ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会開催を来年3月に控え、出場枠獲得にもつながる重要な意味をもつ今シーズン。その国内開催の国際大会としては初戦となった「2025 FISパラ・ノルディックスキーアジアカップ札幌大会」が1月8日から9日にかけて北海道・札幌市の白旗山競技場で開催された。日本をはじめ、強豪の中国やウクライナなど5カ国から約30選手が参加し、熱いレースをくり広げた。
なかでも、2日連続の表彰台で好調をアピールしたのは2022北京パラリンピック金メダリストで日本のエース、川除大輝(日立ソリューションズ)だ。男女計31人が出走し、オールコンバインド(*)で行われた初日のクロスカントリースキー1.2㎞スプリント・クラシカルでは惜しくも2位だったが、男子立位8選手で競った2日目の同5㎞フリーでは優勝を果たした。
(*オールコンバインド: 異なる障害クラスも男女も混合<コンバインド>で行うレース形式。より公平な競技のため、予め障害クラスと性別ごとに係数(%=ハンディキャップ)が設定され、順位は各選手の実測タイムに係数を掛けた計算タイムで決定される)
昨年12月にフィンランドでワールドカップ初戦3種目に出場し、スプリント・クラシカルでの4位が最高位で表彰台は逃していたが、「昨シーズンよりも感覚はいい。今大会で表彰台に立てたので、いい流れで来ているかなと思う」と振り返った。実際、2位だったスプリント・クラシカルも予選、準決勝、決勝へと調子を上げられたと言い、5㎞フリーでも海外選手と競り合いながら勝ち切れたことに充実の表情を浮かべた。
好調の要因としては昨夏、スキー技術以上に基礎体力向上に力を入れたことを挙げ、おかげで今季シーズンイン前の体力測定では最大酸素摂取量など過去最高値をマークした項目が多かったという。また、小学生時代から同じスキークラブで切磋琢磨してきたというオリンピアン、廣瀬峻選手との合同合宿も実施して高いレベルでの実戦練習にも取り組み、成長を実感しているという。
ミラノ・コルティナ大会では、「クラシカル種目では2連覇を、フリー種目では課題を克服して納得の走りをし、表彰台に立ちたい」と前を見据えた。
長濱一年ヘッドコーチによれば、昨季の国際大会には全く出場していなかった中国チームが、今季は初戦から出場し、「勢いが予想以上にあった」という。「しかし、川除は、『自分よりも強い選手が現れて、ヨシッという思いになった。逆に燃えて頑張れる』と言っている。来年いきなり勢いを見せつけられたら手遅れだったが、もう1年、準備できる時間があってよかった」と話し、強化を急ぐ。
パラリンピック3大会連続出場の女子立位、阿部友里香(日立ソリューションズ)は2023年4月に第1子出産後、約1年の産休を取って競技復帰し、今季が本格的な実戦復帰となる。メイン種目とするスプリント・クラシカルでは5位に入った。5㎞フリー(女子立位)は2位だったが、優勝したイリーナ・ブイ(ウクライナ)に「いつもより食らいつけた」と手応えを口にした。
阿部も中国勢の台頭には驚いたというが、北京大会前に見舞われた体調不良も改善し、妊娠・産休期間中にも継続していた基礎トレーニングにより、「強化できる土台ができた」と進化を語る。フィジカル面での充実だけでなく、競技と育児の両立による多忙さがかえってよい緊張感となり、メンタル面でも上下動なく競技に臨めていると話す。子育てをしながら、突然歩き始めた娘の姿などに接し、「人間の可能性を感じるし、一歩一歩成長する積み重ねの大切さを感じる」と言い、自らの可能性にも重ねている。
今季は、「スキーにしっかり体重を乗せて大きくスキーを滑らせるフォーム」を意識し、「下りは得意分野なので、上りと平地を強化してトップ選手との差を縮めたい。1日1日、濃密な時間を送りたい」と、さらなる進化を誓う。ミラノ・コルティナ大会では現実的な目標として、「スプリント・クラシカルでの入賞」を挙げた。
