11月17日~22日、タイ・バンコクでは男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップ(U23AOC)が開催された。16~21歳の11人で臨んだ男子U23日本代表は初戦から実力を発揮して予選リーグを5勝1敗で2位通過。決勝ではオーストラリアに敗れはしたものの、最もアジアオセアニア王者を苦しめて善戦した。その結果、銀メダルに輝き、上位3チームに与えられる来年の男子U23世界選手権の切符を獲得した。5日間で7試合という過酷なスケジュールのなか、“ディフェンスで勝つ”を遂行し、試合を重ねるごとに成長と躍進を遂げた戦いの日々を振り返る。
今大会にはアジアオセアニアゾーン(AOZ)からオーストラリア、インド、イラン、サウジアラビア、フィリピン、タイ、そして日本の7チームが参加。まずは総当たりでの予選リーグが行われ、その順位に従って最終日には順位決定戦が行われた。日本が最終目標にしていたのは予選リーグを2位以上で通過して決勝進出を決め、世界選手権への出場を確定させること。そのために重要としていたのが、開催国タイとの予選リーグ初戦と、オーストラリアに次ぐ強豪のイランとの第2戦で、この2試合での勝利が決勝進出へのカギを握ると考えられていた。
大会2日目の18日、まずはタイとの初戦を迎えた。トップ選手でも初戦の入り方は難しいとされるうえに、今回のメンバーは11人中10人が海外での国際大会が初めてというメンバーばかりだった。しかし試合前のアップ時から声がよく出ており、時折笑顔が見られるなど、チームは和やかななかにも適度な緊張感と勝利への強い思いが漂ういい雰囲気に包まれていた。
そして前哨戦として臨んだ1週間前の北九州チャレンジカップで、しっかりと初戦を勝利で収めたという経験が、選手たちに大きな自信を与えていたのだろう。“ディフェンスで勝つ”という合言葉通り、試合開始からコンタクトの強いディフェンスでタイを翻弄。前半20分でタイのターンオーバーが14を数えたことからも、ディフェンスがいかに機能していたかがわかる。
試合後、「ディフェンスでの勝利だった」と中井健豪ヘッドコーチ(HC)が語った通り、最大の武器としたディフェンスで強さを発揮するという最高のゲームの入り方をした日本は、オフェンスでもFG成功率30%台をキープし、全ピリオドで2ケタ得点をマーク。結果は57-21で快勝し、日本は1つ目の目標を達成した。
翌19日には予選リーグ第2戦でイランと対戦した。イランは長身のハイポインター陣がペイントエリア内で得点を量産する強豪で、高さがない日本にとっては大きな壁となって立ちはだかった。攻防にわたってインサイドでは勝負が難しい日本が勝つためには、2つのポイントがあった。いかにインサイドから相手を締め出し、少しでもゴールから遠い位置でシュートをさせるディフェンスができるか。もう1つは、日本のアウトサイドのシュート成功率をどれだけ上げることができるか。この2つのピースをそろえることが、勝利の条件だった。
まずはディフェンスで流れを引き寄せたいところだったが、1Qは時間が経つにつれてイランのハイポインター陣にパワーで押し切られるようにしてインサイドを割られるケースが増え、失点を重ねた。さらに日本のシュートは勝利の女神から見放されたかのようにリングから嫌われた。1QのFG成功率はイランが47%に対して、日本は18%に終わり、7-16とリードを許した。
だが、2Qに入ると、中井HCが切ったカードが的中した。スピードに自信を持つ小山大斗(3.5)をスタートから起用し、ディフェンスを彼1人がハイポインターをマンツーマンで守る“ワンアップ”の形に変えたのだ。「キーマンを止めながら相手がイライラしているのがわかった」と小山の感触通り、思うようにシュートチャンスを作れなくなったイランのFG成功率は28.6%にまで落ち込んだ。するとオフェンスにもいい流れが生まれ、有吉奏太(2.5)が得意の3Pシュートを2本炸裂させるなどして猛追。3Qも岡田壮矢(3.5)が12得点を挙げるなどしてイランと互角に渡り合った。
