ブラインドサッカーの今季日本一のクラブチームを決める「アクサブレイブカップブラインドサッカー日本選手権」のファイナルラウンドが2月8日、町田市立総合体育館(東京都)で行われた。決勝戦ではコルジャ仙台が前回王者のfree bird mejirodaiに2-1で勝利し、初タイトルを獲得。第4回(2005年度)大会の大阪ダイバンズ以来の「関東圏以外の王者」となった。大会MVPにはコルジャの決勝弾を放ったチーム最年少の高校1年生、石川竜誠が輝いた。3位決定戦では品川CCパペレシアルがbuen cambio yokohamaを1-0で下した。
今大会は全国からエントリーのあった22チームを8グループに分け、昨年11月に4グループずつ2会場(東京・葛飾区/広島市)で予選ラウンドを行った。各グループ首位となった8チームが12月の準決勝ラウンド(静岡・浜松市)に進出。トーナメント戦の結果、上位4チームがファイナルラウンドに進む形式で争われた。
コルジャは2012年の創設以来、着実に力をつけてきた。日本選手権は第17回大会(2018年度)で初のベスト4入りを果たすと、第19回大会(2021年度)ではチーム最高の3位になった。第20回大会(2022年度)にも3位決定戦に進み、free birdに0-0からのPK戦(0-1)で惜敗。今季は予選ラウンドを首位通過すると、準々決勝ではたまハッサーズを1-0、準決勝ではパペレシアルを2-1と、優勝経験チームを相次いで撃破し、初の決勝進出を果たしていた。
一方、2016年設立のfree birdは前回を含む過去2回、優勝している。パリパラリンピック日本代表4人をはじめ、男女の強化指定選手を多数擁する強豪だ。今季は予選ラウンドを勝ち上がると、準々決勝のA-pfeile広島BFC 戦と準決勝のbuen cambio戦をともに1-0で勝ち抜け、連覇への挑戦権を得た。
注目の一戦は両チームが開始直後から激しい攻防を展開し、すぐにゲームが動いた。前半2分、コルジャの佐藤翔が自陣内でルーズボールを拾うとドリブルで一気に駆け上がり、相手ゴール前に右サイドから侵入。そのまま右足を振り抜くと、強烈なボールがゴール左下に決まり、コルジャが先制した。勢いに乗ったコルジャはその1分後、相手ゴール前にこぼれたボールを石川が左足で蹴り込み、追加点を奪ってリードを広げた。
free birdの山本夏幹監督はすかさずタイムアウトを取ってチームを落ち着かせた。その後も激しい攻防は続いたが、前半は2-0のまま折り返した。後半2分、free birdは右コーナーキックから鳥居健人がボールをドリブルで運び、右45度からボールを浮かすシュートでキーパー頭上のネットを揺らし、1点を返した。なおもfree birdは園部優月らが何度もコルジャゴールに迫った。だが、コルジャは堅い守備で追加点は許さず、初の栄冠をつかんだ。
コルジャの佐藤暢監督は、「ゲームプランは特段なく、『仙台らしいプレーをしよう』と話していた。勝因はチーム一丸となって戦えたこと」と振り返った。序盤に2点をリードしたが、「ビハインドだと思って戦えと指示していた」という。その指示通り、選手は戦った。
先制弾の佐藤は優勝決定の瞬間、ピッチ上に大の字になった。「ここに来るまで10年以上かかった。最初はブラサカを楽しむところから始まり、(近年は)優勝を目指すようになった中で、ようやく目標が達成できた。気づいたら倒れていた」と喜びを口にした。サッカーは小学3年から始め、高校卒業後も社会人リーグで活躍したが、晴眼者ながら縁あって2014年頃、コルジャに加入。ブラサカと同じ5人制であるフットサルにも取り組み、技術や戦術をブラサカに落とし込みながら頂点を目指してきた。「free birdは必ず型として攻めてくる。受け身にならないような練習をやってきた」。練習通りの早い仕掛けでチームを優位に立たせた。
決勝点を挙げ、大会MVPにも選ばれた石川は、「自分の公式戦初ゴール。『今しかない』と無我夢中で打っていった。嬉しい」と話した。献身的なプレーが光った斎藤陽翔は2点先制後、「しっかり守らないといけないと、より緊張感が増した状態でプレーできた」とうなずいた。
キーパーの佐々木智昭は勝因に「練習量」を挙げた。関東のチームと違い、他チームとの練習試合の機会は少ないため、「まずは自分たちにベクトルを向けて練習してきた。Jリーグなどを参考にしたフィジカルトレーニングにも精力的に取り組み、走り負けないことをテーマに、(昨年の)夏はとにかく走った」と話す。決勝戦前には体育館を借りて備えたという。「free birdには引いたらやられる。前半から点を取りに行こうと話していた。ポンポンと(2点を)取れたあとはしっかり対策されたので、正直しんどかった」と明かしたが、終盤はチームメートに、「優勝したかったら、体を張るしかない。(夏の)走り込みを思い出せと声を掛けつづけた」と振り返った。