男子立位のベテラン、新田佳浩(同)はワールド杯初戦では3種目とも二けた順位と苦戦し、今大会では2種目とも惜しくも4位だった。「自分としては悪い滑りではない」と振り返ったが、中国勢の台頭にも危機感を募らせつつ、「中国選手は身体の使い方が上手い。僕が習得するべき部分の1つのヒントになれば」とライバルから学ぶ意欲も示し、今後の巻き返しを誓った。
出場すれば、自身8大会目のパラリンピックとなるミラノ・コルティナ大会に向け、「今季は始まったばかりだが、自分の位置は当然分かっているつもり。一点突破で『これなら負けない』という種目を作らないといけない。僕は、大会最終日の10㎞クラシカルで表彰台に立つことをイメージしながら、この1年間を過ごしていきたい」と前を見据えた。
北京大会座位代表の森宏明(朝日新聞社)は今季ワールド杯初戦で、「自分史上最高のパフォーマンスができたという自覚がある。そのいい感触のまま、今大会に臨めた」と振り返った。好調の要因には、「夏場から、座位チームで短距離に特化した練習メニューに取り組み、チーム全体でレベルアップできたこと」を挙げた。
なかでも、障害クラスの源貴晴(アムジェン)との切磋琢磨に触れ、「筋力測定の数値は源さんが圧倒的に高く、ミドル・ロングの持久系種目も強い。短距離では源さんが僕の後ろにつき、持久系は僕が源さんに離されないようにと競い合えた」と充実感をにじませた。「まずは、ミラノ・コルティナ大会の出場権を獲ることが目標。その上で、スプリント種目で予選通過し、ファイナル(6人)に入り、メダル争いに絡めるくらい成長したい」と力を込めた。
源は、北京大会代表を惜しくも逃した悔しさをバネに、この数年フィジカルの強化や苦手克服、シットスキーの見直しなどに励んできたという。「今季はすべての取り組みがようやく形になってきたかなという印象」と手応えを語る。昨季からバイアスロンにも挑戦し始め、2競技でミラノ・コルティナ大会での初出場を目指している。
視覚障害クラスの有安諒平は今大会が今季の国際大会初戦となった。スプリント・クラシカルでは決勝進出は逃し10位だったが、5㎞フリー(男子座位)では自身初の国際大会優勝を果たし、「国際大会では初めての金メダルなので、とても嬉しい」と笑顔を見せた。
初出場だった北京大会では20㎞クラシカルで7位入賞を果たしている。今季は藤田佑平ガイドとともに、蹴り脚の角度や膝の使い方を見直し、「エネルギー効率のよい滑り」を強化しているという。バイアスロンにも今季から本格参戦し、「練習の成果をタイムにつなげていきたい」と意気込む。
なお、パラ・ノルディックスキーの視覚障害クラスは今季より区分が見直され、障害の重いほうから順にNS1~3の3クラス制となった。有安も無事にクラス分けを終え、NS3に区分された。今後の大会で確実に結果を残し、自身2度目のパラリンピック出場につなげていくつもりだ。
川除ら日本ナショナルチームは今後、1月末からミラノ・コルティナ大会と同会場でのテスト大会兼ワールド杯(第2戦)に、2月にはスロベニア(バイアスロン)とイタリア(クロスカントリースキー)での世界選手権に、2月末から3月初旬にかけノルウエーでのワールド杯(最終戦)に出場を予定している。
ミラノ・コルティナ大会の詳細な出場要件はまだ、国際パラリンピック委員会から発表されていないが、各大会で好結果を上げ、世界ランキング上位にランクインしておくことが重要だ。
川除は、「(札幌大会での)勢いで、この後の国際大会でもメダルを取りたい」と意気込み、とくにイタリアでのテスト大会では来年の本番に向け、「攻略すべきポイントはどこか確認したい」と話した。
写真/日本障害者スキー連盟提供 ・ 文/星野恭子