パラアイスホッケーの国際大会「2025 ジャパンパラアイスホッケーチャンピオンシップ」が1月10日から6日間にわたり、長野市のビッグハットで開かれた。昨年5月の世界選手権5位の韓国、同7位のイタリア、同8位の日本と、3カ国から選手を集めたTeam MAX(以下、MAX)の4チームが参戦。総当たりの予選リーグと順位決定戦を行い、イタリアが全勝優勝を果たした。2位は韓国、日本は3位に入った。
日本は予選リーグでイタリアに0-4、韓国に1-6で敗れ、MAXには3-2で勝利。1勝2敗で臨んだ準決勝で韓国と再び対戦して0-3で敗れたのち、最終戦の3位決定戦でMAXを2-0で下した。ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会(以下、ミラノ2026大会)が来年に迫り、2大会ぶりのパラリンピック出場を目指している日本代表にとって、課題を洗い直す機会となった。
今大会は日本代表にとって前述の世界選手権以来、8カ月ぶりの対外試合となった。長く実戦から遠ざかっていたこともあり、決定力不足が浮き彫りになった。初戦のイタリア戦は無得点。相手の反則によるパワープレーのチャンスを得るも堅い守備を崩せず、終盤に反撃を受けて先制点を許した。日本が攻めあがるシーンもあったが、シュート数は「4」に終わった。また、韓国戦はFW新津和良(長野サンダーバーズ)が得点するが、計4度のパワープレーのチャンスで決め切れず、そのうち2回は一瞬のスキを突かれて1人少ない相手にショートハンドゴールを許す事態となった。準決勝も無得点に終わり、3位決定戦では急造チームのMAXを相手に計21本のシュートを放つが、2得点に留まった。
キャプテンのFW熊谷昌治(長野サンダーバーズ)は、「もっと泥臭くゴール前にパックを集めて得点を狙わないといけない」と話し、DF石川雄大(東京アイスバーンズ)は「格上の韓国とイタリアと対戦して、打つべきシーンでしっかりとシュートを決める2チームと、打っても点を決められない日本。身体にしっかり当ててプレッシャーを取りに来る2チームと、スティックで取りに行こうとする日本。そういった細かい差が結果につながっている」と反省を口にした。
ただ、今大会は全試合で指揮を執った宮崎遼コーチが「試合の中でしか試せないことがある」と話すように、失敗を恐れずにさまざまなチャレンジをした大会でもある。宮崎コーチ自身も、シンガポール在住の中北浩仁監督が不在の際は代表合宿でハイパフォーマンスディレクターのブラッドリー・ボーデン氏とともにメニューを考えながらビルドアップしてきたことが評価され、ベンチワークを一人で担った。また、国際大会で先発マスクを被ってきたGK堀江航(東京アイスバーンズ)が欠場したことで、バックアップだった岡部学(東海アイスアークス)がメインで日本のゴールを守り、国際大会ならではの海外勢の強烈なシュートを受ける貴重な経験を積んだ。
現在はアメリカに留学し、NHL「コロラド・アバランチ」傘下のパラアイスホッケークラブでプレーする19歳の伊藤樹(ロスパーダ関西)は、一時帰国して大会に臨んだ。FW登録ながら予選リーグ途中からDFで出場しており、守備を固めながらもチーム最多得点をマークした。宮崎コーチによれば、伊藤の帰国直後の合宿時から日本代表メンバーとの間にプレーのズレが生じており、「伊藤の視野が狭くなっていること、直線的に最短距離で前に行こうとする癖が出ていたことから、後ろに下がって周りを見てほしいと考えた」と、DFで起用した理由を明かす。伊藤自身も「FWにしてほしい動きや、自分がFWだったときにできていなかったことが分かった」と振り返っており、気づきのある挑戦だったようだ。
この伊藤に加え、18歳(※大会当時)の鵜飼祥生(東海アイスアークス)がセンター、19歳の森崎天夢(北海道ベアーズ)がウイングで起用され、10代の同級生トリオがファーストセットを担った。鵜飼も昨年は渡米して3カ月間、伊藤と同じクラブで本場のプレーを体感しており、「スピード感とプレーのテンポが良くなったと実感している。今大会は得点できなかったけれど、シュートまで持っていけるシーンが増えているし、日本代表でのプレーに活かせていると思う」と、力強く語る。
また、1998年の長野パラリンピックを含め5度、パラリンピックに出場しているベテランで、FWとDFのどちらもこなすユーティリティプレーヤーの三澤英司(北海道ベアーズ)は、「10代の選手は今大会のなかだけでも伸びている。とくに鵜飼は後ろからみていても頼もしさを感じる。私が競技を続ける理由のひとつに、彼らの成長がある。なんとか彼らにパラリンピックの舞台を経験させてあげたいと思っているし、それが自分のモチベーションにもなっている」と、後輩への想いを語る。
ミラノ2026大会の出場枠は「8」。まずは、世界選手権Aプールの上位5チームが出場権を得る。世界選手権Bプールに出場する日本代表は、まずは上位3位以内に入り、パラ最終予選出場を目指す。中北監督によれば、この先対外試合の予定はなく、合宿で最終強化を進めていくという。今大会の経験を糧に、若手と中堅、超ベテランがさらに一体となり、どこまで世界と戦えるチームにしていくか、注目が集まる。
写真/植原義晴 ・ 文/荒木美晴