ブラサカの国内大会では青眼や弱視の選手も参加できるローカルルールを採用している。コルジャも多様な選手がそれぞれの強みを生かしてチームを作ってきた。佐藤監督は3年前、初の表彰台(3位)に上がった際、「結果を残せば、仙台にもチームがあると知ってもらえる。視覚障害のあるメンバーを増やしていきたい」と話していたが、今回の優勝を認知度のさらなるアップにつなげていく。
一方、free birdの山本監督は試合前、選手たちに「コルジャの個の力」を警戒するよう話し、守備では「しっかりタテを切って相手の前進を止めること」を、攻撃ではコルジャ最終ラインの佐藤と佐々木GKに対し、「しっかり駆け引きして突破していこう」と指示していたという。だが、失点シーンでは、「僕らの連係が足りていなかった」と悔しさをにじませた。
鳥居は立ち上がりの2失点について、「スロースターターというチームの弱みが、大事な決勝戦で出てしまった」と反省を口にした。それでも立て直し、後半開始直後には長身キーパー、佐々木の頭上を抜く技ありシュートで自ら1点を返した。「僕自身の中では1個持っている形だった。あのシチュエーションで使えるかなという思いで打った」と渾身のシュートだった。
さらなる追加点を目指し、何度も相手ゴール前に迫った園部優月は、「練習してきたシュートまでのドリブルは何本か成功したが、最後のシュートの部分で打ち切れなかった。少ないチャンスで決められる選手にレベルアップしたい」と前を見据えた。
free birdは昨季、トップリーグ「LIGA.i2023」との二冠を達成したが、今季はともに2位だった。主力メンバーの日本代表活動との両立や負傷者が複数出るなどチームづくりに難しさがあった1年だった。山本監督は、「うちは勝つことを求められ、優勝を使命感としているチーム」と話し、来季での巻き返しを誓った。
互いの手の内をよく知る関東のチーム同士の顔合わせとなった3位決定戦。1点を争う好ゲームから劇的な展開で、前々回覇者のパペレシアルがbuen cambioを1-0で下した。パペレシアルは「LIGA.i2024」(昨年10月~12月)を初制覇し、この日本選手権には、「今季二冠を」と意気込んでいた。だが、準決勝でコルジャに敗れ、気持ちを切り替え臨んでいた。
対するbuen cambioはここ数年、選手層が増し、チーム力も高めていた。3大会ぶりの決勝進出を狙った準決勝でfree birdに惜敗。両チームとも「勝って終わりたい」最後の戦いは終始、一歩も譲らない攻防が続いた。後半残り1分を切ったところで、パペレシアルが右コーナーキックを得た。川村怜がドリブルで運び、壁の合間から左足で値千金のゴールを叩き込んだ。試合はそのまま終了した。
川村は、「一瞬外したかなと思ったが、(ゴールを知らせる)笛が鳴って良かった」と笑顔を見せた。それまで相手の堅守に何度も阻まれていたが、会心の一発には佐々木ロベルト泉の“好アシスト”があったという。CK前に佐々木から、「あそこが開くから」と壁の狙い所を耳打ちされ、川村は「ロベルトを信じて、とにかく打った」という。佐々木は、「CKで何度もぶつかっていたら、相手の動きを感じた。(川村に)絶対いけると言ったら、キレイに入っちゃった。すごく嬉しかった」。培ってきたチームワークがつかみ取った勝利だった。
buen cambioの齋藤悠希は、「悔しい。今シーズンの集大成として臨んだが、最後の最後でやられてしまった。やばい時間帯が続いていて、一瞬のスキを突かれた。CKでの(守備の)連係までは詰めていなくて、その差が出た」と唇をかんだ。それでも相手にシュートチャンスを与えない守備など、「チーム戦術はけっこううまくいっていた。チーム全体が成長したシーズンになった」と手応えも口にした。来季での飛躍を期す。
なお、準決勝ラウンド以降の成績で決まる個人賞はMVPに加え、ベストゴールキーパー賞を泉健也(free bird mejirodai)が、得点王は7得点を挙げた矢次祐汰(A-pfeile広島BFC)が受賞した。
22チームが参加した今大会はブラサカの全国への広がりやレベルアップを感じさせる大会となった。北日本リーグ初の王者となったコルジャ仙台の躍進の他、琉球Agachiが初めて日本選手権準決勝ラウンドに進出し、ミカーレ岐阜は予選ラウンドで初の公式戦出場を果たした上に初得点、初勝利も挙げた。
来季でのさらなる盛り上がりにも期待したい。
写真/SportsPressJP・文/星野恭子