平昌パラリンピックは競技3日目の3月12日、チョンソンアルペンセンターで今大会から正式競技となったスノーボードの1種目目、スノーボードクロスが行なわれ、男子LL2(下肢・膝下障害)クラスで初出場の成田緑夢(ぐりむ/近畿医療専門学校)が3位決定戦で勝利し、銅メダルをつかんだ。日本選手がスノーボード競技でメダルを獲得するのは初めて。また、今大会の日本勢にとって3日連続となる4個目のメダルだった。
成田は今季のワールドカップ年間総合優勝を果たし、世界ランキング1位タイで今大会に臨んだ。金メダルも期待されたが、「挑戦」を目標に掲げていた成田は、銅メダル確定後の取材エリアで、まぶしいほど清々しい笑顔とともに言い切った。
「完璧なメダルです。僕にとっては。挑戦をやめなかったから、楽しかったし、挑戦してメダルがもらえたから、最高の気分です」
スノーボードクロスは雪上のF1とも格闘技とも呼ばれ、スリリングな駆け引きや接触、転倒もあるデッドヒートが魅力だ。パラリンピックでは1人で滑る予選を経て、タイム上位16人が進出する決勝トーナメントでは2選手が同時に滑り、先着したほうが勝ち上がる。
この日は気温が上がり、春スキーのような湿気を含んだ雪質で、バランスを崩す選手が相次ぐ難しいコンディション。だが、成田は「先行逃げ切り型」の持ち味を存分に発揮して、予選1本目を58秒21でトップに立つと、2本目は棄権して体力温存。2本目も成田のタイムを超える選手は現れず、そのまま1位で決勝トーナメントに駒を進めた。
トーナメント1回戦、準々決勝を順調に勝ち上がり、準決勝では前回ソチ大会銅メダルのキース・ゲーベル(アメリカ)に挑んだ。得意のスタートダッシュから直線でのスムーズな加速でリードを広げると、「インコースよりコース状況はいいはず」と、中盤ではあらかじめ決めていたアウトコースのラインを果敢に攻めた。
だが、コースの荒れ方は予想以上で、板をとられて転倒したところをゲーベルにかわされた。集中力は切らさず、すぐさまコースに戻ったものの、追いつけずに敗退。それでも、「転倒しても、挑戦した結果なので後悔はない。失敗はデータになる」と前を向いた。
「ちょっと緊張した」という3位決定戦は、ソチの覇者、エヴァン・ストロング(アメリカ)との対戦だった。転倒後のレースで守りに入る選択肢もあったが、臆することなく、あえて挑戦する姿勢を貫いた。準決勝で得たデータを元に、予想外に荒れたコースなら、あらかじめ滑走ラインを決めず、コース状況を見ながら柔軟に滑ろうと決めた。
これほどに荒れたコースは未経験で、ラインを決めない滑りも「過去に1回もやったことがなかった」が、「グリム、これが君のミッションだよ」と自分自身に語りかけ、スタートを切ったという。
得意のスタートを決めて先行すると、バランスを崩してコースを外れたストロングを置き去りにし、そのままゴールラインを突っ切った。
「自分自身によくやったと褒めてあげたい」
1歳からスノーボードを始めた成田は、2006年トリノオリンピックに出場した兄(童夢)と姉(メロ)に続けと、14年ソチオリンピック出場を目指していた19歳のとき、トランポリン練習中の事故で左脚に重傷を負い、ひざ下の感覚を失った。
夢がついえ、スポーツから離れる時期もあったが、楽しむ目的で参加したウェイクボードの大会で優勝した際、「勇気や感動をありがとう」といったメッセージが多数届いた。
「僕がスポーツをすることで、いろいろな人に影響を与えられる」――夢がまた、芽生えた。
その夢の一歩である、パラリンピックでの初レースを前に心に誓った、「見ている人がドキドキワクワクするようなレース」については、このように自己評価する。
「できたと思う。前回のパラリンピックメダリストが全員出ているし、先シーズンのチャンピオンも勢ぞろいしているこの舞台で勝ち上がれた。世界のトップと争えていたという証拠ではないかと思う」
成田にとって競技の目標は「平均点を上げること」であり、パラリンピックも、そこにピークを合わせるのでなく、理想とするパフォーマンスを追い求める中でのひとつの通過点でしかない。それでも、大舞台での1レースを達成感とともに終えたとき、「シンプルにうれしい。(パラリンピックは他の大会と)ちょっと違った。人のレースを見ていても、興奮だったり、ゴールラインを切った瞬間の盛り上がりだったり。これが、パラリンピックなのかなって。いつもよりハッピーな気がします」
ひと味違った大舞台での表彰式後、「シンプルにうれしい。想像していたより重たくて、今までもらったなかで一番重たい」と満面の笑みで胸元に光る銅メダルを見つめる心には、どんな思いが刻まれたのだろうか。
スノーボードでは16日にもう1種目、起伏やカーブのあるコースを1人で滑ってタイムを競うバンクドスラロームが予定されている。
「僕の目標は変わらない。挑戦の気持ちを忘れず、挑めたらいい」
信念はそのままに、ただ自分の滑りを披露する。その先にはまた、輝く笑顔が待っている。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko photo by Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT