いよいよ平昌パラリンピックが3月9日に幕を開ける。五輪と同じ会場を使い、アルペンスキー、バイアスロン、クロスカントリースキー、パラスノーボード、パラアイスホッケー、車いすカーリングの6競技80種目が行なわれる。
日本選手団は選手38人のほか、競技パートナー、役員、コーチら計86人。車いすカーリング以外の5競技に出場する。主将はパラアイスホッケー日本代表キャプテンの須藤悟(日本パラアイスホッケー協会)、旗手はアルペンスキーの村岡桃佳(早稲田大)が務める。
前回のソチ大会で、日本勢のメダルは金3個、銀1個、銅2個の計6個だった。平昌大会では、「前回大会を超えるメダル数」(大日方邦子団長)の獲得を目標に掲げている。そこで大会前に表彰台が有力視されている日本人注目選手を、競技の見どころとあわせて紹介しよう。
■アルペンスキー
前回ソチ大会で日本選手団が獲得した計6個のメダルのうち、実に5個がアルペンスキー勢によるものだ。男子座位の狩野亮(マルハン)が滑降とスーパー大回転で優勝し、鈴木猛史(KYB)が回転で金メダル、滑降で銅メダルを獲得、森井大輝(トヨタ自動車)がスーパー大回転で2位になった。座位とは、立って滑ることができない選手が、1本のスキー板の上にシート、フレーム、サスペンションから構成されるチェアスキーに乗って滑るカテゴリーだ。
ソチから4年、日本勢は今も世界のトップを走り続けている。なかでも、バンクーバー、ソチと2大会連続で金メダルを獲得している狩野の滑りは必見だ。その実績からもわかるように、高速系種目を得意とし、最大時速が130kmに迫ると言われる競技初日の滑降で優勝すれば、チームに勢いがつくだろう。
37歳の森井の活躍にも期待が高まる。パラリンピックは5大会目となるベテランで、持ち味のカービングターンを武器に3大会連続で銀メダル獲得、また2016-2017シーズンは自身3度目となるワールドカップ(W杯)男子座位の個人総合優勝を果たしている。
各国のライバルたちが「タイキのような滑りがしたい」と憧れる森井が、唯一手にしていないもの、それがパラリンピックの金メダルだ。これまで幾度となく優勝候補とされながらも、2位が最高。その悔しさをバネに、この4年間は徹底的に自分の滑りを分析し、さらには日本の最新テクノロジーを集結させたチェアスキー開発にも取り組んできた。さらにスケールアップした今、「てっぺんしか見えない」と自信をのぞかせている。
また、ケガから復帰した男子立位の片脚スキーヤー・三澤拓(SMBC日興証券)、2度目の出場で今季好調の女子座位・村岡桃佳(早稲田大)らのレースも楽しみだ。
■パラスノーボード
ソチ大会ではアルペンスキーの1種目という位置づけだったパラスノーボードが、平昌では独立した新競技として行なわれる。ジャンプ台やウェーブなどで構成されたコースを複数人が同時に滑って戦うスノーボードクロス、旗門を設置したコースを3回滑走し最速タイムを競うバンクドスラロームの2種目が実施される。
日本勢は初出場。成田緑夢(ぐりむ/ひざ下障害・LL2/近畿医療専門学校)、小栗大地(ひざ上障害・LL1/三進化学工業)、山本篤(LL1/新日本住設)の3選手が世界に挑む。
成田は男子LL2で世界ランク1位。足首を使って板を操作し、かかとに加重するバックサイドの滑走は、左足首が動かない成田の課題のひとつだったが、左脚のブーツをホールド感のある硬いものに変えることでターンに安定感が増した。今季W杯最終戦の2月のカナダ大会で2種目制覇するなど結果を残しており、ソチ大会スノボ―ドクロスの覇者、エヴァン・ストロング(アメリカ)らとともに優勝候補の一角として大会を迎えるが、「挑戦の気持ちを忘れず戦いたい」と気負いはない。
小栗は事故で右脚を切断するまで、プロのスノーボーダーとして活躍しており、義足となってもカービングターンの巧さは大きな武器といえる。世界ランクはスノボ―ドクロスで7位タイ、バンクドスラロームでは4位につけており、平昌では表彰台を狙う。
山本は夏季パラリンピックの陸上・走幅跳の銀メダリスト(北京、リオデジャネイロ)。その義足のジャンパーがIPC(国際パラリンピック委員会)の招待枠で、趣味で続けていたスノーボードでも代表に選ばれた。実は昨年7月のパラ陸上世界選手権で山本の3連覇を阻んだダニエル・ワグナー(デンマーク)もパラスノーボードに出場予定で、夏冬続けてのライバル対決に大きな注目が集まりそうだ。
■クロスカントリースキー/バイアスロン
初出場の17歳の川除(かわよけ)大輝(雄山高)や21歳の新田のんの(北翔大)、長野大会から6大会連続出場となる新田佳浩(日立ソリューションズ)など、若手選手からベテランまでが代表に名を連ねた。
バンクーバー大会で2つの金メダルを獲得した上肢障がいの新田佳浩は、ソチ大会では表彰台を逃した。今回の平昌に向けてはフィジカルを強化してきた。
「4年前より今の自分のほうが強い」
金メダル獲得を狙う初戦のスプリント・クラシカルで雪辱を期す。
1月の全日本で、その新田佳浩に勝利した佐藤圭一(エイベックス)はクロスカントリースキーとバイアスロンの2種目にエントリー予定。パラトライアスロンの選手でもあり、2016年リオパラリンピックに初出場している二刀流だ。冬季大会の出場は平昌で3大会目となり、主戦場である雪上でメダル獲得への意欲を燃やす。
ちなみに視覚障がいの選手は、ガイドと一緒にコースを滑る。ガイドはマイクを装着して腰にスピーカーを付けて選手の前を滑り、コース状況などを指示する。後ろの選手はガイドの声をたよりに滑走する。選手とガイドの絶対的な信頼感によって生まれる息の合ったレース展開は、パラスポーツならではの見どころのひとつだ。
■パラアイスホッケー
パラアイスホッケーは下肢障がいの選手のためのスポーツで、スレッジと呼ばれるそりに乗り、2本のスティックで前に進んだり、シュートを打ったりする。一般のアイスホッケー同様にボディチェックが認められており、何といってもその激しい攻防とスピードが魅力だ。日本代表はバンクーバー大会で銀メダル獲得の実績がある。平昌大会では、初戦の韓国戦に勝利して決勝ラウンド進出へつなげたい。
『失ったものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ』
これは、パラリンピックの生みの親、グッドマン博士の言葉だ。パラスポーツを見るとき、選手たちが障がいを負った背景や失った機能に目がいきがちだが、それだけではなく、今回のパラリンピックでは、残った部分をどう活用・強化し、また障がいの程度に合わせてどう道具に工夫を凝らして試合やレースに挑んでいるのかにも注目してみてはどうだろうか。そうすれば、観戦が何倍も面白く感じるはずだ。
大会は18日まで行なわれる。10日間にわたる4年に一度の大舞台でどんな熱戦が繰り広げられるのか、楽しみに待ちたい。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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荒木美晴●文 text by Araki Miharu 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu