2月6~9日、車いすラグビーの強豪国が集う国際大会「2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催され、パリ・パラリンピックで史上初の金メダルに輝いた日本が優勝を果たした。
パリ金メダルメンバーがリーダーシップを取りつつ、3年後のロサンゼルス出場を目指す若手も奮闘。新ルールへの対応と挑戦も。パラリンピック連覇という偉業達成に向け、新たな第一歩を踏み出した――。
今大会には、昨年のパリ・パラリンピックで金メダルを獲得した日本、銅メダルのオーストラリア、4位のイギリス、そして5位フランスと、世界の車いすラグビーシーンを牽引する強豪国が集結した。日本のみならず各国にとってもパラリンピック後初の国際大会(※)となり、ロス2028大会への新たなサイクルが始動したことを印象づけた。
(※次世代を担う若手の育成を目的とした国際親善大会「SHIBUYA CUP」[2024年11月開催]を除く)
試合は、4か国による総当たり戦を2回行い、上位2チームが決勝へと進むフォーマットで実施された。
「若手とベテランが組んでどれだけ戦えるか」を今大会のテーマに掲げた日本は、多種多様なラインナップを次々とコートに送り込み、フランスとの初戦で50-46と勝利を収めると、オーストラリア戦では11点差の57-46、続くイギリス戦は59-53と白星を重ねた。
この勢いのままいくかと思われたが、5試合目のイギリス戦では、第4ピリオド終盤までビハインドを背負う苦しい展開が続いた。その状況でJAPANの意地と底力を見せつけたのが、今大会で日本代表の共同キャプテンを務めた乗松聖矢と橋本勝也、そして中町俊耶、草場龍治の4人が組むラインナップだ。
ディフェンスで主導権を握り、第4ピリオド残り2分25秒で同点にすると、延長戦へと持ち込んだ。ラインナップを入れ替え臨んだオーバータイムでは、相手に先手こそ許すも、小川仁士と草場のローポインター陣に、池 透暢と白川楓也のコンビネーションが冴えわたり、56-55と接戦を制した。
続いて行われたフランスとの予選ラウンド最終戦では、48-50と初黒星を喫するも、5勝1敗の1位通過(※得失点差による)で決勝へと駒を進めた。
フランス(5勝1敗、予選2位)との決勝。経験豊富なラインナップをスタメンに起用した日本は、抜群の安定感で流れをつかみ、開始2分あまりで4点のリードを奪い、その後も主導権を握り続け29-25で試合を折り返した。後半には、パリでの快進撃につながった“ニッポン・ラグビー”がコートで体現され、そこに、若手選手が呼応する。日本が終始リードする展開で51-48と勝利で大会を締めくくり、ロスへの船出を優勝で飾った。
中谷英樹ヘッドコーチは「パリ大会から半分メンバーを入れ替え、いろいろな選手を起用し、結果として優勝することができて満足している。世界トップレベルの国との戦いで、ラインナップを変えても高いオフェンス、ディフェンス成功率を残すことができた。選手層も厚くなってきたので、ロスに向けていい結果になった」と手応えを口にした。
各国が新戦力の育成に努めるなか、日本代表は7名のパリ金メダル組を含む12名のメンバーで今大会に臨み、そのうち月村珠実と青木颯志の2名が国際大会デビューを果たした。
月村はパスやキャッチなどボールハンドリングを強みとし、15年以上にわたる競技歴から戦術理解においても定評のある、クラス1.5のローポインターだ。
強豪国との対戦を通して体感したのは、「試合の進むスピードが早い」ということ。ただ、その中で自分の狙ったディフェンスが何度かできたという手応えもあり、パスや(ランの)スピードにも、まだまだ伸びしろを感じたという。「どんどん代表合宿に参加して、国際大会にもどんどん出ていきたい。経験を積んで強くなりたい」と、力を込め、目標を語った。
月村にとって競技への大きなモチベーションとなっているのが、小さな応援団長の存在だ。出産を経験したママアスリートの月村には、今大会の期間中に3歳の誕生日を迎えた息子がいる。
「応援してくれる息子にかっこいいところを見せたい」。
