1月31日~2月2日、東京体育館で開催される「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会」。1970年に産声をあげた“クラブ日本一決定戦”は今回で50回目を数え、さらに1975年に創立した日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)にとっても50周年と節目の大会となる。全国から予選を勝ち抜いた16チームが一堂に集結する今大会は、果たしてどんな熱戦が繰り広げられるのか。
まず優勝の最有力候補に挙げられるのが、神奈川VANGUARDSだ。エントリー11人中9人が、ハイパフォーマンスや次世代の強化指定選手という、まさに日本を代表する選手たちが顔を揃えた戦力は絶大と言える。今年度は前回大会で課題とされたオフェンス力に注力してきたと言い、髙柗義伸(4.0)、鳥海連志(2.5)の高さを生かしたインサイドの強さに加え、古澤拓也(3.0)以外にも3ポイントシュートの得点源が増えた。前回の天皇杯では3試合で古澤の1本にとどまった3ポイントでの得点がどれだけ増えるかに注目したい。
また、前回までは主力が6人とメンバーがほぼ固定され、ラインナップも宮本涼平(1.0)と、前田柊(1.5)が入れ替わる2種類を柱に戦っていたが、1月24日の記者会見で丸山弘毅は「今は誰が出ても変わらない」と戦力の厚みにも自信を示した。特に今回は優勝を達成するには通常よりも1試合多い4試合となるだけに、新加入の塩田理史(3.0)や、昨年11月の男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップ(AOC)で銀メダル獲得に貢献した渡辺将斗(4.0)、そして流れを変える力を持つ山下修司(2.0)といった若手が入ったラインナップがいかに機能するかが重要となりそうだ。いずれにしても前回からさらにパワーアップし、チーム初の3連覇を狙う神奈川が今大会の目玉となることは間違いない。
その一方で、神奈川の牙城を崩すチームが現れるかが最大の見どころでもある。そこで注目したいのが、神奈川が順当に勝ち進んだ場合の準決勝の相手だ。実はここには国内トップクラスのチームがひしめき合っている。前々回準優勝チームのNO EXCUSE、2大会ぶり出場の千葉ホークス、日本選手権常連のワールドバスケットボールクラブだ。
なかでも大きな戦力が加入したという点で、NO EXCUSEとワールドには注目したい。NO EXCUSEには埼玉ライオンズから朏秀雄(4.0)が移籍し、インサイドの強さがより増した。昨年12月の男子ハイパフォーマンス強化指定選手の強化合宿では、京谷和幸ヘッドコーチ(HC)から「成長著しい選手」の一人として朏の名前が挙がっており、ペイントエリアでの迫力あるプレーが期待される。もともと森谷幸生(4.0)や橘貴啓(4.0)というハイポインターもいるだけに、高さは申し分ない。
さらに昨年度に加入した立川光樹(3.0)はアウトサイドのシュート力に磨きがかかっている。初出場だった前回の天皇杯では本来の実力をほとんど見せられずに終わったが、2回目となる今回は本領発揮となるか。チームにとってもポイントの一つとなる。
もちろんエースでキャプテンの香西宏昭(3.5)の存在は欠かすことはできない。だが、及川晋平HCが求め続けてきた「1人の選手に頼り切らないチーム」への変貌を遂げられるかが、ひいては最も大事な局面での香西のプレーにもつながり、初優勝へのカギを握るはずだ。いずれにしても、近年では最も戦力がそろった状態であることは間違いないだろう。果たして、“7度目の正直”となるか。
そして、スタイルが大きく変わったのが、ワールドだ。もともとハーフコートによる緻密で組織的なバスケットを得意としてきたチームだが、近年ではメンバーの減少によりベテラン勢が40分間フル出場することも多く、ロースコアの展開を余儀なくされてきた。それでもメンバーの息の合った熟練のプレーは、さすがのひと言に尽き、それがワールドのオリジナリティでもあった。とはいえ、年々全国の舞台では厳しさが増していたことも事実だった。特にコロナ禍以降は顕著で、前々回、前回と2年連続で20点以上の大差での初戦敗退という結果に終わっている。
