1月31日~2月2日、東京体育館で「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会」が開催された。全4試合で20点以上の差をつけて3大会連続6度目の栄冠に輝いた神奈川VANGUARDSの強さが際立った一方で、観客を魅了し、会場をわかせた好プレーも多かった50回目の日本一決定戦。今後も注目したいチーム、プレーヤーを紹介する。
1回戦から快進撃を見せた神奈川は、埼玉ライオンズとの決勝も、開始早々に古澤拓也(3.0)の3ポイントシュートを皮切りに3連続得点で序盤から主導権を握った。3Qで埼玉の勢いを感じると、4Qではポイントの一つとしていた3ポイントシュートよりもミスマッチを狙い、インサイドで確実に得点することを優先。その選択が奏功し、得点を量産した神奈川が61-41で制し、3連覇を達成。MVPにはマルチな活躍でチームをけん引した鳥海連志(2.5)が輝いた。
今大会の神奈川には、日本一の得点力があった。なかでも髙柗義伸(4.0)は得点ランキング2位の113得点(1試合平均28.25点)、フィールドゴール(FG)成功率は59.8%、鳥海も89得点(22.25点)、49.4%と高い決定力を誇った。準々決勝以降は3ポイントシュートの決定率が低迷したが、髙柗が2ポイントシュートの成功率62.7%とペイントエリアでの絶対的な強さを誇ったことが大きかった。
さらに移籍1年目の塩田理史(3.0)は準決勝、決勝でスタメンに抜擢。「マルチな役割をこなし、チームに違う色をもたらせてくれる」と鳥海が語るように、塩田の加入によってもたらされたプラスαもまた、3連覇を後押ししたに違いない。
埼玉ライオンズは、2年連続での準優勝と悔しい結果に終わったが、前回大会から2人の主力が抜けたなか、しっかりと決勝まで勝ち上がり、意地を見せた。なかでも2人しかいなかったハイポインターにとっては過酷だったが、3日間で北風大雅(4.5)は155分間、大山伸明(4.5/健常)は153分間を戦い抜いた。そして最大の得点源となった大山は4試合で最多122得点をマーク。FG成功率は、脅威の50.9%。フリースローの成功率も45%を誇った。
4試合中3試合で2ケタ得点をマークした加入1年目の熊谷悟(3.5)の飛躍も大きかった。なかでも準決勝、試合終盤の重要な局面で2本ともに決めたフリースローは、間違いなくチームに大きな力をもたらした。「最後は自分を信じようと。自分が一番シュートがうまいんだと思って打ちました」と熊谷。そんな頼もしい姿に、キャプテン北風も「彼はケガもあって、メンタル的には本当に苦しいなかで天皇杯に向かってきた。そんななかでこれだけのパフォーマンスを見せてくれた。100点満点だと思います」と称えた。
決勝で財満いずみ(1.0)がチームの士気を高める連続得点を挙げ、16歳の新人、久我太一(1.5)も自信のあるスピードで相手ハイポインターを止める好プレーを見せるなど、今大会ではローポインターの活躍も目立った埼玉。次回こそ“6度目の正直”で悲願の初優勝を狙う。
最も厳しい山を勝ち上がり、前回から順位を一つ上げて3位となったのがNO EXCUSEだ。なかでも移籍1年目の朏秀雄(4.0)が4試合中3試合でチーム最多得点と、期待に応える活躍を見せたことが大きかった。新境地においても実力を発揮することができた理由について、朏はこう語る。
「チームが温かく迎えてくれて、すごくコミュニケーションを取ってくれたんです。足りないところも言ってくれるので、気づきも多かった。自分にとっては本当に取り組みやすい環境でした」
大会期間中にも、チームのおかげで乗り越えられたことがあった。大会2日目の準決勝で、朏は右腕を気にするしぐさをして途中交代。すぐにコートに戻ったが、そのうち両腕を気にするようになり、表情は険しいままだった。聞けば、腕がつったのだという。しかし、翌日の3位決定戦では元気な姿を見せ、FG成功率61.5%、16得点とチームの勝利に貢献した。そこにはチームの献身的なサポートがあった。
