2024年12月20~22日、車いすラグビー国内最高峰の大会「第26回車いすラグビー日本選手権大会」が、横浜武道館(横浜市)で開催された。予選大会(兵庫、新潟)とプレーオフを勝ち抜いた全8チームが熱戦を繰り広げ、ブリッツ(東京)が連覇を達成、通算10度目の優勝に輝いた。
4チーム総当たりの予選ラウンド、準決勝と、別格の強さで勝ち進んだのは、前回王者のブリッツ(東京)。そのブリッツとの頂上決戦に挑んだのは高知のフリーダムだ。フリーダムは準決勝で、パリ金メダルメンバーの中町俊耶と橋本勝也を擁する東北ストーマーズ(東北)との接戦を制し、2大会ぶりの王者奪還を狙った。
「フリーダム 対 ブリッツ」の決勝は、序盤からブリッツがリードする形で展開された。パリ日本代表の4名(長谷川勇基、小川仁士、池崎大輔、島川慎一)の最強ラインナップをスタメンに起用したブリッツは、フリーダムが得意とする、スペースを広く使うラグビーを封じ込め主導権を握る。
各ピリオド終わりの「ラストゴール」を取ることを目標に掲げ今大会に臨んだブリッツは、第1、第2ピリオドのラストトライをきっちりと収め、19-27の大量リードで試合を折り返した。
後半、フリーダムは思うようにボールを運べない苦しい時間帯が続く。それでも、チームに勝利を届けたいと、パリ日本代表キャプテンの池透暢が巧みなチェアワークで相手を抜き去り、白川楓也がランでトライを奪う。粘り強さを見せるフリーダムに対して、ブリッツはアグレッシブなチームプレーを継続した。そうして第3、最終ピリオドでもラストゴールを挙げ、最後までリードを譲ることなく、42-55で試合終了。ブリッツが大会2連覇に輝き、10度目の優勝を果たした。
キャプテンの小川は、「優勝で終われて安心した。内容を見ても(前回大会では全選手を出すことができなかった決勝も含め)チーム全員に出場機会を与えることができたので、チームとしての成長を感じとれた」と笑顔で仲間を称えた。
さらに小川は、自身初となる大会MVPも受賞し、「率直にうれしい。ローポインターが目立つことは少ないが、コートでもベンチでも自分の役割をしっかり果たしたことがMVP獲得につながったのでは」と、控えめに喜びを語った。
今大会で、チーム設立当初から目標としてきた「日本選手権出場」を果たしたのは、大阪を拠点とするウェーブス(WAVES)だ。「関西から“波(WAVE)”を起こして車いすラグビーを盛り上げたい」。チーム名にそんな思いを込め、2022年、車いすラグビー初心者4人で活動をスタートした。4人の情熱は徐々に実を結び、結成3年目の今シーズン、念願の大舞台に選手10人で臨んだ。
予選ラウンドでは、13-44(ブリッツ戦)、13-67(東北ストーマーズ戦)、33-44(ライズ千葉戦)と連敗を喫したウェーブス。キャプテンの副山大輝は、「予選大会やプレーオフとは違い強豪しかいない大会、その洗礼を受けた。戦術的にもフィジカルでも負けている部分がいっぱいある」と戦いを振り返った。一方で、「自分たちがやりたいことができて、強豪を相手に13点を取れた。そこは、良いこととして捉えたい」と、収穫を語った。
チーム立ち上げメンバーの副山は8年前、海での事故で首の骨を折り車いす生活となった。リハビリ中に車いすラグビーを知り、その体育館で練習していた日本代表の倉橋香衣と出会った。倉橋と走ったり話をするなかで、ラグビーへの思いが強くなっていった。しかし当時、関西にチームがなかったことから一念発起。「怪我をしたけれど、何か形あるものを作ってやり遂げたい」とメンバーを募り、副山自身も、倉橋がつないでくれた長谷川勇基からラグ車を譲り受け、本格的に競技を始めた。