しかし、今年度はこれまでとは一味違う。チームにとって大きかったのは、筧裕輝(4.0)の加入だ。ここ1、2年でスピードとスタミナに磨きがかかり、速いトランジションからペイントエリアにアタックする攻撃も破壊力が増してきた筧。2023年の全国ブロック選抜大会ではMVPに輝くと、24年には次世代強化指定選手に初選出。ワールドでも存在感を示し、天皇杯西日本2次予選会ではインサイド、アウトサイドの両方で得点を挙げ、全3試合で2ケタ得点をマーク。1位通過の立役者となった。
その筧とのホットラインで得点に結びつけるキャプテン竹内厚志(3.0)は、自身でドライブ突破する力もあり、さらに3ポイントシュートも得意としている。また竹中久雄(2.0)や冨永文明(3.5)のプレーは安定感抜群で、高いシュート力を持つ。大ベテラン大島朋彦(4.0)も健在で、彼を起用する際には従来のワールドのバスケットが展開される。これまでのハーフコート一辺倒から、ラインナップごとにリズムを変えるチームへと変貌したワールド。記者会見で竹内は「チーム名の由来である“世界一”を目指して、その通過点である日本一の座につき、強いワールドを取り戻す」と宣言。新たな“ワールド時代”に突入となるか。
さて、今大会は“打倒・神奈川”を掲げて臨むチームも少なくないだろう。なかでもその思いが強いのが埼玉ライオンズだ。前回大会の決勝では、4Q残り30秒で神奈川に逆転を許し、3点差での惜敗となった。この1年、メンバーの多くがその一戦を見直し、悔しさを忘れることなくトレーニングに励んできたという埼玉にとって、今大会はリベンジの場でもある。
赤石竜我(2.5)と朏という主力の2人がチームを離れたが、熊谷悟(3.5)と16歳の久我太一(1.5)が新たに加入。すでに主力の一人となっている熊谷は、徐々にメンバーとの息も合い、本来のシュート力を発揮する場面が増えている。さらに既存メンバーの植田紘公(2.5)の成長も著しく、インサイドでの得点力が格段に上がった。そして「どこのチームよりもフィジカルを鍛え、走ってきたという自信がある」とキャプテンの北風大雅(4.5)は語る。東日本第2次予選会で1位通過を果たしたことで、チームに大きな自信が生まれたことも追い風となっている。
今年1月のスーパーリーグ最終戦では神奈川に敗れはしたものの、新しいディフェンスを試す場にもなったと言い、緻密な戦略に長けた中井健豪HCはこう手応えを口にする。「今は相手によって選択肢があるチームになっている。昨年まではある程度力で押していけましたが、今年はその力がないことを逆手にとって、スタイルがあるようでないバスケットをしたいと思っています」
実はそれは、中井HCが以前から口にしてきた“後出しじゃんけん”スタイルが確立されつつあることを示している。つまり、いくつもの選択肢を持つことによって相手や展開次第で自在に戦略を選択し、逆に自分たちは確立されたスタイルを持たないからこそ、相手にとってはやりにくさがある。指揮官の手腕と、選手たちの遂行力がマッチすれば、無類の強さとなるに違いない。
そして今大会の“台風の目”となりそうなのが、4大会ぶり出場の富山県車椅子バスケットボールクラブだ。昨年度、古崎倫太朗(2.5)の加入により得点力が一気にアップした富山は、東海北陸ブロックの第1次予選会で1位に輝いて早々と本戦への出場権を獲得。決勝では長きにわたって同ブロックの絶対王者として君臨してきたワールドを55-41で快勝と、実力の高さを示した。北京、ロンドン、リオ、そして銀メダルを獲得した東京と4大会連続でパラリンピックの出場経験を誇る宮島徹也(4.0)がヘッドコーチを兼任する富山が、久々に上がる全国の舞台で旋風を巻き起こすかもしれない。
また前回はチーム史上最高成績の3位となった伊丹スーパーフェニックスは、近年は西日本で圧倒的な強さを誇るチームだ。三浦玄(4.5/健常)と深川大が前回大会と入れ替わり、三浦が選手登録し、深川がヘッドコーチを務める新体制で初の決勝進出を目指す。さらに今年6月には男子U23世界選手権が開催されるだけに、ハダーズ函館元町ライオンズ車椅子バスケットボールクラブのキャプテンを務める岩田晋作(4.5)や、宮城MAXの有吉奏太(2.5)など、若手のプレーにも注目したい。
天覧試合となる予定の大舞台で、日本一の栄光に輝くのは果たしてどのチームか。1月31日、国内最高峰の戦いの幕が上がる。
写真・文/斎藤寿子