パリ2024パラリンピックは2日、ポルト・ド・ラ・シャペルアリーナでパラバドミントンの競技最終日を迎えた。女子車いす(WH1)のシングルス決勝は、世界ランキング1位の里見紗李奈(NTT都市開発)が同2位のスジラット・ポッカム(タイ)を18-21、21-13、21-18の逆転で下し、パラリンピック2連覇を達成した。1日に行われた女子ダブルス(WH1-WH2)では、山崎悠麻(NTT都市開発)と組み、銀メダルを獲得した。
前回の東京大会と同じ対戦カードとなったシングルス決勝。最初のコイントスで、ポッカムはサーブを選択。里見は追い風と踏んでコートを選んだが、前日までとは異なる風が吹いていた。ポッカムは試合巧者。だが、パワーがあるタイプではない。しかし、第1ゲームはポッカムのクリアが奥まで飛び、精度の高いカットにも苦しまされた。競りはするものの追いかける展開となり、流れを変えることができなかった。
だが、第2ゲームに入りコートチェンジをすると気持ちに余裕が生まれた。想定していた風の流れが逆であることがわかったからだ。「だからスジラットのシャトルが飛んだんだ、と安心しました」。落ち着きを取り戻した里見は、その風の強さや向きを読み、クリアショットを修正。攻め急がずに、丁寧にプレーをコントロールし、リードを保ったまま取り切った。
ファイナルゲームの序盤、互いに点を取り合うなかで、里見には勝算があった。ポッカムは技術的に長けた選手だが、試合が長引き体力が削られると、得意とするカットを多用する傾向がある。「とにかくスジラットを動かして疲れさそうと思いました」と話すように、里見はポッカムを前後に振る配球でロングラリーに持ち込み、ショットアウトのミスを誘った。
中盤から終盤にかけて2度、5連続得点し、逆転とリードに成功した里見は試合中、東京大会を思い出していたという。東京大会の決勝もポッカムに第1ゲームを先制されてからの逆転勝ちだったからだ。里見は、「東京で逆転勝ちした経験があった。それを思い出して、今回も大丈夫だっていう気持ちになれました」と振り返る。パラバドミントンは東京大会からの正式競技。そのトーナメントを最後まで戦い抜き、初代女王に輝いた里見“だけ”が知る経験が、2度目のパラリンピックチャンピオンへの道を切り開いた。
もうひとり、里見を奮起させた選手がいる。東京大会銅メダルの中国の尹夢璐(イン・ムロ)だ。予選リーグでは、里見が第1ゲームを先取したものの、逆転負けを許した。里見より4歳年下の尹はこの数年で急成長し、里見やポッカムらとともに世界をけん引する存在になった。里見は今年2月の世界選手権の準決勝でも尹に敗れており、「何度も苦戦させられる、怖い相手」だと話す。
その尹と再び対戦したのは準決勝。わずかなミスが命取りになるようなハイレベルなプレーの連続で試合が進むなか、苦しい場面で里見のカット気味のドロップが鋭いコースに幾度と決まり、21-17、22-20とストレートで勝利することができた。「予選の負けは悔しかった。でも、それを受け入れることができたのが良かったと思います」。そして、「ルル(尹の愛称)との準決勝は、決勝戦のような気持ちで戦いました。互いに気持ちをぶつけあった試合だったから、結果につながった。ルルには『ありがとう』と言いたいですね」と、好敵手との死闘を振り返った。
予選リーグで敗れた尹に準決勝でリベンジし、決勝はポッカムとフルゲームを戦い、逆転勝ちで頂点に立った。里見に続き、ポッカムが銀メダル、尹が銅メダルを獲得した。これは、東京大会とまったく同じ流れと結果であるが、3年前とは違うものもあったと里見は言う。「競技レベルはぐっと上がったと思います。そして、各選手の金メダルを獲りたいという気持ちの強さをより感じました」
東京大会を機に、パラバドミントン界は世界的にも競技人口が増え、競技力向上が期待されている。これからさらなる進化の過程をたどるであろう世界を見据え、里見はこう言い切る。「私はまだまだ続けるつもり。4年後、ロスで3連覇を目指したいです」。女王の力強い宣言は、ライバルたちの心を突き動かすに違いない。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