うくらいに余計なことは何も入ってこなくて、すごく集中してプレーできました。
財満 私も世界選手権やAOCの中国戦はすごく大きかったなと思っているのですが、そのほかというところでいうと、レペチャージの最終戦、オーストラリア戦です。選手12人全員でハグや握手をしてからコートに立ったのですが、それがすごく濃い時間で強烈に印象に残っています。負けたら終わりで、今までやってきたことが全部ムダになる。だから絶対に今日は勝たなければいけないということで、誰とは言いませんが、試合前から号泣している人もいて(笑)。
萩野 あの声はメインコートにも聞こえていたんじゃないかなぁ?(笑)
財満 そうですね。持ち点が高い選手でしたよね(笑)
――有力なヒントをいただけたので、誰だったかすぐにわかりますね(笑)
財満 でもほかのみんなも「絶対に負けてたまるか!」「やってやるぞ!」みたいにウワーッとなっていて、そういうなかで臨んだ試合をしっかりと勝ち切ってパリへの切符を取ることができたので、そこでチームの団結力も一気に高まった瞬間だったかなと思います。正直、勝った瞬間はあまり覚えていないくらい試合に集中していたのですが、あとでビデオとかを見たら、自分がすごく叫んでいてびっくりしました(笑)。それと最年少の(小島)瑠莉が感情をむき出しにしてガッツポーズをしている写真があって、そういうのを見て改めてチーム一丸になっていたなと感じました。
――レペチャージではベンチの雰囲気もすごく良くて、チームワークの良さがうかがえました。
石川 レペチャージ直前に「ジョイ」(※女子日本代表恒例の試合前の掛け声)もリニューアルしましたよね。
――ちなみに旧バージョンをやっていただけますか?
全員 ジョイ!(パンパン ※手拍子)ジョイ! (パンパン)ジョイ! (パンパン )
――新バージョンは?
全員 3!2!1!イエーイ!ジョイ!(パン※手拍子)ジョイ!(パン)ジョイ!(パン)
――それはいつ、だれが考えたのでしょうか?
清水 私と瑠莉です。もともとのリズムがちょっと落ち着いちゃう感じだったのですが、ずっと昔から引き継がれている伝統だと聞いていたので、それを変えるのは良くないだろうなと思っていたんです。でもレペチャージの時に同部屋の瑠莉と「もっと盛り上げたいよね」という話になって、もともと私が裏をとるリズムが好きだったこともあって、瑠璃といろいろな音楽を聴きながら「やっぱり裏取るのっていいよね」という話になったんです。その時に聴いていたのが、いきものがかりの『じょいふる』という曲で「これいいね!」っていう話から2、3日、2人で考えて、みんなの前で披露しました。そしたら一発で採用ということになって、2試合目のフランス戦からやりました。
網本 選手ミーティングの時に、急に2人で「変えようと思っているんだけど」って(笑)。
清水 まさか1回目で採用されると思っていなくて、瑠莉とはまた練り直すことになるというのは覚悟していたんです。そしたらまさかの1回目で採用になってびっくりしました(笑)。
(聞き手/斎藤寿子)
▶車いすバスケ女子日本代表・パリ直前特別座談会!【後編】 に続く!
写真/干田哲平・文/斎藤寿子