2月14日~16日、Asueアリーナ大阪で「国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会(大阪カップ)」が開催され、日本、オーストラリア、カナダ、タイの女子代表チームが参加した。総当たりでの予選リーグで2勝1敗とした女子日本代表は、最終日に全3勝のオーストラリアと対戦し、41-49で敗れて準優勝。目標とした全勝優勝には至らなかったが、次世代強化指定選手が中心だった日本はポテンシャルの高さを見せ、ロサンゼルスパラリンピックに向けて大きな一歩を踏み出した。
昨年12月、添田智恵ヘッドコーチ(HC)と元安陽一アソシエイトヘッドコーチ(AHC)が就任し、新体制でスタートした女子日本代表。その初陣となった今大会は、次世代強化指定選手6人を含む平均年齢22.5歳の10人で臨んだ。その初戦の相手は、オーストラリア。昨年4月のパリパラリンピック最終予選のメンバーを揃え、今大会では優勝の最有力候補と見られていた。
いきなり大一番を迎えた日本は、出だしは緊張から動きがかたく、オーストラリアに主導権を握られかけた。しかし試合開始から1分足らずですかさず取ったタイムアウトが奏功し、落ち着きを取り戻した日本は徐々に本領を発揮。その先陣を切ったのが、チームで最も経験値の高い柳本あまね(2.5)と財満いずみ(1.0)だった。アーリーオフェンスで作ったノーマークでのシュートチャンスに、柳本が3ポイントシュートでチーム初得点を挙げれば、財満はレイアップ、ミドルシュートと立て続けに決め、チームに勢いをもたらした。
2人に続くようにして、この試合で得点源として存在感を示したのが、郡司渚名(4.0)と碓井琴音(4.5)のハイポインター陣だ。郡司は2023年の女子U25世界選手権で主力としてプレーするなど、年々力をつけてきた。それでもこれまではハイパフォーマンス強化指定の先輩たちの間に割って入る存在にまでは至っていなかったが、今大会の彼女は違った。ゴールへの執着心を誰よりも見せ、態勢を大きく崩し、相手に囲まれながらのペイントでのタフショットをもねじ込む力強さがあった。
そして今大会キャプテンを務めた碓井もまた、これまでとは一味違う姿を披露した。碓井は大学2年時から日本代表候補として合宿に招致され、19年の女子U25世界選手権では主力として活躍した。しかし、パラリンピックという舞台へはいばらの道が続いている。昨年は最終予選では代表の一人としてパリへの出場権獲得という歓喜の瞬間を味わったが、本戦では補欠メンバーとなり、世界最高峰の舞台への扉を開けることはできなかった。
パリパラリンピックの大会期間中は国内で配信を視聴しながら「次こそは絶対にこの舞台に自分が立つんだ」と決意を新たにしたという碓井。それを今大会ではプレーで証明し、初戦では2Qの前半だけで8得点を挙げ、チームを逆転へと導いた。
しかし、後半は日本のオフェンスに対応してきたオーストラリアのディフェンスに苦戦を強いられた。特にスクリーンやカットインを駆使して人とボールを動かし、相手のディフェンスを崩すことで前半は得点のチャンスを作っていた日本のモーションオフェンスに対して、オーストラリアはボールマンにだけでなく、ボールを持たない選手に対してのディフェンスも外に張り出して厳しくマークした。それによって日本はパスやスクリーンがしづらくなり、シュートチャンスが思うように作れなくなったことが要因だった。3Qはわずか6得点だった日本に対し、オーストラリアは16得点。38-46と引き離された。
今大会は国際大会の経験が乏しい若手が多く、このままずるずるといってもおかしくはなかっただろう。だが、それは杞憂に終わった。4Q残り1分半、プレスディフェンスで相手の得点をゼロに抑えた日本は、フリースローを含めて4連続得点という指揮官をも驚かせる見事な追い上げを見せたのだ。結果的に追いつくことはできなかった。それでも最大12点差を51-54と1ポゼッション差まで迫ったことについて、添田HCも「あの点差を短い時間で最後3点差にまでいったというのは驚きました」と高く評価した。
大会2日目は、カナダとタイとのダブルヘッダーに臨んだ。いずれもプレスディフェンスを軸とするチームだったが、スピードと走力、チェアスキルで上回る日本は次々とブレイク。前日に続いて好調だった郡司のほか、この日得点源となったのがチーム最年少16歳の小島瑠莉(2.5)だった。
ガードの役割も担う小島は、前日の初戦ではチームメイトのシュートチャンスを作ろうという気持ちが強すぎて「自分のタイミングでシュートが打てなかった」と言い、フィールドゴールでの得点は11分の2と4得点に留まっていた。その反省を生かし「打てるシュートは全て打つ」という気持ちで臨んだというこの日、カナダ戦ではチーム最多の17得点。タイ戦でもチーム最多のアテンプト数(18)を数え、郡司の24得点に次ぐ16得点を挙げた。
またディフェンスでも持ち味を発揮した。「流れが悪い時にもディフェンスで頑張れば次につながるので、チーム全員でディフェンスからという意識を常に持っている」と言い、初戦でもどれだけシュートが入らなくても粘り強いディフェンスでチームに貢献していた小島は、この日のタイ戦ではスティール6を誇った。
カナダに48-21、タイには51-37で快勝し、予選リーグを2勝1敗とした日本は、決勝に進出。最終日には、優勝をかけてオーストラリアとのリベンジマッチに臨んだ。
予選リーグで最大の得点源となっていた郡司が体調不良で欠場するというアクシデントがあったが、「優勝を届けよう」とチームの士気はさらに高まっていた。その先頭に立ってチームをけん引したのが、柳本だった。予選リーグでは全3試合で最多のアシスト数を誇るなど、ゲームメイクの面での柱として存在感を示していたが、この日はスコアラーとして本領を発揮。初戦とは一転してオールコートのマンツーマンディフェンスをしいてきたオーストラリアに対し、「1本目のランシューが決まった時に、今日はいけると思った」という柳本は、速攻やドライブからのレイアップを中心に得点を積み重ねてチーム最多の18得点を叩き出した。
チーム全体としても1対1の強さを見せた日本は、前半を終えて28-22とリードした。ところが後半は一転、ハーフコートに下がるディフェンスに切り換えたオーストラリアに対し、日本は苦戦を強いられた。初戦の後半よりもさらに高く張り出した厳しいマークに、日本は思うように人とボールを動かすことができず、常にタフショットを強いられた。
それでも3Qはディフェンスが外に張り出すことで中が広く空いたスペースをうまく利用し、小島や柳本がドライブで切り込むなどして得点。39-37となんとかリードを死守したが、4Qは柳本のレイアップ1本のみに終わり、41-49で敗れた。
惜しくも優勝は逃したものの、平均年齢22.5歳という若いメンバーが、しかも決勝ではスコアラーの郡司を欠きながらも、フルメンバーのオーストラリア相手に善戦。特に、アーリーオフェンスの延長として合宿で練習してきたというモーションオフェンスは見事のひと言に尽きた。今大会に出場しなかったベテランの強化指定選手にとっても大きな刺激となったに違いない。
今後はロスに向けてのチームビルディングが本格始動する。まずは今年11月のアジアオセアニアチャンピオンシップスで、来年の世界選手権への出場権を獲得することが最大のミッションとなる。添田HCと元安AHCが目指すバスケットが垣間見えた今大会をきっかけにして、女子日本代表はどのように変貌を遂げ、躍進していくのか。今後も目が離せない。
写真・文/斎藤寿子