8月28日に開幕するパリ2024パラリンピック。2008年北京以来3大会ぶりに自力出場を決めた車いすバスケットボール女子日本代表は、30日に予選リーグ初戦を迎える。そこで今回は、副キャプテン萩野真世選手、チーム最多3回目のパラリンピックとなる網本麻里選手、東京2020パラリンピックに続いての出場となる清水千浪選手と財満いずみ選手、初出場の石川優衣選手の5人をゲストに迎え、座談会を開催。後編では、北田千尋キャプテンの存在や、5人が愛読する漫画『リアル』について、そしてパリへの意気込みを聞いた。
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――東京パラリンピック後、北田千尋選手がキャプテンに就任し、チームを引っ張ってくれています。もともとムードメーカーとしてもチームには欠かせない存在だと思いますが、どんなキャプテンでしょうか?
清水 本当にあのまんまで、みんなからも慕われていて、AOCの時には大会期間中の1月12日が誕生日だったのでサプライズでみんなでお祝いしました。
網本 全員がお互いに誕生日を知っているので、合宿や遠征の時に誕生日の人がいると、必ず前日に本人には内緒で「どうする?」という話になるんです。AOCでも前日の夜、食事をしている時に、あちこちのテーブルで千尋の誕生日の話になっていました。
財満 千浪さん、(土田)真由美さん、(柳本)あまねと私のテーブルで「お祝いのメッセージを人文字で作ろう」となって、みんなにLINEで提案をしたら、すぐに決行ということになったんです。それで急いでホテル内で白バックのところを探して撮影しました。
網本 私が一番大変だったんですよ(笑)。「ハッピーバースデー」の「ピ」の丸をしなくちゃいけなくて、「違う違う」とか言われながら、あらゆる角度から撮られて(笑)。
清水 あと当日はチームで流行っている人狼をやろうってことになって、それも千尋ちゃんが今まで人狼になったことがなくて「なってみたい」って言っていたんです。それで必ず千尋ちゃんが人狼になるように、実はすべてのクジには「人狼」って書いていたんです。そういうことも一瞬で話がまとまるくらい、いつもチームワークが発揮されます(笑)。
――北田さんと同部屋の選手は隠すのが大変だったのかなと思いますが、誰だったのでしょうか?
網本 同部屋が(西村)葵だったんですけど、すごく演技がうまかったんですよ。人文字の撮影の時も「ちょっと出てきます」って言って出て行って、部屋に帰った時に「どこに行ってきたん?」って聞かれた時の答えも用意をしていて「(小島)瑠莉に勉強を教えていました」って言うようにしたんです。全然バレませんでした(笑)。
清水 当日、人狼の時にはスタッフにも協力をしてもらってやったんですけど、大成功で、最後にサプライズだったとわかった時、千尋ちゃんは大号泣でした。その時もチームワークがいいなと思いましたし、千尋ちゃんがあんなに大喜びしてくれたのもすごく嬉しかったです。
網本 千尋と一番付き合いが長いのは私だと思うのですが、私たち同い年で、しかも高校時代に私がカクテルでプレーしている試合で、まだ車いすバスケを始めていなかった千尋がオフィシャルの手伝いをしているんですよ。その時、千尋の先生が私を指して「あの選手、オマエと同い年だぞ」って言っていたらしいんです。大学入学後には北京パラリンピックの時のDVDも見せられたって言っていました。その後、千尋は九州の大学に進学したので九州ドルフィンに入ったのですが、たしかあじさい杯の時に初めて選手として会って、「なんか声大きいのおるなぁ」と思ったら、それが千尋でした(笑)。もう当時から「あかん!」「行けー!」とかって全部口に出して言っていて、すごく面白かったです(笑)。
清水 私は、キャプテンの千尋ちゃんと、副キャプテンの真世が全然違う性格で、意見も違っていたりするので、チームにはどんな意見も言いやすい雰囲気があるんです。それがすごくありがたいなって思っています。
萩野 千尋さんが先頭に立って走ってくれるからこそチームも前に進めていると思います。何よりもチームをすごく大事にしていて、たまには自分のことだけを考えてもいいんじゃないかなと思うくらいに、チームのことを考えてみんなをまとめてくれています。だからこそみんな安心して、自分のことにフォーカスできているんじゃないかなと思います。
――車いすバスケといえば、8月19日には『リアル』の最新刊VOL.16が発売されましたが、皆さんが『リアル』を愛読するようになったきっかけは何だったのでしょうか?