試合後、応援にかけつけた家族を見つけると、競技中の集中した表情から一転、やさしい母の笑顔を浮かべた。日本の車いすラグビー界で女性選手の地位を築いてきた月村が、世界へと活躍の舞台を広げていく。
そして、今大会最年少プレーヤーとして奮闘したのが、大学1年生の青木颯志だ。
小学2年生のとき病気により車いす生活となった青木は、高校1年で車いすラグビーを始め、競技歴は3年あまり。次世代を担う若手の育成を目的とした国際大会「SHIBUYA CUP」には、日本代表として2大会連続で出場した。
クラス2.5の「ミッドポインター」ではあるが、ラインナップではナンバー2の役割を担うことも多く、得点力も求められるポジションだ。青木はボールをつなぎ、また、自らトライも奪い、その役目を果たそうと物怖じしないプレーを見せた。だが、試合後に口にしたのは「失敗したプレー」についてばかりだった。「パスを出す先が見えていなかったり、相手にプレッシャーをかけられた時、すぐにボールを捌けなかったり。いつもできているのに、なんでできないんだろう、納得がいかないという感じです」
悔しさをにじませ、表情は硬かった。
国内ではクラブチーム「アックス」に所属し、パリ・パラリンピック日本代表の羽賀理之と倉橋香衣とはチームメートだ。青木は競技を始めた頃から「パラリンピックに出場することが目標」だと語っていた。
「自分が車いすラグビーを始めたときに(羽賀と倉橋が)東京パラリンピックの銅メダルを見せてくれて、今回は金メダルを見せてもらった。メダルを見せてもらうたびに『このメダルを獲りたい』という気持ちがどんどん上がっていった」
ただその一方で、今大会で自身の現在地も確認した。「いまはパラリンピックなどと言っていられないようなレベル。一つひとつ目標をクリアしていって、レベルを上げていきたい」。
日本代表として第1歩を踏み出した青木が、目標に向けどのような成長を見せていくのか、大いに期待だ。
車いすラグビーでは今年1月に国際ルールの一部変更が行われた。主な変更点としては、ボールを持っている選手は「10秒」以内にドリブルまたはパスとしていたところ、「8秒」以内に変更。インバウンドに要する時間や、キーエリア内に攻撃側の選手が留まれる時間も、10秒から8秒へと短縮された。また、ファウルした選手がペナルティーボックスに入る時間は、これまでショットクロック(40秒)より長い「60秒」だったが「30秒」へと変更された。
タイムアウトに関するルールでは、コート内の選手が要求できる「選手タイムアウト(30秒)」(×4回)が廃止され、ベンチからコーチが要求できる「コーチタイムアウト(60秒)」のみとなった(前半・後半 各3回。旧ルールでは前後半を通して2回まで)。加えて、バックコートでピリオド残り1分を切って「タイムアウト」がコールされた場合、試合再開時のインバウンドをフロントコートに進めることができる。
さらに、女性選手がコートに入る場合の持ち点の合計(8.0以内)について、これまでは、クラスに関わらず女性選手1名につき0.5点の加算が認められていたところ、新ルールでは、クラス2.0~3.0の女性選手は1名につき1.0の加算が許されることになった(クラス0.5~1.5の女性選手は従来通り0.5の加算)。
新ルールのもと実施された今大会で、オーストラリア代表は女性選手2名(クラス2.5と3.0)が入るラインナップ(合計10.0)を起用したり、ピリオド残り1分を切ってからのラストゴールをめぐるシチュエーションでも各国が果敢なチャレンジを繰り返した。
一方で、「選手タイムアウト」の廃止により時間によるバイオレーションをとられたり、8秒以内にドリブルができず笛を吹かれたシーンでは、競技を始めたときから培われた感覚を書き換える難しさをも実感させられた。
パラリンピック後初の国際大会で優勝を果たした車いすラグビー日本代表。今年最大のターゲットは、11月にタイで開催される「アジア・オセアニア選手権」となる。来年行われる世界選手権への切符をかけた同大会で、日本は連覇を狙う。世界の頂点に立った日本ラグビーがどのように進化していくのか、その道のりに注目だ。
写真/SportsPressJP・ 文/張 理恵