WTA(女子テニス協会)ツアー公式戦「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス2024」が大阪市のモリタテニスセンターうつぼで開かれた。10月18日から20日まではITFツアーとして車いすテニスの部が開催され、パリ2024パラリンピックで単複金メダルを獲得した上地結衣(三井住友銀行)ら8人がエントリーし、シングルスとダブルスで頂点を競った。
シングルスは、1回戦で須田恵美(DC1)、準決勝で佐々木千依(佐々木製材所)をそれぞれストレートで破った第1シードの上地、1回戦で深山知美、準決勝で高室侑舞(SBCメディカルグループ)をやはりストレートで破った第2シードの田中愛美(長谷工コーポレーション)が決勝に駒を進めた。車いすの部が新設された昨年と同じカードであり、両者ともパリ2024パラリンピック後初の公式戦とあって、注目を集めた。
第1セットは、上地のブレークからスタート。鋭いリターンエースを決め、またサービスゲームも時折強く吹く風を読んでトスを短めに上げるなどして対応し、第4ゲームまでラブゲームで奪った。第5、第6ゲームはどちらも0-40と先行を許すが、そこから逆転に成功。上地が6-0で奪取した。
第2セットも上地が田中のポジションを見極め、左右にボールを散らして走らせるなどして主導権を握る。上地は最後まで高い集中力を維持してほぼミスのないテニスを展開し、田中につけ入る隙を与えず、6-0で勝利。上地はつめかけた観客の声援と拍手に手を挙げて応えた。
車いすテニスの部の競技日程は3日間。2日目は降雨によってすべての試合が中止となり、シングルスは準決勝と決勝を最終日に開催することになった。上地は準決勝からわずか30分ほどのレストを経て決勝に臨むことになったが、疲れを見せずに溌剌とプレーした。兵庫県出身の上地にとって、会場のモリタテニスセンターうつぼは競技を始めたころから練習や大会を重ねた思い出の地のひとつでもある。“地元”のファンが大勢駆けつけており、「やっぱり出るからには、パラリンピックの時以上のパフォーマンスを見せたいと思っていた」と上地。そして決勝を振り返り、「本当に集中していたし、テニスのクオリティはここ最近で一番良かったと思う」と、笑顔を見せていた。
田中はパリ2024パラリンピックのシングルスでは9位、ダブルスでは上地とペアを組んで決勝に進出し、3時間の激闘を制して金メダルを獲得。オランダ勢の9連覇を阻止した。帰国後は多忙を極め、練習ができたのは一週間ほどだったというが、「パラリンピックを応援してくださった方々に実際にプレーを見てもらえる貴重な機会」と捉え、出場を決断した。決勝は上地にストレート負けを喫したが、パラリンピックを終えて新しい技術に挑戦し始めたといい、「サーブは完全に打ち方を変えてみたり、フォアハンドも変化をつけようとしている。上地選手にももっといい勝負ができるように、このチャレンジを継続していきたい」と言葉に力を込めた。
今大会は、中学3年の松岡星空(せいら/ブレイクスルー)、18歳の高室と岡野莉央(東邦高)といった若手選手が初出場を叶えた。高室は女子ジュニア世界ランキング2位、岡野は同4位につけ、グランドスラム全米オープンの車いすテニスジュニアの部にも出場。今年の大会ではふたりで組んだ女子ダブルスで優勝を果たし、高室は女子シングルスも制して二冠を達成するなど、着実に成長を遂げている。
今大会のシングルス1回戦では、高室と岡野が対戦。高室が6-2、2-6、6-2で接戦を制した。「岡野選手は走るのが速く、ラリーも続けるのが上手い。今日はこちらの体力がそがれる前に、先手必勝というか、攻める気持ちを大事に戦った」と高室は振り返る。高室の実姉は車いすテニスのパラリンピアン、髙室冴綺選手で、パリ2024パラリンピックは代表選考レースの5番手から最後に逆転して出場切符を掴んだ。高室は「最後の最後に追い上げるのは本当にきついことだと思うけれど、それをやり切った姉は目標でもある。後方からのし上がっていくのが上手いので、見習いたい」と、笑顔で話した。
高室と岡野はともに2006年生まれで、パリ2024パラリンピック男子シングルスで金メダルを獲得した小田凱人(東海理化)も同級生だ。岡野は「同世代の選手は、一緒に高め合っていける仲間。いい意味で刺激しあって、互いに成長していきたい」と話し、前を向いた。
ダブルスの決勝はセンターコートで行われ、上地・田中組と高室・岡野組が対戦。前述のとおり、パリ2024パラリンピックの金メダルペアと、全米オープン女子ジュニアのダブルスチャンピオンのカードとあって観客の関心を集めた。
センターコートはベースラインの後方が広くとられ、選手がカバーするエリアも広くなる。そんな中、上地・田中組は息の合ったプレーを発揮。相手ペアが繰り出す高さのあるボールに対応しつつ、甘いコースへの返球を見逃さずに打ち込んでウィナーを取るなどして、終始試合をコントロールし、6-1、6-1で18歳ペアを退けた。
高室・岡野組は敗れたものの、「センターコートでパラリンピックの金メダルペアと戦えて嬉しかった。すごく良い経験になった(岡野)」、「自分らしいプレーはできた。今後につなげたい(高室)」とコメント。
また、上地・田中組も「若い二人が自分のテニスをしていて、私も自分ができることを突き詰めていかなければと改めて思った(田中)」、「パリの裏側で開かれていた全米オープンでふたりが優勝する姿にパワーをもらった。活躍が期待されるふたりなのでぜひ応援してほしい(上地)」とスピーチし、健闘を称えていた。
写真/植原義晴・ 文/荒木美晴