創設3年目となった、「LIGA.i ブラインドサッカートップリーグ2024」は2024年12月1日、品川CCパペレシアルが悲願の新王者となり、閉幕した。4チームが参加して同10月5日に開幕、同11月23日の第2節を経て、最終節までの全3節にわたり総当たり戦を展開。前回覇者のfree bird mejirodaiが準優勝、初代王者の埼玉T.Wingsが3位、buen cambio yokohamaが4位だった。
パペレシアルは開幕戦(品川区立総合体育舘/東京都)で、T.Wingsに3-0で勝利して単独トップに立つと、第2節でもbuen cambioを1-0で下し、勝ち点6を挙げ一早く優勝を決めた。フクシ・エンタープライズ墨田フィールド(東京都墨田区)で行われた最終節はfree birdに0-1で敗れ、全勝優勝は逃したが、森田翼キャプテンは、「優勝はチーム皆の力でかなえられた。2024年の目標はLIGA.iと日本選手権のタイトルを取ること。一つ目を達成できたので一つ安心できた」と笑顔を見せた。第2節で優勝を決め、迎えた最終節は、「新しい取り組みをテーマにしていた。点を取り切れなかったところは修正して、日本選手権も取りに行きたい」と意気込んだ。
大会得点王(3得点)とMVPをダブル受賞するなど初制覇に貢献した川村怜は、「タイトルが取れて、MVPももらえたのは嬉しい。第1節で勝って勢いに乗れたことが大きかった。今日、負けてしまったのは悔しい。もったいない失点だった」と振り返った。川村は日本代表主将として戦ったパリパラリンピック後すぐのLIGA.i参戦となったが、「(クラブ)チームとして、試合はいい経験になる。ありがたい」とポジティブにとらえ、活躍した。
準優勝のfree birdは最終節の勝利で、1勝2分けの勝ち点5で2位を死守した。山本夏幹監督は、 「(パペレシアルの)3連勝を阻めたので気持ちのよい勝利だった」と振り返った。選手にはマインド面ではハイインテンシティ(強度)、ハイスピード、ハイパワーを指示。戦術面では、「タテ」をキーワードに、主に守備を担う永盛を除いた3選手に対し、「高い位置にいて、鋭く前に出る」ことを指示していたという。「高い位置でプレーし続ければ、たとえルーズボールになっても、もう1回後方から回収して2次攻撃を続けられる。それをやり続けた結果が今日の1-0の試合だった」。狙い通りのプレーを展開した選手たちを評価した。
この日、貴重な決勝点を挙げた北郷宗大も、「相手は2連勝で王者を決めたチーム。しっかり向かっていくというマインドで臨んだ。今日のテーマが『高く』だったので、相手がボールをもったときのプレッシングやトランジションの速さを意識していた。打てるチャンスがあったら打とうと思っていた」と達成感をうかがわせた。昨季は2冠に輝いたfree bird。狙っていた2冠2連覇は逃したが、「日本選手権は連覇したい」と、もう一つのタイトル防衛を強く誓った。
2022年に初代王者となったT.Wingsは今季、スタメンの複数選手をケガで欠く苦しいシーズンを過ごした。第1節、第2節で引き分けたが、最終節のbuen cambio戦で相手オウンゴールにより勝利し3位とした。菊島充監督は選手発掘も含めてチーム状態の整備を課題に挙げ、再び持ち味である「攻撃的なブラインドサッカーを見せられるように頑張りたい」と前を向いた。
buen cambioは3季連続の最下位に終わった。攻守の要である齋藤悠希は、「ゲーム的には押していたが、勝ちきれず悔しい。今季は各選手が新たなポジションにも取り組んでいて、T.Wings戦はフォーメーションを少し変えていた。その分、攻撃的にいけて決定機も多かったと思う。まだ、詰め切れていない部分で細かい連携ミスもあり、ゴール前の混戦からオウンゴールでやられてしまったのは課題」と悔しさをにじませつつ、来季への手応えも感じさせた。
強豪チームが集うLIGA.i。第2節で勝者が決したが、最終節の2試合も競り合いが続き、最後まで勝敗の行方が分からない、見応えある大会だった。
パペレシアルという新王者誕生で3季目を終えたLIGA.iは、既存大会とは一線を画した開催目的を掲げた「トップリーグ」として2022年に新設された。目的の第1は、「競技性や興行性の高い大会を経験する機会をつくり、日本代表チームやクラブチームの強化につなげること」である。
この3年間のLIGA.i出場チームには男女合わせ、日本代表強化・育成選手たちが多数、所属しており、「LIGA.iは強度の高い試合が経験できる場」と歓迎する声も多い。実際、創設から毎年、優勝チームが変わるほど実力が拮抗しており、ハイレベルなパフォーマンスが展開されている。