財満 私は母からの紹介でした。中学1年から車いすで生活するようになったのですが、それまでは立ってミニバスをしていて、バスケを続けたいという気持ちがありました。でも、車いすになったので「これでもうスポーツはできないな」と落ち込んでいたところ、母が『リアル』を買ってきてくれて「車いすバスケっていうスポーツがあるみたいだよ」と教えてくれたんです。それが読むきっかけでもあり、車いすバスケを知るきっかけでもありました。
石川 今、話を聞いてびっくりしたんですけど、同じ1996年生まれの私が車いす生活になったのも同じ中学1年の時でした。
全員 え!すごーい!
石川 ただ『リアル』は父が突然買ってきてくれて読んだのが最初のきっかけだったのですが、それがいつだったかはちょっと忘れてしまいました。私は『リアル』を読む前に体育の先生から車いすバスケのことを聞いていて知ってはいました。ただ具体的には何も知らなかったので、『リアル』を読んで「こういうスポーツなんだ」ということを知りました。
清水 私はもともと『スラムダンク』が大好きで、そのほかの井上雄彦先生の漫画はよく読んでいたので、『リアル』を本屋さんで見つけて買って読んだのがきっかけでした。
萩野 何がきっかけで『リアル』を読み始めたのかは忘れてしまったのですが、とにかく車いすバスケを始めてから読むようになりました。たしか宮城MAXの誰かが体育館で『週刊ヤングジャンプ』を読んでいて、それで知ったように思います。
網本 私は1巻が発売される時にはすでに車いすバスケを始めていて、誰かから「今度、車いすバスケを題材にした漫画が出るみたいやで」というのを聞いて知りました。私ももともと『スラムダンク』がめっちゃ好きだったので、それを描いている人がまさか車いすバスケを描くなんてすごい!と思って、速攻で買いました。
――それぞれの推しのキャラクターは?
網本 みんな好きですけど、一番と言われたら、やっぱり戸川清春です。もともと競技をやっていて、それができなくなったけど、車いすバスケを知ってやるようになってと、バックボーンが自分と同じということもありますし、車いすバスケを極めてトップにまで行きたいと思っているところがシンプルに好きです。
清水 私は高橋久信が気になります。特に高橋のお父ちゃんとお母ちゃん。お父ちゃんが息子が車いすバスケを始めたって聞いて、競技するのにお金がかかるからって自分も仕事を頑張ろうと体力をつけるために昔一緒に1on1をやっていたのを思い出しながらランニングして「ウオオー」って叫んだりとか。その後、息子に「死ね」って言われてふさぎ込んでいたところから復活して金髪にしたお母ちゃんとすれ違うシーンとかが好きで、そういう大きな変化を高橋がもたらしているって考えたら、一人の人間がこんなにも人を変えることができるってすごいなって。
石川 私も一番気になるのは高橋くんです。障害を負うところから描かれていて、私自身は事故ではないのですが、同じローポインターとして辿っていくさまが自分と重なる部分が多くて、リハビリのシーンでも「自分もこういう時期があったな」とか思いながら読みました。
萩野 私はお母さんが陶芸家なので、高橋のお父さんが陶芸している姿を見ると、家で見ていた母の背中を思い出します。そのお父さんが高橋に「正解があるわけじゃない 何かに似せる必要もない 形を整えることが先にあるんじゃなくて…思いをまず聞いてあげること…自分の」と言うシーンが特に好きです。
財満 そんないい話の後に言いにくいんですけど(笑)、私の推しは高橋の彼女、本城ふみかです。性格が地元の友だちっぽくて大好きなんです。リハビリテーションセンターに移った高橋のことをやっと探し当てて泣くシーンとかは、自分とすごく重なりました。友だちとは障害を負う前から仲が良かったのですが、車いす生活になってからも変わらずに接してくれたんです。でも私と一緒にいることでその友達も周りから好奇な目で見られてしまうのが申し訳ないなと思って、私の方が遠ざけてしまいました。そしたら泣きながら「私は好きで一緒にいるし、車いすバスケをしているいずのことも応援したいと思っている。それなのにいずが自分自身のことを恥ずかしいって思うってことは、そのいずを応援したいと思っている私を恥ずかしいと思っているのと同じだよ」って怒ってくれたんです。そういうところが、ふみかとすごく似ているなと思います。
清水 さっきみんなで話していたのですが、16巻がすごく楽しみです。高橋が「ローポインターって何ですか?」という言葉で15巻が終わっているので、その続きを早く読みたいです。パリから帰国した時の楽しみにしたいと思います!
