「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス2024」の車いすテニスの部が9月27日から3日間にわたり、有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コートで開催された。8人がエントリーしたシングルスは、パリ2024パラリンピック金メダリストの小田凱人(東海理化)が優勝を飾り、大会2連覇を達成した。
今大会は、日本で唯一のATP(男子プロテニス協会)ツアー公式戦。ジャパンオープンの車いすテニスの部は2019年に新設され、新型コロナウイルス感染拡大による中止を経て2022年に3年ぶりに復活、今年で4回目を迎える。
小田は第1回大会から出場し、2022年大会では決勝で国枝慎吾氏と2時間半にわたるフルセットの激闘を演じ、注目を集めた。昨年初優勝し、そのタイトルを引っ提げて、直後に開かれたアジアパラ競技大会に臨み、見事に制してパラリンピックの出場権を手にした。そのパリ大会で金メダルを獲得した小田にとって、今大会は「凱旋試合」となる。本人も「パリは終わったけれど、僕にとってはこのジャパンオープンまでがセットのつもり」と話すように、パラリンピックで高まった車いすテニスの注目度と魅力を国内で高める絶好の機会ととらえていた。
フランスから帰国後は、各所への報告やトークショー開催などで多忙な日を過ごしていたが、テニスは好調。1回戦は降雨のためインドアコートに変更して行われ、キャパシティの問題等であいにくの無観客試合となってしまったが、世界ランキング55位の馮小敏(中国)に6-0、6-0で快勝。
予定を変更して有明コロシアムで行われた準決勝は、パリ大会の日本代表で世界ランキング12位の眞田卓(TOPPAN)を6-2、6-1で退けた。序盤から武器のひとつである160キロ台のサーブで試合を作り、第2セットも3度のブレークに成功して主導権を握る会心の出来で、「いい試合ができた。楽しかった」と振り返った。
トーナメントのもう一方の山を勝ち上がったのは、世界ランキング4位でパリ大会銅メダリストのグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)だ。フェルナンデスはその実力をいかんなく発揮し、1回戦でモハマド・ユソフ(マレーシア)をストレートで撃破。準決勝では初出場の河野直史(ロイヤリティ マーケティング)に6-1、6-1で勝利し、決勝に駒を進めた。フェルナンデスはパリ大会の準決勝で小田に敗れたリベンジマッチに意欲を燃やし、小田もまた「ガチで行かないと勝てない相手。ギアを一段階上げていく」と気を引き締めた。
パラリンピックのメダリスト対決となった決勝は、日曜のセンターコートの第1試合ということもあり、多くの観客が観戦に訪れた。
第1セット、小田は威力あるサーブで主導権を握る。フェルナンデスもライン際を突く鋭いショットで流れをつくり、互いにサービスゲームをキープする展開に。動きがあったのは、第8ゲーム。小田がフェルナンデスのサーブのコースを読み、2度のリターンエースを決めてラブゲームでブレークに成功すると、続く第9ゲームもセットポイントから157キロの強烈なサーブを沈め、取り切った。
第2セットも先にブレークに成功したのは小田。ところが、第6ゲームはフェルナンデスに世界屈指の威力を誇るバックハンドでウィナーを決められるなどして、ブレークバックを許してしまう。しかし、集中力を切らさない小田は、セットカウント3-3となった第7ゲームで2度のリターンエースを決め、再びブレーク。そこからは高いレベルのプレーを続け、粘る相手を振り切った。
セットカウントは6-3、6-4。今大会を通して1セットも失わない強さを発揮した小田は、オンコートインタビューで「ATPの同時開催は、僕たち車いすテニスプレーヤーにとってスペシャルな瞬間。もっとお客さんを増やせるように、結果を出し続けていきたい」とスピーチ。表彰式では優勝トロフィーを笑顔で高々と掲げ、最後まで会場を盛り上げた。
試合後、記者会見に臨んだ小田は、改めて観客で埋まった有明コロシアムでプレーしたことに触れ、「僕が見たい景色、想像した景色がまるまるそのまま現実になった」と喜びを表現した。また、「パラリンピックが終わって、これからさらに難しい戦いが増えると思うけれど、新しいことに挑戦して、次のロスのパラリンピックではまた違った姿を見せたい」と力強く話した。
また、4組がエントリーしたダブルスは、第1シードの荒井大輔(BNPパリバ)/齋田悟司(シグマクシス)組と、第2シードの藤本佳伸(GA technologies)/ユソフ組が決勝で対戦。藤本/ユソフ組が6-4、6-7(4)、[10-7]で接戦を制し、優勝を果たした。
藤本/ユソフ組は、リードして迎えた第2セットの第10ゲームで、2度のチャンピオンシップポイントを握りながらも最後にミスが出て取り切れず。タイブレークに持ち込まれ、4-1と先行するも6連続ポイントを許し、逆転でこのセットを失ってしまう。しかし、雌雄を決する10ポイントマッチタイブレークでは終始、冷静なプレーで相手のミスを誘い、着実にポイントを重ねて取り切った。
試合後のオンコートインタビューで藤本は、パートナーのユソフに感謝を述べつつ、「個人的には4月に大きな怪我をして3カ月間コートに立てなかった。それがこうして優勝でき、本当に良かった。車いすテニスプレーヤーの活躍の場を与えてくださり、ありがとうございました」とスピーチ。ユソフも「タフな試合だったけれど、マッチタイブレークではパートナーと私の自信が戻り、プレーも向上して優勝することができた」と喜んだ。
敗れた齋田も、ATPツアーにおける車いすテニスの部の開催に触れ、「私が競技を始めたころは夢にも思わなかった世界。最高の場所で、皆さんも前でプレーできてうれしかった」と語り、大会の運営と関係者、観客に感謝の気持ちを伝えていた。
写真/丸山康平(SportsPressJP) ・ 文/荒木美晴