主催する日本ブラインドサッカー協会の松崎英吾専務理事は「競技性」について、パリ大会予選と重なった時期もあり、「3年間で難しい部分もあったが、代表選手強化の成果はLIGA.iでのプレーの中で確実に見られた。拮抗した試合も増え、コンペティティブな大会として、LIGA.iがちゃんと機能している兆しが見えた」と手応えを語る。
目的の2つ目は「興行性の高い大会を開催すること」。会場観戦は有料とした分、演出や観客サービスなどにもこだわり、ファン獲得から定着、拡大までを意識して運営されている。さらに、「クラブチームや協会の組織性を高めること」という3つ目の目的もあり、LIGA.i出場チームには競技力だけでなく、組織運営力や競技普及活動への注力度合いなども求めている。
松崎専務理事は、「集客数、オンライン配信の視聴数はここ3年ほぼ横ばいであり、力不足を感じる部分もある。だが、クラブチーム経由の集客は徐々に増え、チーム同士で集客方法を話し合うなど切磋琢磨も生まれている。協会任せでなく、チームが自覚して取り組む兆しが見えて、頼もしい。大会を皆で育てていく土壌に、3年かけてやっとなれたように思う」と実感を込めた。
実際、今季は品川区立総合体育館で行われた第1節は品川区を拠点とするパペレシアルが「ホームゲーム」と位置付け、会場を横断幕や幟で盛り上げ、観客席の多くもチームサポーターが埋めるなど、新たなチャレンジに取り組んだ。パペレシアルはこの初戦をものにし、初優勝への追い風としたが、森田キャプテンも、「ピッチの360度から声援が聞こえて、嬉しかった」とファンの後押しに感謝した。松崎専務理事は、「応援の仕方や雰囲気づくりなど、いい見本を見せてくれた」と評し、他のチームからも興味を示す声があるという。「そういう取り組みの中で、集客数も上がっていけば」と期待を寄せた。
今季新設された、社会におけるLIGA.iの価値向上に最も貢献したチームに贈られる「IDE共創Award」を受賞したのは、buen cambioだ。参加4チームに地域活動やリーグ興行に関する取り組みについてヒアリングをし、選ばれたという。
晴眼選手(*)で、主軸の一角を担う和田一文は、「視覚障害のあるなしに関わらずメンバーが増えたことで、紅白戦もできるようになりチーム練習の質が上がっている」とチーム状況を説明。選手増についてはここ数年、自らが広報担当となって注力してきたSNSでの発信の成果だと言い、「続けてきてよかった」と話した。齋藤も、「メンバーの意識も、チームの雰囲気も変わってきて、今まで全部やってきた僕がプレーに集中できるようになってきている。いい流れができたかなと今日、思えた」とチームの努力とその成果を振り返ったが、こうしたチームの活動が評価されたのだ。(*: パラリンピックなど国際ルール下の試合ではB1(全盲など)選手に限られるが、国内大会ではローカルルールとして晴眼選手も出場できる)
ただし、創設からずっと同じ4チームが参加していることのマンネリ化や、総当たり戦1回で順位が決まるため試合数の少なさなどが課題でもある。松崎専務理事は「来季はエントリーチームが増えてくれれば」と期待感を口にしたが、4チーム制から純増させるのか入れ替えるのかは、「実際のエントリー状況などを見て検討したい」と話すに留めた。また、「トップリーグのわりに試合数が少ないことも課題だと思っている」として試合形式も含め、よりよい形を探っていく意向を話した。
なお、LIGA.iは閉幕したが、22チームが参加して11月2日に開幕した日本選手権は、トップ8による12月22日の準決勝ラウンドを経て、2025年2月8日に予定されている決勝ラウンドまで、戦いはまだ続く。free birdが連覇を果たすのか、あるいは新たなチームが頂点に立つのか、注目される。
日本代表はパリパラリンピックにチーム史上初めて自力出場を果たしたが、本戦では苦杯をなめた。予選ラウンドで3戦全敗し、順位決定戦にも敗れ、8チーム中8位という悔しい結果に終わった。大舞台での実力発揮や得点力などの課題が浮き彫りとなり、代表チームの底上げは急務だ。
日本代表は2028年のロサンゼルスパラリンピックでの雪辱に向け、パリ大会で指揮を執った中川英治監督の続投が決まり、すでに11月から新体制での強化がスタートした。新戦力の発掘も含め、国内での切磋琢磨は不可欠であり、LIGA.iにかかる期待も大きい。さらなる発展に注目したい。
写真・ 文/星野恭子