――それでは、最後にパリパラリンピックに向けての意気込みをお願いします!
清水 金メダルを目指して東京が終わってからずっとやってきたなか、まずは日本のディフェンスがどれだけ通用するかというところはすごく楽しみです。ただどれだけディフェンスで相手をロースコアに抑えても、1点でも少なかったら負けるので、レペチャージから練習を積んできた得点力がどれだけ上がっているかというところを見ていただきたいなと思っています。
財満 目標はもちろん金メダル。意気込みとしては、「いよいよだな、楽しみ」という気持ちでいっぱいです。日本のチームには本当にたくさんのいいシューターがいるので、いつも通りのタイミング、距離で気持ちよくシュートを打ってもらえるように、自分はいつも通りにスクリーンをかけたり、相手ディフェンスのラインを下げるといったプレーに命をかけて戦いたいと思います。そしてディフェンスでは、岩野(博)HCが就任して以降ずっとやってきた相手に地獄を味わわせるという部分をブレずにやり続けたいと思います。
石川 私は初めてのパラリンピックなので個人的にはすごく楽しみですし、このメンバーでやるバスケが大好きで、その一員になれていることは本当に光栄で嬉しく思っています。そのチームが目標とする金メダル獲得を目指して、自分もしっかりと貢献したうえで勝ちたいと思います。
網本 東京の時は無観客でしたが、今回は日本からもたくさん応援に来ていただけると思いますし、私の母も北京パラリンピック以来、現地に見に来てくれるので、みんなで3年間作り上げてきたものをしっかりと見せたいと思います。自分たちは5人全員で得点を取りに行くというのが海外とは違う日本の特徴だと思うのですが、それを実行するのに覚えることがたくさんあって頭がパンクしそうになった時もありました(笑)。それでもやり続けてきたからこそ、5人の息の合ったプレーを見せられると思っていて、やっていても見ていてもしびれる瞬間をお見せしたいと思っています。金メダルを獲得するのはそんな甘いことではありませんが、スタッフも含めて全員が100%以上の力を出し切って実現したいと思います。
萩野 女子は自力出場でのパラリンピックは麻里さん以外は初めてで、しかも今回は東京で銀メダルを獲得した男子が出場できない分、女子がこのパリパラリンピックで日本の車いすバスケットボールの歴史を作っていかなければいけないという責任があると思っています。大勢の観客の中でいつもとは違う雰囲気ではあると思いますが、私たちはいつも北田(千尋)キャプテンのおかげで大きな声には慣れているので(笑)、応援してくださる方たちの力を借りて、自分たちの目標をブレることなく目指していきたいと思っています。得点力という点では、ローポインターも含めてどこからでもシュートが打てるチームを完成させてパリに臨みますので、全員が輝いている姿を見てほしいと思います!
(聞き手/斎藤寿子)
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写真/干田哲平・文/斎藤寿子 協力/週刊ヤングジャンプ編集部 ©️I.T.Planning,Inc.