「昨晩しっかりとケアをしてもらったおかげで、今日はまったく影響はありませんでした。栄養や水分補給についても、NO EXCUSEで学ぶことが多くて、今日の試合でもこれでもかっていうくらいに水分を摂りました。おかげで最後までプレーすることができました」
ここぞという時に最も頼りになり、ゲームをコントロールして指揮官が掲げた戦略の遂行へと導く役割も担う香西宏昭(3.5)はもちろん、朏とペアを組むことが多い大嶋義昭(1.0)や仙座北斗(1.5)などローポインターの存在も欠かせなかった。そして同じハイポインターには朏とは特徴が異なる森谷幸生(4.0)と橘貴啓(4.0)がいる。髙橋智哉(4.5/健常)も今大会でプレータイムを伸ばし、3位決定戦で3分の2でシュートを決めるなど成長を見せているだけに、さらに戦力に厚みが増しそうだ。
4大会ぶりの出場で旋風を巻き起こしたのが、富山県WBCだ。古崎倫太朗(2.5)が持ち前のシュート力で得点を量産。大山、髙柗に次ぐ95得点をマークし、FG成功率は53.1%を誇った。特に準決勝の4Q、試合時間残り3秒で決めた同点のミドルシュートは圧巻だった。
今大会デビューを果たした新星にも注目が集まった。昨年の天皇杯一次予選会後に正式登録した川上将生(4.5/健常)だ。大一番の準決勝ではスタメンに抜擢されて30分間出場し、FG成功率57.1%の高確率で16得点をマーク。3位決定戦もFG成功率50%を誇った。
現在は大学院に通い、今年4月から社会人となる川上。大学1年で始めた車いすバスケットボールの競技歴は8年になる。富山に正式に加入してまだ1年も経たないが、すでにチームには欠かせない戦力だ。川上の活躍が、11大会ぶりのベスト4進出を後押ししたことは間違いない。
また、岩井孝義(1.0)も存在感を示した。東京2020パラリンピック以降、彼のシュート力は目覚ましい成長を見せており、今大会の準決勝では川上と並んでチーム2番目に多い16得点を叩き出した。ミドルポインターやハイポインターにも並ぶ得点力を持つ岩井の存在は、今後さらに脅威となるはずだ。
15年ぶりの出場となったハダーズ函館元町ライオンズWBCは初戦敗退を喫したが、将来有望な若手が多くいる。キャプテン岩田晋作(4.5)は、男子U23日本代表の大黒柱でもあり、近い将来日本のエースとして活躍することが期待されている逸材。今大会も準優勝した埼玉との初戦で、20得点とエースとしての大役を果たした。
その2歳下の弟、岩田龍馬(4.5/健常)は競技歴はまだ2年未満だが、チーム唯一の3ポイントを決めるなど兄にも劣らない身体能力の高さを持つ。一昨年の夏に北海道室蘭市で行われた男子ハイパフォーマンス強化合宿に参加した兄の練習を見学に訪れた際、トップ選手たちのプレーに魅了され、それをきっかけに車いすバスケを本格的に始めたという岩田龍。兄とは同じ高等専門学校に通い、部活動では野球部に所属していたなど仲が良いが、ライバル心を燃やす。「兄はすごくうまい。でも、自分も負けていないと思っているし、ライバルの存在でありたい」。今大会で指標となる存在も見つけた。初戦で対戦し、レベルの高さを肌で感じた大山だ。「互角に戦えるようになる」ことを目標に練習に励むつもりだ。
函館には、もう1組、兄弟がいる。現役高校生の中澤琉成(4.5/健常)・煌河(3.5)だ。兄・琉成の1歳下で高校1年生の弟・煌河は、今年の男子U23世界選手権での活躍も期待される新星の一人だ。バスケットボール一筋の中澤煌は、小学生の時に漫画『スラムダンク』にはまり、小学3年生でミニバスを始めた。中学校でもバスケットボール部に所属していたが、2年生の冬に病気が発症し、両足の切断を余儀なくされた。当初は「もうバスケはしない」と思っていたが、周囲からのすすめで函館のチーム練習を見学に行くと、すぐに「やりたい!」と加入を決めたという。
シュートを得意としている中澤煌は、今大会では岩田晋に次ぐ10得点。2ポイントシュートとフリースローはいずれも50%と高確率で決めた。目標は香西だと言い、「オールラウンダーのプレーヤーになりたい」と語る。
そのほか、今大会最年少出場の中学1年生、八木橋琉空(1.0)も40分間フル出場と主力としてプレーし、成長した姿を見せた。伸びしろ十分な若手が揃う函館の今後が楽しみだ。
写真・文/斎藤寿子