パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡2025

【女子】静岡で開催のパラ水泳「ワールドシリーズ」　パリ日本代表選手が世界選手権派遣記録を突破！若手の台頭も

4月10日から12日まで3日間の日程で、日本初開催となるパラ水泳の国際大会、「ワールドシリーズ」が静岡県富士水泳場（富士市）で行われ、21の国と地域から約230選手が熱戦を繰り広げた。日本選手にとっては9月にシンガポールで開かれる世界選手権の日本代表を選考する第1次選考会にも指定されており、派遣基準記録突破など、70選手あまりがそれぞれの目標に挑んだ。

コーチと二人三脚で強化に励み、37歳にして泳ぎを進化させている石浦智美

ワールドシリーズは世界パラ水泳連盟（WPS）が2017年から主催しているシリーズ戦で、マークした記録が世界選手権やパラリンピックへの出場記録として認定されるなど重要な大会だ。世界各地で1年に8回程度開かれている。

なお、パラ水泳は運動機能障害や視覚障害、知的障害など多様な障害を対象としており、それぞれの障害の種類や程度に応じて「クラス」に分かれ、パラリンピックをはじめ多くの大会では基本的に「クラスごと」に競って順位を決める。一方、ワールドシリーズは「マルチクラス競技形式」という異なる競技形式で実施される点が特徴だ。これは、さまざまなクラスの選手が混合でレースを行い、順位は予めクラスごとに設定された特別な計算式、「WPSポイントシステム」を使って各選手の実際のタイムを「WPSポイント」に変換するもので、最も高いポイントの選手が1位となる。今大会も異なる障害クラスの選手が同じ土俵で競い合い、「刺激を受けた」という声が聞かれた。

この記事では、女子の競技の様子をレポートする。

石浦智美、辻内彩野、西田杏のパリ代表組が好成績

身体・視覚障害の選手が所属する日本パラ水泳連盟（以下、パラ水連）では世界選手権に向け派遣基準記録AとB、U21選手を対象とする同A-U2、B-U21などを設定。そのなかで、まずはパリ2024パラリンピック（以下、パリ2024大会）日本代表の3選手が結果を残した。

石浦智美（S11／伊藤忠丸紅鉄鋼）は50m自由形予選を30秒28で泳ぎ、世界選手権の派遣基準記録A（以下、派遣基準A）をクリアした。決勝では予選からわずかにタイムを落としたものの、2着でゴール。同種目のパリ2024大会金メダリストの馬佳（中国）にも競り勝つなど、好調をアピールした。レース後は「29秒台に乗せたかった」と悔しさをにじませたが、37歳となった今も進化していることを証明した。

オリンピック選手も教える高城直基コーチと今季もタッグを組む。「まだ伸びしろがある」と、腕の回転数で押し切るパワー型から、大きなストロークからひとかきで距離を延ばすスタイルに変更するなど、泳ぎの改善を進めている。石浦は「今大会を通してスタートの課題も見えたし、さらに泳ぎの精度を上げていきたい」と話し、世界選手権でのメダル獲得を誓っていた。なお、石浦は100m背泳ぎも予選で派遣基準Bを突破した。

また、パリ2024大会では100m自由形で銅メダルを獲得した辻内彩野（S12／三菱商事）が、予選で1分01秒53をマークし、派遣基準Aを突破した。アジア圏で開催される世界選手権に出場するのは初となり、「すごく楽しみ」と、笑顔を見せた。また、辻内は今大会でクラス分けを受検し、現在のS12に認定された。再受験はロス2028パラリンピック後の2029年だといい、「パラリンピックの年にヒヤヒヤせずにいられるクラスに認定されて良かった」と、安堵の表情を見せていた。

辻内彩野は力強いフォームでタイムを伸ばし、世界選手権の派遣基準記録を突破した

女子50mバタフライは決勝レースのみ実施。この種目を得意とする西田杏（S7／シロ）が派遣基準Aを切る36秒61でゴールし、優勝を果たした。自身が持つ日本記録を更新する泳ぎでレースをけん引。力強い泳ぎに場内も大きく沸き、西田は「地元開催でたくさんの声援が聞こえるなかで、気持ちよく泳げた。100点満点のレース」と、笑顔で振り返った。

一発勝負のレースで日本記録を塗り替える好パフォーマンスを披露した西田杏（中央）

18歳の前田恵麻が世界へ！ 200m個人メドレーで自己ベストを大幅更新

未来を見据える若手スイマーも躍動した。200m個人メドレーは、18歳の前田恵麻（SM9／福井工業大）が予選で自己ベストを3秒近く短縮する2分45秒78をマーク。得意の背泳ぎで後半のラップタイムを伸ばしたことが結果につながった。21歳以下のユース選手のために別に設けられた世界選手権の派遣基準B-U21もクリアし、前田は「すごく嬉しい」と、とびきりの笑顔を見せた。このレースでは、同クラスのパリ2024大会の同種目の銅メダリストと競い合うなど、世界のトップスイマーらとしのぎを削り、「一緒にレースができてすごくいい刺激を受けた」と振り返った。

前田は4歳の時に事故で左腕の肘から先を欠損。リハビリで水泳をスタートし、小学5年から本格的に取り組み始めるとメキメキと頭角を現し、ジャパンパラ競技大会などに出場。今年度は日本パラ水泳連盟の育成指定選手に選出されている。パラ水連の上垣匠強化プログラムリーダーは、「前田選手は競技歴が長いがあと一歩のところでタイムが届かなかった。今大会はユースのカテゴリーを設け、世界と戦うことで一皮むけてほしいと考えていたのでこの結果を嬉しく思う」と評価した。

知的障害の芹澤美希香が100m平泳ぎで派遣基準記録を突破

パリ2024大会では100m平泳ぎで6位入賞を果たした知的障害の芹澤美希香（SB14／宮前ドルフィン）は、今大会もこの得意種目で決勝に進出。1分20秒63で4位となり表彰台は逃したものの、日本知的障害者水泳連盟が設定した世界選手権への派遣基準記録を突破した。決勝レースではパリ2024大会の視覚障害クラス（SB11）の金メダリストのダリア・ルキアネンコ（NPA）の隣のレーンで泳ぎ、「すごく速かった。負けないように泳ごうと思った」と、振り返った芹澤。普段は一緒に泳ぐことがない異なるクラスの世界のトップスイマーから大きな刺激を受けたようすだった。