「第3回車いすテニススペシャルクリニック by プロ車いすテニス選手実行委員会」が2月8日、有明テニスの森公園インドアコートで開かれた。パラリンピアンなど第一線で活躍する車いすテニスのプロ選手らが主体となり、参加者との直接交流を通してテニスレッスンを実施した。第1回・第2回はジュニアを含めて次世代を担う若手選手の育成や強化が目的だったが、今回はより多くの人に車いすテニスを知ってもらおうと、テニス未経験者や健常者も応募可能とし、4歳から58歳までの41人が参加した。
講師は発起人の眞田卓(TOPPAN)、上地結衣(三井住友銀行)、齋田悟司(シグマクシス)、荒井大輔(BNPパリバ)、船水梓緒里(LINEヤフー)、宇佐美慧(LINEヤフー)の6人のプロ選手。開会式で眞田プロは、「パラリンピックでは日本人選手が男女とも金メダルを獲得するなど世界トップの実績を残しています。その一方で、国内の競技人口や生涯スポーツとしてはまだ発展の余地がある状況。今回のクリニックが障害の有無や年齢を問わず、車いすテニスを長く健康的に続けるきっかけになれば」と、挨拶した。
クリニックは競技レベルに応じて3つのクラスに分けて行われた。初級者から上級者のクラスでは、車いすテニスとフィットネスを組み合わせた本格的なレッスンを実施。プロ選手とのヒッティングも行い、参加者たちは真剣な眼差しでラケットを握っていた。休憩中や待機時間には参加者から講師に声をかけてレクチャーを受ける場面もあり、積極的に行動する様子が印象的だった。
今回初めて講師役として参加したクアード(三肢以上に障害があるクラス)の宇佐美プロは、「みなさん本当にエネルギッシュで、こちらもパワーをもらいました。私にとっても学びがある素晴らしい機会になりましたし、今後はクアードの人を対象としたイベントを企画してみたいなと思いました」と語った。
また、前述のように今回は多くのテニス未経験者や健常者らも参加し、体験レッスンに挑戦した。笑顔でボールを追っていた24歳の加藤順也さんは、上地プロのSNSでクリニック開催を知り、応募したという。加藤さんは東京2020パラリンピックの車いすテニス競技でボールパーソンを経験したことで車いすテニスに関心を持っていたといい、「健常者が車いすテニスを体験できる機会は少ないので参加を希望しました。テニス経験者ですが、座ってプレーするとスピードの調整やボールとの距離感が難しかった。プロ選手がどれだけすごいことをやっているのか、少し分かった気がします」と、感想を話してくれた。
当日は同じ会場の別コートで日本車いすテニス協会のネクスト・次世代育成選手の強化合宿が行われていた。その次世代育成選手には、かつてクリニックに参加した岩本希心選手や松岡星空選手らも名を連ねている。松岡選手は1月にフランスで開かれた世界ジュニアマスターズで優勝するなど、成長中だ。松岡選手は合宿の合間に取材に応じ、クリニックについて「初めてプロ選手と打ち合えたことがすごく嬉しかったことを覚えています。第2回はプロの選手から『上手くなったね』と声をかけてもらって。スイッチが入る貴重な経験でした」と、振り返った。
上地プロも「今日参加してくれた若い人たちには、自分も松岡選手ら次世代育成選手のようになれるかもしれないという希望を持てたのではないでしょうか。また、次世代育成選手たちもこういうふうに次の子たちにつないでいくんだなと分かってもらえたと思うので、みんなで協力してこの繋がりを続けていってほしいです」と、エールを送った。
クリニック終了後、眞田プロは「今回も参加者が多く、たくさんの場所で笑顔をみることができました。プロ選手も率先して活動してくれて、すごく充実したイベントになりました」と安堵の表情を浮かべた。そして、最後にクリニック開催の意義についてこう語り、締めくくった。
「ボッチャやブラインドサッカーが社会に貢献するスポーツになっているのを見て、障害がある人だけにスポットを当てるのではなくて、すべての人たちが車いすテニスを楽しめる風土を作っていかないと本当の意味で人気スポーツにはならないと感じています。プロ選手もコート上での活躍だけではなく、社会に貢献・還元していくという姿勢を持つことが大事だと思っています。多様化の時代を迎えた今、車いすテニス界は次のフェースに来ています。次回以降は、たとえば他競技とのコラボとか、デフ(聴覚障害)や義足などの立位テニスとのコラボも可能かもしれない。まだまだ発展の余地があると思うので、この輪を広げていきたいですね」
写真/植原義晴・ 文/荒木美晴