結成1年目は公式戦全敗。2年目の昨シーズン、「地元・関西のチームでプレーしたい。そして、少しでも強いチームを関西に作りたい」と、浜野健二が移籍しヘッドコーチに就任した。2004年~2008年に、日本代表としてアジア・オセアニア選手権や世界選手権に出場した経験を持つ浜野は、チームに戦術を落とし込み、試合に向かう気持ちを伝えた。チームは大きく前進し、前回のプレーオフ大会では公式戦初勝利を挙げた。
新たに3名の選手が加わった3年目の今シーズン、プレーオフで2勝し、ついに日本選手権への切符を勝ち取った。選手も兼任する浜野だが、日本選手権の前月に練習試合で手の指を骨折。「コートでプレーすることができず本当に残念です。でも、コーチに専念できる」と話し、ベンチで戦い続けた。そうして、最終日に行われた7位・8位決定戦で沖縄ハリケーンズを44-26で下し、本大会初勝利の歓喜のなか、7位で大会を終えた。
副山は、「初めて経験する日本選手権は異様な空気だったが、楽しみしかなかった。自分たちが強くなれば必然的に勝って日本選手権に出られる。また1年がんばっていきたい」と決意を新たにした。
日本の車いすラグビーが世界の頂点に立った2024年。会場には、パラリンピック前に行われた前回大会の緊張感と入れ替えに、高揚感が漂っていた。
怒涛の一年を振り返り、パラリンピック6大会連続出場を果たした島川慎一は、「車いすラグビーを25年やってきて、ようやく金メダルが獲れたので、ほっとしている。『4年後のロスは?』とよく聞かれるが、そんな先のことは考えたくない。まずは1年1年、しっかり代表に食い込んで実戦レベルでプレーしていきたい」と、ベテランの風格を見せた。
そして、不動の日本代表キャプテン・池透暢は、「これまでの努力とか挑戦というものが、目標に到達できたという思いがある。人生のピークというくらい、いろいろな意味で、報われ、達成できて、到達できたことに、すごく満足した一年になった」と充実感をのぞかせた。
パリ金メダルメンバーたちが穏やかな笑顔で2024年を総括するなか、唯一、硬い表情を見せたのは橋本勝也だ。「パリ・パラリンピックで金メダルを獲得し、かつ、チーム最多得点という、数値で分かるものを残せて、自分が成長した部分をしっかりと見せつけ、今までやってきたことが間違っていなかったと証明することができた。ただ、世界一と日本一を獲る年にするという思いで臨んだ今回の日本選手権で、日本一という目標が果たせず、正直、悔しさが残る年になった」。チームを勝利へと導くため、さらなる成長を誓った若き日本のエースのまなざしは、国内大会をヒートアップさせることを予感させた。
日本代表の歴史的快挙は、次世代を担うプレーヤーの心にも火をつけた。アックス(埼玉)に所属する中学3年生の島崎瑛漣は、パラリンピックの日本代表戦を全試合中継で観たといい、「準決勝のオーストラリア戦を観ながら自分もずっと泣いていた」と興奮気味に語った。「チームメートの羽賀(理之)選手や倉橋選手が金メダルを獲ったのを見て、今度は自分もその舞台に立ってプレーしたいという思いがどんどん高まった」。日本代表の勇姿、そして「ずっしりと重かった」という金メダルは、島崎だけでなく、多くの人々に刺激や喜びをもたらしたに違いない。
新たな歴史を拓いたパラリンピック・イヤーを終え、今年はどんな景色を見せてくれるのか。
世界をリードする日本の車いすラグビーに、今後も期待したい
【第26回車いすラグビー日本選手権大会 結果】
優勝 ブリッツ(東京)
準優勝 フリーダム(高知)
3位 東北ストーマーズ(東北)
4位 福岡ダンデライオン(福岡)
5位 アックス(埼玉)
6位 ライズ千葉(千葉)
7位 ウェーブス(大阪)
8位 沖縄ハリケーンズ(沖縄)
【大会MVP】 小川仁士(ブリッツ)
写真/吉村もと ・ 文/張理恵