そして迎えた4Qで爆発したのが、岩田晋作(4.5)だ。この試合、3Qまで5得点、FG成功率18%にとどまっていた岩田だったが、4Qに入ると本領を発揮。特に後半の5分間は凄まじく、一人で14得点を叩き出す活躍を見せた。その岩田の連続得点で、日本は残り2分でついに逆転に成功。そしてすぐに同点に追いついたイランに対し、引導を渡すかのように有吉がこの試合4本目となる3ポイントシュートを決めた。最後はファウルゲームで再逆転を狙うイランに対し、岩田がフリースローを6分の4の高確率で決めて引き離し、日本は65-58で勝利を収めた。
劇的な逆転勝利で強豪を撃破した日本は、その後も快進撃が続き、予選リーグを5勝1敗で2位通過。見事に目標としていた決勝進出を決めると同時に、最終日を待たずにU23世界選手権への出場権を獲得し、最大のミッションをクリアした。
ただ順風満帆だったわけではなく、実は予選リーグを戦うなかで国際大会の洗礼を受けるべく、チームが厳しい状況に置かれたこともあった。なかでも最もチームがもがき苦しんだと思われるのが、大会終盤の21日のことだ。その日、日本はダブルヘッダが組まれ、午前にオーストラリアと、午後には予選最後のサウジアラビアと対戦することになっていた。オーストラリアとの一戦は、序盤から相手ペースで試合が進み、最後まで立て直すことができなかった日本は19-65と完敗を喫した。
チームの士気が明らかに下がっていたのが、この約5時間後に行われたサウジアラビア戦だった。敗戦による気持ちの落胆と、4日間で6試合目という過密スケジュールによる疲労も重なったのだろう。試合自体は42-24とダブルスコアに近い差で勝利を収めたものの、最後まで日本らしいバスケットができずに終わった感が否めなかった。
しかし、翌日の大会最終日、コートに現れたチームの雰囲気は一変していた。しっかりと気持ちを切り替えたのだろう。選手たちは生き生きとした表情を見せ、最後の戦いの準備に集中していた。オーストラリアとの再戦となった決勝は、結果的には敗れた。しかし、ボールマンに対して強くプレッシャーをかける予選でのディフェンスから、まずはインサイドに割られないようにすることを強く意識したディフェンスに修正したことが奏功して善戦。特に1QはオフェンスもFG成功率はオーストラリアの31%をはるかに上回る40%をマークするなど、攻防にわたって日本の強みを発揮した。13-16とリードを許したものの、内容的には日本に分があった。
2、3Qは日本のディフェンスにアジャストし、さらにギアを上げたオーストラリアに引き離されたが、最後の4Qは12-14と意地を見せて猛追。敗れはしたものの、予選とあわせてオーストラリアを60点台に抑えたのは出場国のなかで日本が唯一だった。さらに予選では相手キーマンの2人が3Qでベンチに退いたものの、決勝では4Qも彼らが入った主戦のラインナップが起用された。このことからもオーストラリアがいかに日本を警戒していたかがわかる。
“ディフェンスで勝つ”というスタイルを継承しながら、これまで日本が得意としてきた高いラインからプレッシャーをかけるスタイルではなく、ハーフコートでインサイドを守るという彼らならではの強みを築き上げ、結果にも結び付けたU23日本代表。中井HCも「ハーフコートのディフェンスは、アジアオセアニアでは日本が一番うまい」と語り、大きな手応えを口にした。
もちろん課題は少なくないが、若い彼らにはそれだけ伸びしろと可能性があるという証でもある。今大会で身に付けた自信と経験値が、どんな成長につながるのか楽しみだ。今大会でチームはいったん解散し、U23世界選手権に向けて再び代表の座を争うことになる。果たして来年6月、サンパウロの地にどんなチーム、選手となって現れるのか。今後もU23から目が離せそうにない。
写真・ 文/斎藤寿子